「指示権」の事態曖昧
地方自治法改定案 宮本氏ただす
衆院総務委
日本共産党の宮本岳志議員は14日の衆院総務委員会で、地方自治法改定案について、国に地方自治体への「指示権」の対象となる「事態」が極めてあいまいで政府からのまともな説明もないと批判し、「審議の前提を欠く」とただしました。
改定案は「大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合」に、国が自治体に指示できる仕組みを盛り込みます。
宮本氏は「『その他』にどのような事態が該当するか」と質問。松本剛明総務相は「特定の事態の類型を念頭に置いていない」「具体的にどのような事態が該当するかは、実際に生じた事態の規模や内容等に照らし、該当性が判断される」と答えました。
宮本氏は「何でもありということだ」と批判。あいまいな要件のもとに国の指示権を認めることについて、日本弁護士連合会も会長声明で「憲法の地方自治の本旨に照らし極めて問題」と指摘していると強調しました。
また政府は「個別法で想定されていない事態」の対応のために、法改定が必要だとしています。宮本氏は、集団的自衛権の発動要件である存立危機事態を定めた「事態対処法」で対応しきれない想定外の事態と政府が判断すれば、国が「指示権」を得られる可能性も排除されないのではないかと迫りました。
松本総務相は「対処法で想定される事態は対処法で対応する」と述べ、排除されていないか明言を避けました。宮本氏は「答弁がまともにできない。これでは審議できない」と批判しました。
(しんぶん赤旗 2024年5月15日)
動画 https://youtu.be/0lEs_c-FE2c?si=WVRLV0BjiHqlM4rh
配付資料 20240514総務委員会配付資料
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
まず冒頭、先ほどの吉川元野党筆頭理事の質疑に関わって私も聞きたいと思います。
先ほど大臣は、様々な個別法について検討の俎上にのせた上で今回の地方自治法について御提案申し上げていると答弁をされました。ならば、大臣にお伺いするんですが、吉川理事が要求された個別法全てを検討した結果の資料、必ず当委員会に提出すると約束していただけますね。
○松本国務大臣 私が法案を作成する過程で担当する部局と議論する中で様々な個別の法令でどのような取扱いとなっておるかという説明を受けたわけでございますので、個別の法令の状況については既に法律として公開をされているものでございますけれども、委員会におけるお取扱いにおいて御議論をいただいたもので、私どもとしても提出できるものについては提出をしていきたいと思っておりますが、私自身が説明を受けた中では、各個別法の概要についてはしっかりと学ばせていただいたということで、先ほどそのように御答弁させていただいたところでございます。
○宮本(岳)委員 あなたが説明を受けたものがあることは事実なんでしょうから、それは出していただかなきゃならないと思うんですね。委員会での対応が決まればそれに応えるということですから、委員長、私からも提出を求めておきたいと思います。
○古屋委員長 後刻、理事会で協議をさせていただきます。
○宮本(岳)委員 さて、先日の本会議質問でも指摘したように、本法案の最大の問題は、政府が国民の安全に重大な影響を及ぼす事態と判断すれば、国による自治体の自治事務にも及ぶ指示権を新たに導入することにあります。
法案は第十四章で国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を定めようというものでありますけれども、大規模な災害や感染症の蔓延と並んで、その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合についても、最終的には国が自治体に指示できるとしております。
一つ目の大規模災害や二つ目の感染症の蔓延はともかく、三つ目のその他というのはどのような事態なのか。これは立法事実に関わることでありますから、あらかじめそれをペーパーで提出せよ、そうでなければ審議に入れない、野党はそう要求いたしましたけれども、与党はそれは質問でただしてくれということでありました。
改めて聞きますけれども、このその他にはどのような事態が該当するのか、大臣、お答えいただけますか。
