国に「特権的指示権」
地方自治法改定案 参考人が批判
衆院総務委
地方自治法改定案の参考人質疑が21日、衆院総務委員会で行われました。専修大学の白藤博行名誉教授は、曖昧な要件のもと国に「指示権」を授権するのは「白紙委任」であり、「憲法と地方自治法を理念的・構造的・機能的に破壊する」ものだと批判しました。
政府は「個別法で想定されていない事態」の対応のために法改定が必要だとしています。日本共産党の宮本岳志議員は、地方制度調査会の議論でも「想定されない事態が法律でどう扱えるのか定義が難しい」とした意見が出ていると指摘。集団的自衛権行使の要件とされる「存立危機事態」に対処するための「事態対処法」で対応しきれない「想定外の事態」が起きた場合にも、国は「指示権」を得られるのかと質問しました。白藤氏は「当然(発動要件に)入ってくる」と答えました。
宮本氏は「朝日」が社説(18日付)で「地方の危機感が見えぬ」と論じ、「もっと地方の声を聞く機会を求めてはどうか」と提案していると指摘。全国知事会会長の村井嘉浩宮城県知事は「地方の側からすると当然の主張だ」と答弁しました。
宮本氏は、すでに政府が沖縄県では知事の権限を奪う「代執行」にまで踏み切り、米軍辺野古新基地建設を強行していると述べ、「今回の『指示権』の拡大で、国と自治体の対立はより深刻化するのではないか」と質問。参考人からは「国と自治体の長期にわたる法的紛争につながりかねない」(中央大学の礒崎初仁副学長)、「これまでも国は県知事が対話を求めても応じてこなかった。自治体との『協議』もないままに『特権的指示』が行使されることになる」(白藤氏)と相次いで懸念が示されました。
(しんぶん赤旗 2024年5月22日)
地方自治法改定案
白藤参考人の陳述(要旨)
衆院総務委
専修大の白藤博行名誉教授が21日の衆院総務委員会で、地方自治法改定案について行った意見陳述の要旨は次の通りです。
法案では「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例」を新設しますが、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」(非平時)とは一体何なのか、概念的な曖昧さが残ります。
「個別法の規定では想定されていない事態」が念頭に置かれていますが、専門行政領域ごとの個別法でも想定できない事態であれば、地方自治法という一般法でも想定できるはずはありません。地方自治法において、およそ想定し得ない事態を想定して、その事態に対する権限を一般的・抽象的に行政権に授権することは、いわゆる「白紙委任」であり、行政の授権と統制の法として、できるだけ要件と効果を厳密に定めようとする行政法の世界では想定しがたいことです。
地方制度調査会専門小委員会では「非平時」の範囲について、自然災害、感染症、武力攻撃が同時・並列的に議論されてきました。この議論にのっとれば、当然に「武力攻撃」等が「非平時」の範囲に含まれることになります。例えば「存立危機事態」(集団的自衛権行使の要件)に対処するための「事態対処法」などで想定されていない事態が起きれば、それは指示権の「発動要件」に該当するのではないでしょうか。
「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」の範囲が「被害の程度」に着目した概念である限り、おのずと国の「指示権」発動の範囲も無限定に広がります。「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」というのは「発動要件」としては無内容な規定だと言わざるを得ません。
また、国の関与を最大限抑制すべき「自治事務」と「法定受託事務」を一緒にしてしまっています。事務処理の適法・違法も問わず、関与の事前・事後の区別もありません。到底、「地方分権改革」の趣旨に合うものではありません。
地方自治法の趣旨・目的に逆行する「逆分権化」の徴候が見られます。憲法及びその付属法であるとされる地方自治法を理念的・構造的・機能的に破壊する改定です。緊急事態においてこそ徹底した分権化を図り、むしろ自治体が司令塔になって第一義的に事態に対処すべきです。緊要なのは「危機管理の国化・集権化」ではなく「危機管理の現場化・地域化」です。
(しんぶん赤旗 2024年5月22日)
動画 https://youtu.be/btS2O8F46ko?si=T0yVhRoeIO7IFK8i
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
五人の先生方、本当にありがとうございます。議論も本当に深まっていると思います。私の方からも御質問させていただきまして、できるだけ端的に、問い数も多くやり取りをさせていただきたいと思います。
