集団的自衛権 事態対処法「除外せず」
宮本岳志氏質問に政府認める
衆院総務委
総務省は23日、地方自治法改定案で、国が自治体に「指示権」を行使できる「個別法で想定されていない事態」について、集団的自衛権の発動要件である存立危機事態を定めた「事態対処法」も除外されないと明らかにしました。日本共産党の宮本岳志議員の衆院総務委員会での質問に認めました。
改定案は、政府が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば、個別法に規定がなくても、自治体に「指示権」を行使できる仕組みを導入。これまで事態の類型として、大規模災害や感染症のまん延しか示されていませんでした。
宮本氏は、改定案の対象範囲に「事態対処法も排除されないのではないか」とただすと、総務省の山野謙自治行政局長は「除外するものではない」と認めました。
また宮本氏は、自衛隊などが空港・港湾を軍事利用できる「特定利用空港・港湾」について、国と地方自治体との合意ベースで運用するとされているが、「(改定案で)想定外の事態となれば、合意ベースだと言っても指示して合意させられるのではないか」と迫りました。
松本剛明総務相は「自衛隊、海上保安庁の優先利用のために、個別法で想定されていない事態に備える補充的な指示を行使することは想定していない」と現行の枠組みの説明に終始しました。宮本氏は、総務省が地方制度調査会で、平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」について資料を提示していると指摘。空港・港湾利用の枠組みが「グレーゾーン事態」を想定しておらず改定案の対象となるとして、「国の指示権が使えることになる」と批判しました。
(しんぶん赤旗 2024年5月24日)
動画 https://youtu.be/UTvuYgMzeFc?si=IGagzKGQ64avzpFe
配付資料 20240523総務委員会配付資料
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
五月十四日の総務委員会の質疑で、私が、大臣は本会議で事態対処法は想定されないと答弁されましたけれども、災害対策基本法でも新型インフルエンザ特措法でも、個別法があっても個別法の規定で対応できない場合に今回のこの規定を使うんですから、事態対処法でも対応し切れない想定外のことが起きた場合には、また、起こり得ると判断すれば、同じように特例の指示ができるはずだ、排除はされていないはずだと聞いたのに対して、個別法で対応できるところについては当然個別法で対応するなどと繰り返すばかりで、まともにお答えになりませんでした。
こんな法案の大前提となる問題にさえ答えないというのでは、法案審議に入れません。
まず自治行政局長に。これはもう本当に、この法案の守備範囲を確定しなければなりませんから、この法案の守備範囲から、事態対処法のうち想定を超えたもの、こういうものは排除されておりませんね。
○山野政府参考人 お答えいたします。
本改正案は、答申を踏まえまして、特定の事態の類型に限定することなく、その及ぼす被害の程度において大規模な災害、感染症の蔓延に類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を設けるものでございまして、特定の事態を除外しているものではございません。
事態対処法等で定められている武力攻撃事態等への対応については、これは法律で必要な規定が設けられておりまして、本改正案に基づく関与を行使することは想定されていないものと承知しているところでございます。
○宮本(岳)委員 今、二つのことをおっしゃったんですね。結論が想定されていないにまた戻ったんですけれども。いやいや、事態対処法に定められた、個別法で対応できるものは対応する、当たり前なんですよ。新型インフルでも災害でもそうなんですよ。それは、もしそれだったらこの法律は要らないんです、想定内のものばかりだったら。想定外だから作るというんでしょう。だったら、想定されている事態対処法制についてのものは事態対処法制でやるだろうけれども、それを超えるものが出てきたら、当然これは入りますねと。入りますね。
○山野政府参考人 お答えいたします。
繰り返しになりますけれども、この改正案、大規模な災害、感染症の蔓延に類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を設けるものでございます。特定の事態を除外したものではございませんが、お尋ねの事態対処法で定められている武力攻撃事態等への対応については、法律で必要な規定が設けられて、本改正案に基づく関与を行使することは想定されていないものと承知しているところでございます。
○宮本(岳)委員 除外されない、これを答えてください。
○山野政府参考人 ただいま申しましたように、事態対処法等で定められている武力攻撃事態への対応については、法律で必要な規定が設けられており、本改正案に基づく関与を行使することは想定されてございません。改正案自体については、何ら、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を設けるものでございまして、特定の事態を除外するものではございません。
○宮本(岳)委員 入れ替えて、結論は除外するものではございませんになったわけですね。いや、これを確認するのに何でこんなにかかるんですか。特別な意図があるとしか思えないですよ。何でこんなことが言えないんですか。本当にひどいと言わなければなりません。