○松本国務大臣 その前に、先ほどの個別法のお話でございますが、各個別法につきましては、既に公表されている法案の内容の説明等の文書から、それぞれの法律がどのような規定になっているかということを私自身も学ばせていただいたということを申し上げたところでございます。
その上で、御質問でございますが、大規模な災害、感染症の蔓延その他のその他につきましては、大規模な災害や感染症の蔓延以外のその及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態を指しているところでございます。
大規模な災害、感染症の蔓延その他その及ぼす事態の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態につきましては、特定の事態の類型を念頭に置いているものではなく、具体的にどのような事態が該当するかにつきましては、実際に生じた事態の規模や態様等に照らし、その該当性が判断されるものでございます。
そういった中で、地制調におきましても、個別法において想定されていない事態が生じ得るものであって、これらの事態においても国、地方を通じ的確かつ迅速な対応に万全を期す観点から国と地方の関係に関する地方自治法の規定について所要の見直しを行う必要があるという提言をいただいたところで、この答申に沿って法案を御提案させていただいております。
○宮本(岳)委員 今日は、前提を欠くかどうか議論しているんですから、ちょっとすいすいと進むわけにいかないんですよ。
私が説明を受けたものはこうだったということを今おっしゃったけれども、あなたが説明を受けたものはあるんですね。それは委員会、理事会が求めれば提出できるんですね。
○松本国務大臣 国が指示をすることがある法律の内容について私が学んだときは、既にそれぞれ所管の省庁において公表されている法案の概要であり、条文等の資料に基づいて学ばせていただいたということを申し上げたところでございます。
○宮本(岳)委員 きちっとそれを全部出してくれればいいんですよ。あなたは全てを一応俎上にのせた上でこれを提案していると言うんですから、全部を俎上にのせたかどうかを私たちは見てみる必要がありますから、出していただきたい。これはもちろん理事会で協議して要求するものですけれども、存在する、確かにその説明を受けたと言うんですから、出していただきたいと思うんですね。前提がちゃんと確認できるかどうかがまさに問われている。今日、野党は本来まだ入れないですよと言ったものを、この場で聞いてくださいと言って、聞いてそこが釈然とせぬのであれば、その先に進めないんですね。
それは今のその他の類型についてもそうなんですよ。特定の類型に限定することなく、これは先日の本会議でも大臣はまさにそういう答弁を繰り返されました。どのような事態なのかと聞いているのに、特定の類型に限定しない、つまり何でもありということをおっしゃるわけですね。
大臣、あなたの答弁だからあなたに聞くんですけれども、特例と言うけれども、そもそも特例になっていないと思うんですよ。国語辞典によると、特例の意味は、一つは特別に設けた例外、二つ目は特別の場合に適用される法令、規定とあります。でも、あなたが言う特定の類型に限定しないような特例というものは、どう理解したらいいんですか。
○松本国務大臣 冒頭にお話がありました個別の法についても、私が担当の部局で学ばせていただいたのは、私自身の限られた時間の中で幾つかの法律についてということで申し上げたところでございますが、担当の部局において確認をしたものも含めて、また国会の御指示も含めて、私どもとしても真摯に誠実に対応させていただきたいと思います。
その上で、今御質問をいただいた特例ということでございますが、私どもとしては、大規模な災害、感染症の蔓延その他その及ぼす事態の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態について規定させていただいたものでありまして、この事態についてはきちっと定義をさせていただいているというふうに考えております。
○宮本(岳)委員 なかなか進めずに困るんですけれどもね。
あなたは先ほど吉川理事に対する答弁で、様々な個別法について検討の俎上にのせた上で今回の地方自治法について御提案申し上げている、こうおっしゃったわけですね。だから、あなたが限られた時間でどれだけの法律についての説明を受けたかどうかはともかくとして、総務省は、ちゃんと全部の個別法についてチェックした上で、個別法では対処できないものがあるからといって出してきたはずなんですよ。だから、それが出ないのはおかしいじゃないかと吉川さんも言ったし、私も言っているわけですね。
