地方自治を国従属に変容
「指示権」導入の改定案審議入り
宮本岳志議員が批判
政府が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば、国が地方自治体に対し発動できる「指示権」を新たに導入する地方自治法改定案が7日の衆院本会議で審議入りしました。日本共産党の宮本岳志議員は「憲法が保障する地方自治を踏みにじり、地方自治体を国に従属させる関係に変えるもので断じて許されない」と批判しました。(関連記事)
宮本氏は、戦前の中央集権的な体制下で自治体が侵略戦争遂行の一翼を担わされたことへの反省から、日本国憲法に独立の章を設け地方自治を明記し、自立した地方自治体と住民の政治参加の権利を保障した背景に言及。ところが同法案は、国の指示・代執行などの強力な関与を導入する「法定受託事務」ばかりか、「自治事務」にまで国が指示できる仕組みを設けるものだと指摘。災害やコロナを例示しているが、指示権発動の要件とする「重大な事態」の範囲が極めてあいまいだとして「時の政府の勝手な判断となるのではないか」とただしました。
松本剛明総務相は指示権について、「地方自治法上の関与の基本原則にのっとり、厳格な要件を設けている」と強弁しました。
さらに宮本氏は、すでに政府が沖縄で民意も地方自治も無視し、知事の権限を奪う「代執行」にまで踏み切り、米軍辺野古新基地建設を強行したと批判。「安保3文書」に基づき政府が進める空港・港湾の軍事利用拡大のための公共インフラ整備でも、国が必要と判断すれば自衛隊の優先使用の「指示」が可能になると指摘。新型コロナ対応では一斉休校など国の一律の指示が現場に混乱を持ち込み、能登半島地震では下水道がいまだに復旧されていない現状に触れ、「国に求められていることを行わず、災害やコロナに乗じて、地方自治破壊の仕組みを導入するなど断じて容認できない」と廃案を求めました。
(しんぶん赤旗 2024年5月8日)
動画 https://youtu.be/RAJbWY2UZ7A?si=I7A1K0RdCECmar89
地方自治法改定案
宮本岳志議員の質問(要旨)
衆院本会議
日本共産党の宮本岳志議員が7日の衆院本会議で行った地方自治法改定案に対する質問の要旨は次の通りです。
本法案の最大の問題は、政府が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば、国の地方自治体に対して発動できる「指示権」を新たに導入することです。
日本国憲法は、戦前の中央集権的な体制のもとで自治体が侵略戦争遂行の一翼を担わされたことへの反省から、独立の章を設けて地方自治を明記し、自立した地方自治体と住民の政治参加の権利を保障しました。ところが歴代自民党政府は、自治体の権限や財源を抑制し、1999年の地方分権一括法では、「地方分権」を掲げながら、機関委任事務を法定受託事務として事実上温存し、国の「指示」「代執行」などの強力な関与を導入してきました。創設される政府の「指示権」は、法定受託事務ばかりか自治事務にまで国が自治体に「指示」できる仕組みを設けるものです。
災害やコロナを例示していますが、「重大な事態」の範囲はきわめて曖昧です。時の政府の勝手な判断となるのではありませんか。憲法が保障する「地方自治」を踏みにじり、地方自治体を国に従属させる関係に変えるものであり、断じて許されません。
すでに政府は沖縄で、民意も地方自治も無視し、名護市辺野古への米軍新基地建設を強行しています。玉城デニー県知事が公有水面埋立法に基づき、沖縄防衛局が提出した設計変更申請を不承認としたのに対して、国民の権利救済を目的とする「行政不服審査法」を悪用して覆し、代執行にまで踏み切りました。住民自治も団体自治も踏みにじっている認識がありますか。
政府は「安保3文書」に基づき、空港・港湾の軍事利用拡大のための公共インフラの整備をすすめています。「国民の生命・財産を守る上で緊急性が高い場合」に「自衛隊・海上保安庁が柔軟かつ迅速に施設を利用できるよう努める」ことを条件として、国が整備費用を負担するとしています。政府は自治体に自衛隊の優先使用を強制するものではないと説明していますが、国が必要と判断すれば、優先使用を「指示」することが可能になるのではありませんか。
政府は「想定外の事態」に対応するためといいますが、新型コロナ対応では全国の学校の一斉休校など、国の一律の指示が現場に混乱を持ち込みました。能登半島地震の発災から4カ月、依然、下水道は通らずNHKさえ映らない地域があります。待たれているのは、頭ごなしの国の「指示」ではなく、被災自治体の要望に応えることです。国に求められていることをやらず、災害やコロナに乗じて、地方自治破壊の仕組みを導入するなど断じて容認できません。廃案を求めます。
(しんぶん赤旗 2024年5月8日)
議事録
○宮本岳志君 私は、日本共産党を代表して、地方自治法改定案について質問いたします。(拍手)
本法案の最大の問題は、政府が国民の安全に重大な影響を及ぼす事態と判断すれば、国の地方自治体に対する指示権を新たに導入することです。
日本国憲法は、戦前の中央集権的な体制の下で自治体が侵略戦争遂行の一翼を担わされたことへの反省から、独立の章を設けて地方自治を明記し、自立した地方自治体と住民の政治参加の権利を保障いたしました。
ところが、歴代自民党政府は、自治体の権限や財源を抑制し、一九九九年の地方分権一括法では、地方分権を掲げながら、機関委任事務を法定受託事務として事実上温存し、国の指示、代執行などの強力な関与を導入し、自治事務に対しても是正の要求を導入してきたのであります。
その上、今回の法案によって創設される政府の指示権は、法定受託事務ばかりか、自治事務にまで国が自治体に指示できる仕組みを設けるものです。災害やコロナを例示していますが、重大な事態の範囲は極めて曖昧です。しかも、その判断は、結局、時の政府の勝手な判断となるのではありませんか。これは、憲法が保障する地方自治を踏みにじり、地方自治体を国に従属させる関係に変えるものであり、断じて許されません。
既に政府は、沖縄で、県民の民意も地方自治も無視し、名護市辺野古への米軍新基地建設を強行しています。