そこで、資料一を見ていただきたい。地方制度調査会の、上は第十一回専門小委員会、下は第十二回専門小委員会で配付された資料であります。
地制調では、感染症や自然災害と並んで、国民保護事案、事態対処法、国民保護法という三つの類型について、国がどのような関与を行うかを検討しております。
この資料に基づいて、国民保護事案や武力攻撃事態についても地制調で検討したのは事実ですね、自治行政局長。
○山野政府参考人 お答えいたします。
三十三次の地方制度調査会における議論でございますけれども、これは、特定の事態の類型に限定することなく、大規模な災害、感染症の蔓延に類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を設けることについて議論をいただきましたところでございまして、御提出いただきました資料につきましては、これはまさに専門小委員会の資料ということで議論の俎上に上がっているものでございます。
○宮本(岳)委員 この答弁も余り変わらぬような表現をするんですね。ただ、地制調の小委員会に出たものであると。検討したということですよね。
この資料は、五月十四日の当委員会で、私や立憲民主党の吉川筆頭理事、国民民主党の西岡委員が求めて提出された資料のうち、去年の十二月十四日に大臣が説明を受けたという、地制調で個別法での関与の仕組みを検討した説明ペーパーの二ページ目と九ページ目なんですね。左下の四角で囲った赤い字がページ番号であります。松本大臣への説明ペーパーは全部で十枚でありますから、そのうちの二枚がこれなんですよ。
大臣は、重々、国民保護事案や武力攻撃事態について検討されてきたことを知りながら、想定されないなどという答弁を繰り返してきたんですね、松本大臣。
○松本国務大臣 国民の生命等を保護するために迅速、的確な対応が必要となるようなときにどのように備えるかというのは大変重要なことでありまして、今委員からおっしゃっていただいた十二月十四日、就任当日から私はこの件について説明を受けているところでございます。
地方制度調査会の資料に関連してでありますけれども、個別法の規定につきましては、国から地方への指示が、どのような事態において、どのような要件や手続の下定められているかを確認するために、主な危機管理法制の規定の参考として取り上げていたものでありまして……(宮本(岳)委員「知っていたんでしょう」と呼ぶ)はい、ですから、このような説明を私は受けたわけでありますが、この説明の趣旨は、今申し上げましたように、主な危機管理法制の規定の参考として取り上げていたものとして私は説明を認識をいたしておりますと申し上げさせていただきました。
○宮本(岳)委員 知っていてそういう答弁をしてきたわけですね。
では、配付資料二を見ていただきたい。地制調の専門小委員会に、これも、総務省が配付した資料であります。二〇二二年九月三十日に開かれた第七回専門小委員会で配付された、資料三、審議項目一関係資料(つづき)という資料の十五ページ目なんですね。
小委員会の議事録では、総務省の田中行政課長が、この資料を使って、国際紛争等で武力攻撃事態等への発生の備えという新たな課題も出てきている、近年は平時でも有事でもないグレーゾーン事態というのが長期的に続く傾向があり、これが重大な事態に発展するリスクもある、自治体は平時から具体的なシナリオを想定した訓練をしておくことも重要であるという指摘もされていると説明いたしました。
総務省自身も、事態対処法でカバーし切れない部分があることについて検討してきたのは事実ですね、局長。
○山野政府参考人 お答えいたします。
今御指摘のありました資料、これは小委員会の資料でございまして、当日、今手元に議事録はございませんけれども、その一環の説明の中でそういった説明がされたものと承知しております。
○宮本(岳)委員 議事録どおり読んだんですから間違いないんです。
資料にも、平時でも有事でもないグレーゾーン事態と太字で書かれております。総務省も総務大臣も、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態にグレーゾーン事態が入ることを重々認識した上で議論を進め、法制化、法案化してきたわけですね。
もう一つ。私は、本会議で、安保三文書に基づく公共インフラ整備の問題を聞きました。
私が、国と自治体が確認書を交わし、国民の生命財産を守る上で緊急性が高い場合に、自衛隊、海上保安庁が柔軟かつ迅速に施設を利用できるよう努めることを条件に、国が整備費用を負担するとしていることを指摘し、政府は、あくまで、自治体に自衛隊の優先使用を強制するものではないと説明するけれども、本法案によって、国が必要と判断すれば、優先使用を指示することが可能になるのではないかとただしたのに対して、これまた松本大臣は、この枠組みにおいて、自衛隊の優先利用のために補充的な指示を行使することは想定されていないなどと答弁をいたしました。
資料三は、内閣官房提出の資料、総合的な防衛体制の強化に資する取組について(公共インフラ整備)の中にある文書であります。空港、港湾に関する公共インフラ整備の取組の基本的な考え方という表題がついておりますけれども、平素から必要な空港、港湾を円滑に利用できるよう、インフラ管理者との間で円滑な利用に関する枠組みを設け、これらを特定利用空港、港湾と名づけております。