だから、今からでもちゃんとそれを全部出させて、そしてそういうものを提出していただきたい、国会の求めに応じてですよ。それは誠実に対応していただけますね。
○松本国務大臣 今回の、国と地方の関係に関わる法案でありますので、国と地方との関係について規定した災害対策基本法や感染症法等については既に申し上げたとおりでありますけれども、それ以外の法律についても学ぶべきところについて私も学ばせていただいたわけでありますが、国と地方の関係に関する法律に関して、検討すべきものについては検討して法律を作ったものというふうに私は理解しておりますが、委員がおっしゃるところの全部ということも含めて、どのような形での資料をお求めいただいたか、国会での御指示も踏まえて誠実に対応いたしたいと思います。
○宮本(岳)委員 押し問答をしていても始まりませんから、誠実に対応してくださいね。
それで、その他の類型について、特定の類型に限定しないでは済まないんです。言葉遊びをしているんじゃないんです。日弁連も会長声明で、曖昧な要件の下に国の指示権を一般的に認めることは憲法の地方自治の本旨に照らし極めて問題があると指摘しております。事は、日本国憲法第八章地方自治、そして九十二条、地方自治の本旨をゆがめる大問題になりかねない。
なぜこんな特定の類型すら明らかにできないようなその他というものを、大臣、入れたんですか。
○松本国務大臣 先ほどもその他についてはお話をさせていただいたところでございますので、繰り返し、重複は避けてまいりたいと思いますが、地方制度調査会におきまして、答申の取りまとめに向けた審議の過程では、想定外の事態が起きた際に個別の仕組みで対応できない場合の受皿を用意するという議論になるのではないか、重要なのは取りこぼしを防ぐという観点を持つかではないかなどの御意見もございまして、最終的にお取りまとめをいただいたものと理解し、そのお取りまとめを踏まえてこのような形で提案させていただいているところでございます。
その上で、地方自治の原則との関係につきましては、これも既にこれまでの御審議で御答弁申し上げてまいりましたように、地方自治法において地方自治の基本原則が定められていると理解をいたしているところでございますが、今回の改正案は、国と地方を通じた的確な対応が国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に対して可能となるように、現行の国と地方の関係を規定する章とは別に新たな章を設け、また、新たに設ける補充的な指示については、地方分権一括法で構築された国と地方の関係の基本原則の下で国が果たすべき役割を踏まえた限定的な要件と適正な手続を定めておりますもので、地方自治法に定める基本原則と整合性が取れたものというふうに考えております。
○宮本(岳)委員 本会議でもそういう答弁をされましたけれども、我が党は分権一括法の際も、これは地方分権とは名ばかりの、新たな地方統制法ともいうべきものと批判して反対をいたしました。地方分権一括法は地方分権を掲げておりますけれども、機関委任事務を法定受託事務として事実上温存し、国の指示、代執行などの強力な関与を導入するとともに、自治事務に対しても是正の要求を導入してまいりました。現に、政府が沖縄で県民の民意も地方自治も無視して強権的に名護市辺野古への米軍新基地建設を強行している事実を見れば、地方分権が名ばかりであったことは明瞭だと思うんですね。
その上で、地制調がそういうことを言っている、これは本会議の答弁でもそうでありました。一つ一つ厳密に議論したいんですね。では、第三十三次地制調の答申のどこに、特定の事態の類型に限定するべきではないと。つまり特定の事態の類型に限定せずに指示権を定めるべきだと、どこに書いてありますか。
○山野政府参考人 お答えいたします。
地方制度調査会の中で議論としてありましたのは、重要なのは取りこぼしを防ぐという観点を持つかであり、それを防ぐためには、類型化できない想像を超えるような非平時を考えるかどうかの問題であって、想定できる範囲で検討するとすればそれは地方制度一般に関することではなくなるのではないかというような意見、それから、個別の仕組みで対応できない場合の受皿を用意していくという議論になるのではないか、こういった御意見を踏まえて今の答申がまとめられているというふうに考えているところでございます。