玉城デニー県知事が、公有水面埋立法に基づき、沖縄防衛局が提出した設計変更申請を不承認としたのに対して、国民の権利救済を目的とすべき行政不服審査法を悪用して覆し、代執行にまで踏み切りました。玉城知事は、県が法律にのっとって提起すれば門前払いし、国は法律を恣意的にゆがめる、行政法学の先生方が行政不服審査は国の機関に認められるべきではないと言っていたにもかかわらず、ひっくり返されたと発言しています。
新基地建設をめぐって、住民自治も団体自治も踏みにじっている認識が政府にありますか。
今、政府は、安保三文書に基づき、空港、港湾の軍事利用拡大のための公共インフラの整備を進めています。国と自治体が確認書を交わし、国民の生命財産を守る上で緊急性が高い場合に、自衛隊、海上保安庁が柔軟かつ迅速に施設を利用できるよう努めることを条件として、国が整備費用を負担するとしています。
政府は、あくまで、自治体に自衛隊の優先使用を強制するものではないと説明していますが、本法案によって、国が必要と判断すれば、優先使用を指示することが可能になるのではありませんか。
政府は、今回の法案を、想定外の事態に対応するためと言いますが、新型コロナ対応では、全国の学校の一斉休校など、国の一律の指示が現場に混乱を持ち込みました。その反省はないのですか。
私は、この法案審議を前に、能登半島地震の被災地に入りました。復旧や復興のための自治体相互の支援は、本当に頭の下がるものでした。しかし、発災から四か月、依然、下水道は通らず、NHKさえ映らない地域があります。人口減少していく地方を切り捨てる不安も広がっています。
被災自治体で待たれているのは、頭ごなしの国の指示ではありません。被災自治体の要望に応えることであり、そのための必要な人的、財政的支援です。相次ぐ災害の教訓から学ぶべきは、自治体職員を減らし過ぎたということではありませんか。
国に求められていることをやらず、災害やコロナに乗じて地方自治破壊の仕組みを導入するなど、断じて容認できません。廃案を求め、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣松本剛明君登壇〕
○国務大臣(松本剛明君) 宮本議員から、七問御質問いただきました。
まず、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の範囲と、その判断の在り方について御答弁申し上げます。
本改正では、第三十三次地方制度調査会の答申に沿って、特定の事態の類型に限定することなく、大規模な災害、感染症の蔓延やその他その被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を設けることとしています。
具体的にどのような事態が該当するのかは、実際に生じた事態の規模や態様等に照らし判断されることとなりますが、災害対策基本法、新型インフル特措法などにおいて国が役割を果たすこととされている事態に比肩する規模の事態を想定しています。
なお、補充的な指示については、その要件とともに、事前の自治体に対する資料、意見提出の求め等や、閣議決定といった適正な手続を規定しています。
次に、地方自治との関係についてお答えいたします。
本改正案は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方の関係について、地方分権一括法で構築された国と地方の関係の基本原則にのっとって規定するものです。
補充的な指示についても、地方分権推進計画や地方自治法上の関与の基本原則にのっとって厳格な要件を設けているものであり、憲法が保障する地方自治を踏みにじる等の御指摘は当たらないと考えています。
次に、普天間飛行場の辺野古移設についてお答えいたします。
御指摘の審査請求及び代執行については、行政不服審査法及び地方自治法に基づいて行われたものであり、代執行に関しては、本年二月、最高裁判所が沖縄県の上告を受理しないとの決定をし、県に埋立地用途変更等の承認を命じる判決が確定したものと承知しています。このため、住民自治、団体自治を踏みにじるとの御指摘は当たらないと考えています。
その上で、防衛省において、様々な機会を通じ、地元への丁寧な説明を行い、沖縄県とも対話を図っているものと承知しています。
次に、総合的な防衛体制の強化に資する公共インフラ整備との関係についてお答えいたします。
補充的な指示は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態において、事態の規模、態様等を勘案して特に必要があると認めるときに、国民の生命等の保護を的確、迅速に実施するために講ずべき措置に関し、個別法に基づく指示ができない場合に限って必要な指示ができるものです。
一方、公共インフラ整備の取組は、平素における空港、港湾の柔軟かつ迅速な利用について、空港法や港湾法などの既存の法令に基づき、関係者間で連携し、調整するための枠組みを設けるものと承知しています。
このため、この枠組みにおいて、自衛隊などの優先利用のために補充的な指示を行使することは想定されていないものと承知しています。
次に、一斉休校の要請との関係についてお答えいたします。
新型コロナ対応における全国一斉休校の要請は、地方教育行政法に基づく指導、助言として行われたものであり、その結果の分析は文部科学省において実施されているものと承知しています。
補充的な指示の行使に当たっては、自治体と十分な情報共有、コミュニケーションを確保することが重要であると考えており、本改正案では、補充的な指示を行う際には、あらかじめ、自治体に対する資料、意見提出の求め等、適切な措置を講ずるように努めなければならないこととしております。
最後に、自治体職員の配置について御答弁申し上げます。
近年では、一般行政部門の常勤職員は、平成二十六年を境に九年連続で増加しており、令和六年度地方財政計画においては、職員数全体で一・四万人の増としています。
各自治体においては、行政サービスを適切、十分に届けるために必要な定員を確保しなければならない一方、公務員の人件費等は住民の負担になるため、適切に定員管理を行うことが重要と考えております。(拍手)