個別法で想定していないような問題にどう対処するか、何であるか言えるならば個別法を変えればよい、分からないから想定外だ、これはなかなかジレンマであり悩みどころだと、山本先生も繰り返しおっしゃっております。
先日の委員会でも、私は山本先生の第四回総会での発言を紹介させていただきました。こういうものをどう扱うかというのは大テーマだと思うんですね。先ほども白藤先生の方からもお話がございました。行政法の専門家であり、そしてドイツ、ヨーロッパ法の研究者でもある山本先生がこの問題を、なぜこういうふうに、想定されないにもかかわらず、大臣の方では事態の類型に限定することなくというような法をこの自治法に書き込むというのはどういう理屈になっているのか、まず山本先生の方からお答えいただきたいと思います。
○山本参考人 お答えをさせていただきます。
私の研究テーマとの関係で申しますと、リスクに対してどのように対応するかということがございます。リスクというのはいろいろな意味があるのですけれども、とりわけ難しいのは、人間の知見には限界がある、それを踏まえた上でどのように制度を考えていかなくてはいけないのか、どのように対応していかなくてはいけないのかということかというふうに思います。
先ほどドイツ、ヨーロッパ法という話がございましたけれども、EUは、ここのところの立法を見ていましても、なお人間の知見の限界に対してどのように対応するかというので非常に積極的な制度化をしているということでございます。日本の場合は、私の見るところ、それに比べると、最近、ようやくと言ってはなんなんですけれども、いろいろな制度づくり等の議論が始まっているというふうに認識をしております。今回の地制調の議論に関しましても、非常に大きく、私の関心からいえば、そういったことにつながっていく議論だったのではないかというふうに考えております。
以上です。
○宮本(岳)委員 今一応先ほどの白藤先生の問いかけに対するお答えをいただけたと思うんですけれども、白藤先生、何かございますか。
○白藤参考人 難しい問題なんですが、僕は基本的には個別法の問題は個別法で解決するというのが筋だろうと。そして、個別法で想定できないことだったら、やはり想定できないんじゃないかということですね。それを一般法である地方自治法の中に組み込めばあたかも解決できるというのは、ちょっとした妄想じゃないかなというふうに思っております。
一九九九年の地方自治法の改正のときの議論を思い出してみても、一般法である地方自治法の中に是正の要求だとか是正の指示だとか、権力的な関与であっても地方自治法を直接根拠として関与権を発動できるんですよというふうに入ったわけなんですが、そのときの議論を思い出すと、地方自治法がその要件と効果を例えば是正の要求や是正の指示について書いているのは、いわばですよ、いわば個別法としてそういう要件、効果を書いているんだと。ですから、一般法主義で何か問題を解決するという意味じゃなくて、個別法主義がやはり貫かれていると思うんですね。
今回の二百五十二条の二十六の三のところでも、国が対応すべき生命等の保護の措置、これも個別法に書かれているというのが前提のようでありますし、もちろん適切な普通地方公共団体が対応するのもまずは個別法の対応が前提となっている、そのように考えれば、そういった個別法で解決できるような問題、あるいは想定できないような問題であっても、まずはそこで考える。
ただ、山本参考人がおっしゃるように応急措置として、個別法を待っておれない場合があるだろう、それは応急措置として、また特例として対応するんだから、そこのところは、勘弁してくださいよという言い方ではないんだけれども、大変、行政法的には恐らく悩まれたところだと思うんですが、こういった対応を示されたものと思っております。差し当たり、それぐらいです。
○宮本(岳)委員 確かに、個別法で想定されないようなものを一般法で定めるというのはなかなか悩ましい問題なんですね。とりわけ、先生、恐らく地制調でもずっと、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態というものを議論するときに、当初は、国民保護事案、事態対処法、国民保護法、こういう具体名も挙げてやってこられたと思います。地制調の資料もそのようになっております。
第十八回以降そういう言葉は表には出なくなったと私たちは認識しているんですが、これが一つの論点になっていまして、先日もそうだったんです。
事態対処法等で定められている武力攻撃事態等や存立危機事態への対応については、それぞれ想定される事態について法律で必要な規定が設けられておりと。要するに個別法に定めがあるから想定されていないという答弁が本会議で出た。それはそうですよ、個別法で想定されているものは個別法でやるというのは言うまでもないことであります。しかし、事態対処法についても個別法で定められていない想定外のことがあったらこの一般法の規定を使うんでしょう、つまり排除はされないんでしょう、こういうふうに私は前回も最後まで松本大臣に聞いたんですが、排除されないとはおっしゃらずに、大臣は個別法で対応するものは個別法で対応すると言うだけで、排除するとはおっしゃらなかった。