○宮本(岳)委員 この最終答申を取りまとめた直前に開いた第四回総会というものの中身、議事録を私は今日は資料配付をしておきました。第四回総会で示したものの資料を今日は二つ目につけてあります。資料二で提出をしております。
これは、様々な議論を山本委員長が取りまとめたときのやり取りをここに書いているんですね。これを受けて最終答申が取りまとめられたということでありますけれども。先ほど来委員の先生方からいただいた言葉を使えばバランス、両立をどう取っていくかと。こういう言葉が出てきましてですね。そこには確かにジレンマがあり、また非常に微妙な問題である、こう述べておられます。
このバランスとか両立というのは、これは地方自治の本旨と危機対応の両立、バランスのことですよね。山本委員長はそう述べた上で、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態は何か、さらに具体的に書けるかどうかが問題になりますけれども、なかなか難しいところがございますと言い、結論は、そのような悩みを持ってこのような要件を書きました、ということはこれは極めて限られた例外的な事態であると私たちは考えたと述べております。
しかし、政府が提出した法案は、その他の範囲や内容を限定するどころか、事態の類型を限定せず、政府が事態の規模や態様等に照らして判断すれば何にでも使える、それはおろか、おそれがある場合でも何にでも指示権が使える、こういうものになっている。これは地制調の議論とも違うんじゃないですか、いかがですか。
○山野政府参考人 お答えいたします。
地制調では、今御指摘のような御意見があった上で、その要件、手続等について、新型インフル特措法、災害対策基本法等の危機管理法制において国が指示を行う際の要件等を参考として、国の役割が適切に果たされるように設定する必要があるという御指摘がございました。その中では、要件について、その事態が全国規模である場合ですとか全国規模になるおそれがある場合、あるいは局所的であっても被害が甚大であるなどの事態の規模や態様、それから地域の状況その他の当該事態に対する状況を勘案して的確かつ迅速に実施することが必要であると認められるときとすべきであるというふうにしているわけでございます。
私どもは、この地方制度調査会の答申の御指摘を踏まえまして改正案を作ったところでございます。
○宮本(岳)委員 いや、踏まえていないというんですよ。私は、最終答申の直前にやった総会での山本委員長の議事録を御紹介しているんですよ。そんな、何でもオーケーですよなんて議論はやっていないと思うんですね。
それで、事態対処法についても入るのかということも本会議では議論になりました。大臣は、事態対処法というのは、個別法で対応できるものは個別法ということで、想定されないという答弁をされているんですね。
大臣にこれは改めて、もう時間が来たと思うので最後の問いになると思いますけれども、事態対処法、私たちはこの法律には断固反対の立場ですけれども、個別法に定めてあれば個別法で対応するなんということは当然のことなんです。しかし、災害対策基本法でも新型インフルエンザ特措法でも、個別法があっても個別法の規定で対応できない場合に今回のこの規定を使うというんですから、当然、事態対処法でも対応し切れない想定外のことが起きた場合には、また、起こり得ると判断すれば、同じように指示ができる、排除されない、これは事実ですね、大臣。
○松本国務大臣 個別法で想定されていない事態で、国民の生命等を保護しなければいけないとき、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれのある場合に補充的な指示を出すことを可能としているものでありますけれども……(宮本(岳)委員「端的に」と呼ぶ)はい。対処法で想定される事態について、対処法で対応するものであるものについて、本法案による対応をすることは考えていないというふうに本会議で御答弁申し上げたかというふうに理解しております。
○宮本(岳)委員 排除されるんですかと聞いているんです。それを一言答えてくださいよ。排除されるんですか。
○松本国務大臣 個別法で対応できるところについては当然個別法で対応するということを申し上げたところでございます。
○古屋委員長 申合せの時間が来ております。
○宮本(岳)委員 前提を欠きます。全然答弁がまともに出ないじゃないですか。
こんなまま審議を続けることはできないと申し上げて、今日のところは質問を終わります。