私は、法のたてつけとして当然、もちろん感染症でも災害でも個別法で対応するものは対応するんですよ、できないところを論じているんですよ、では事態対処法も想定できないものが出てきたら排除はされない、これが使われる、趣旨としては当然のことだと思うんですが、山本先生、それでよろしいですね。
○山本参考人 お答えをいたします。
地制調でも、想定できないということを前提に議論するというのは非常に難しい課題でして、当時も、やはり想定されない事態というのは多様であり得るので、それはどのように考えたらいいのかといったような議論もございました。それで、今御質問いただいた点に関しましては、これは、そもそも個別法に書かれていること、個別法で想定されていることは個別法で対応する、そこで想定されていないことについては要件の下で対応するということでして。
ただ、これは、私も直接具体的なところまでは考えてはいないのですけれども、当然指示権を発動するという場合にはそれによって有効な措置が取られる、要するに国が地方公共団体に対して指示権を発動することによって事態に対して有効な措置が取られる、有効な対策になる、対応になるということが前提でして、そうならないものについては指示をしても結局は不適切な指示、もっと言えば必要のない指示ということになってしまいますので、それはこの法律の下ではできないということかと思います。恐らくそういったことも考えて、つまり、かなり大きな枠組みで考えないと、なかなか指示というだけでは対応できないということを考えて、そのような答弁をされたのかなというふうに私は推測しておりますけれども、それ以上はよく分かりません。
○宮本(岳)委員 端的に、排除はされないですよね、先生。
○山本参考人 適切な措置を取り得るかという点で申し上げると、私は非常に考えにくいのではないかというふうに思います。
○宮本(岳)委員 またまた松本大臣と余り変わりないような答弁が続くんですが、白藤先生、いかがでしょう、この法律をどう読むべきか。
○白藤参考人 冒頭の陳述でも申し上げましたが、例えば一般的、抽象的に存立危機事態というのではなくて、存立危機事態が私たち国民に直接深刻な影響を与えたり、日本国が攻撃されたと同じような被害が想定される、そのような事態というのは当然入ってくるわけですね、想定されない事態として。ですから、今、山本参考人がお答えになったのは、お答えしにくいんでしょうが、そういうお答えしにくい質問をするというのもどうかと思いますが、想定されていない事態に国が役割を果たさなきゃいけない、そういう問題の立て方というのが正しい立て方で、そのときに、今回何で一足飛びに、特権的な指示と私は言っていますが、特例的指示に行くのか。
例えば、関与の類型の中には、二百四十五条、地方自治法を見てください、関与の類型の第一号がずっと書いてあって、第二号に協議というのがあるんですね。例えばこんな事態だからこそ協議をまず第一にして、協議を第一義的にするのが僕は筋だと思うんですね。ところが、今回の法案を見てください、二百五十二条の二十六の五、生命等の保護の措置の指示というのは、指示するんだけれども、その前にできたら努力義務として意見を聞いてあげなさいよ、協議でも何でもないんですよ、聞いてあげなさいよというような、そういうような態度の仕組みなんですね。
ですから、そういうふうなところに一足飛びに行くというのが、幾ら不測の事態だとかいっても行き過ぎじゃないのということだと思うんですね。だから、全体に議論がずれているようなところもあるんだけれども、基本的にはやはり、国が我々が想定できない不測の事態が起こったときに何らかの役割を果たすということは重要なことなんだけれども、その役割の果たし方が間違っているんじゃないの、法的な構想として間違っているんじゃないのというところが最大の問題だと思います。
以上です。
○宮本(岳)委員 しっかり地方の実情に合わせて、まずは聞くというのは当たり前で、そして協議を行うというのは当たり前のことだと思うんですけれども。
五月の十八日付の朝日は社説を掲げまして、「地方の危機感が見えぬ」というふうに論じました。知事会も一定の配慮がなされたことは評価したいとコメントしていると。今日の参考人として村井知事が出席されるということも挙げた上で、自治の現場代表としてもっと地方の声を聞く機会を求めてはどうかという提案をこの社説はしておるんですけれども、村井知事、この社説に対してどうお答えになりますか。
○村井参考人 我々の声をしっかり聞くべきであるというのは、地方の側からすると当然の主張だというふうに思います。
○宮本(岳)委員 地方に重大な影響を与える法案ですから、地方の意見を聞くことは当然のことだと思うんですね。先ほど、礒崎先生の方からも、安全影響事態における指示権は逆効果になるのではないか、対立がある場合に国が指示権に基づいて自らの方針を押しつけると、国と当該自治体の対立はより深刻化して一層事態が悪化するという御指摘がありました。
私もこういうふうに聞くとぴんとくるのは沖縄の事態でありますけれども、私は沖縄の意見も聞く必要があるというふうに痛感をしております。この点について礒崎先生と白藤先生から御意見をお伺いしたいと思います。
○礒崎参考人 お答えいたします。
御指摘のとおり、指示権というのは、問題を解決するよりも、むしろ難しい問題を生じさせるのではないかというふうに思います。沖縄の件でございますが、私も、沖縄について本当は沖縄の立場、歴史を十分考えて協議を尽くすべきだというふうに思っておりまして、それをああいう形で法廷闘争の形にされたということには問題があるように思っております。今回の指示権が同様の国と自治体の長期にわたる法的紛争といったことにつながりかねないのではないか、その点を懸念しているところでございます。
○白藤参考人 沖縄の問題だけを直ちに今回の問題と直結させて議論してはいけないとは思うんですが、私自身、辺野古訴訟に八年余り関わってきまして、沖縄の苦悩は十分承知しているなというふうに自分では思っております。それでも本当の苦しみはよく分かっていないんだと思いますが。
沖縄は、前の前の大田知事のときに少女暴行事件が生じて、県民の怒りは本当に頂点に達して、当時、職務執行命令訴訟というのに至る経緯があったり、今回もまた、危険極まりない辺野古の海の埋立て、事実として国の側が例えば軟弱地盤に関してどこまで承知していたかよく分かりませんが、見つかった、発見されたというその後でも強行している、沖縄の県知事が幾ら対話を、協議ですね、対話を求めても対話に応じようとしない。つまり、地域の悩みとか地域の苦悩に対して向き合わない国の姿勢がはっきりとこの辺野古訴訟で現れたものだというふうに承知しております。
ですから、今回も、国が指示権を行使する、その指示権が、例えばですよ、事前の協議をしっかりするとか対話をしっかりするとかいう条項が入っておればまだしも、努力義務で、努力しなきゃ違法になるというふうに山本さんは言われましたが、それはそうかも分かりませんが、努力したふりをすればできるわけですね。ですから、法的に見ると、特権的指示というものが、しかも国民の安全に重大な影響を及ぼす事態という極めて曖昧な要件の下で行使されることになるということは大変遺憾に思います。
したがって、沖縄の事態と今構想されている立法との間に通奏低音として流れているのは、地域で生じていることは地域でまずは考えましょうよねという地方自治の理念とかいったものをどこまで考慮するかという問題だと思うんですが、それがなかなか見て取れないというのが残念だというふうに思っております。
○宮本(岳)委員 私は、是非とも法案の審議に当たっては沖縄において地方公聴会を開くべきであるということを理事会でも申し上げてまいりました。しっかり地方の声を聞く必要があると思います。
最後ですけれども、牧原先生が地制調で議論をされまして、これも新聞に載っておりましたけれども、例の安倍晋三首相の一斉休校、ああいうことを二度とやってはならない、今度の法律があれば、一斉休校のときにこの規定があれば官邸内でやり過ぎじゃないかと考え直す根拠になったのではないかとおっしゃっているんですが、今回の法改正を見ますと、地方教育行政法、地教行法も指示が出せるとなっておりまして、考え直すきっかけになるどころか法的根拠を与えることになっているんですけれども、山本先生、これは牧原先生のおっしゃっていることと逆のことになっていないですか。
○山本参考人 お答えをいたします。
牧原先生が言われたことは、先ほどもちょっと申しましたけれども、今回、指示に関して明確な要件を定めて、先ほど手続についてちょっと話がございましたけれども、確かに努力義務ではあるのですが、努力義務にもいろいろございまして、今回の法案においては、あくまで関与は必要最小限でならなければならないという基本原則をいわばベースに持った努力義務ですので、やはり私はそれは重い意味があると思っております。
そのような要件と手続を明確に定めた上で指示というのは行わなくてはいけないということですので、私はその意味では縛りがかかることになるのではないかというふうに思います。当時の状況では明確に国の側がこれは責任を持つんだという決定の仕組みがありませんでしたし、そのための要件や手続の縛りも特に法的に定められていなかった、そこのところを今回は手当てした、そういう評価かと思います。
○宮本(岳)委員 時間が参りましたので、終わらせていただきます。
五人の先生方、ありがとうございました。