資料四は、特定利用空港や港湾になる場合に国が自治体と取り結ぶ確認書のひな形であります。合理的な理由があると認められるときには、民生利用に配慮しつつ、緊密に連携しながら、自衛隊、海上保安庁が柔軟かつ迅速に施設を利用できるように努めるとまで書いてあります。まるで優先利用をさせてくれと言っているように見えるんですけれどもね。
今日は防衛省に来ていただいております。確認いたしますけれども、この確認書を取り結び、一たび特定利用空港、港湾となれば、国が必要だと認める合理的理由さえあれば、自衛隊、海上保安庁が優先利用を強制できるということですか、防衛省。
○米山政府参考人 お答えいたします。
今般、インフラ管理者との間で確認するに至りました円滑な利用に関する枠組みでございますが、これはあくまで、空港法や港湾法等の現行の関連法令に基づきまして関係者間で連携し、円滑な施設の利用について調整するための枠組みでございます。
したがいまして、今般のこの取組でございますが、これは自衛隊、海上保安庁の優先利用を目的としたものではございません。
○宮本(岳)委員 それはそうなんです。おいそれと強制できるものでないことは当たり前なんです。これぞまさに住民自治と団体自治、つまり地方自治の本旨の内実なんです。
そもそも、港湾や空港の軍事利用を円滑にできない背景には、地方議会が、空港や港湾は平和利用に限るとか、米軍の艦船に入港に際しては非核証明書の提出を求めるなどの決議を上げている場合があるからです。憲法九十三条が定める議事機関としての議会の決議は重いということは当然であります。
資料五は、昨年八月二十五日に開催された、総合的な防衛体制の強化に資する研究開発及び公共インフラ整備に関する関係閣僚会議第一回の議事要旨であります。松本大臣もここに出席をしております。大臣は、港湾や空港など公共インフラについて、設置管理を行う地方公共団体との政府における連絡調整を担う立場で協力していくと発言しております。
国民の安全に重大な影響が及ぶような想定外の事態となれば、今回の地方自治法第十四章、特例の指示を使えば、幾ら合意ベースといっても指示して合意させられるのではありませんか、大臣。
○松本国務大臣 委員がおっしゃる補充的な指示は、事態の規模、態様等を勘案して特に必要があると認めるときに、国民の生命等の保護を的確、迅速に実施するために講ずべき措置に関し、個別法に基づく指示ができない場合に限って、必要最小限度の範囲で必要な指示が行われるものでありますが、今委員がおっしゃった特定利用空港、港湾における円滑な利用に関する枠組みは、国民の生命財産を守る上で緊急性が高い場合を含め、平素における空港、港湾の柔軟かつ迅速な利用について、あくまで、空港法や港湾法などの既存の法令に基づき関係者間で連携し、調整するための枠組みを設けるものと承知をしております。
この枠組みは、事前に既存の法律に基づいて関係者間で連携、調整するためのものであり、自衛隊、海上保安庁の優先利用のために個別法で想定されていない事態に備える補充的な指示を行使することは想定されていないものと認識しております。
○宮本(岳)委員 また想定されていないとおっしゃるんですけれども、グレーゾーン事態についての検討をやったんですね。そして、私、ここに、ある県にあなた方が出した、防衛省と国土交通省と内閣官房が出した文書ですね、問合せに対する答えを持っておりますけれども、いわゆるグレーゾーン事態が含まれ得ると考えてよいのかというときに、おただしのとおり、相違ありませんと。これが国の答えなんですね。
もちろん、更に進んで、公共インフラを国が直接指示して使えるという、例えば武力攻撃事態ということになればそれは次の、個別法の世界なんでしょうが、グレーゾーン事態というところを今検討もして、そのときにこの十四章というものが使えるということになるんだろうと思うんです。
さて、今日の最後にですけれども、立法理由として例示されるダイヤモンド・プリンセス号対応について議論したいと思います。
地制調では、患者の移送について広域的な対応を要する事態が生じ、国が役割を果たしたが、個別法、感染症法等上は想定されていなかったと議論されたと紹介されております。
まず、事実関係を厚労省に確認したい。
資料六は、厚生労働省のダイヤモンド・プリンセス号現地対策本部の報告書であります。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客が新型コロナウイルスに感染していたことが香港で確認されたのは二〇二〇年二月一日のことで、二月二日に国際保健規則により通報を受けました。通報を受けた時点で、ダイヤモンド・プリンセス号は、二月一日に那覇港を出て横浜港に向かいつつある洋上でありました。三日午後には、那覇検疫所が仮検疫済証の失効を船長に通告しております。
この件は、基本的に、県や市ではなく、国が責任を持って対応した事例だったのではありませんか。
○佐々木政府参考人 お答えいたします。
委員御指摘の部分で申し上げますと、まず、入港したその時点では、他国から国内に入るわけですから、その時点では検疫法の対応ということになります。
ただ、入港された後になりますと、その時点での乗客、もちろん感染されていない方もいますから、そこから先の対応は、必要に応じて感染症法に基づいての諸調整を行う、又は要請等で対応をするという状況でございました。
○宮本(岳)委員 ということになれば、国が対応するということでよろしいですね。
○佐々木政府参考人 感染症法になりますと、基本的には、都道府県知事、保健所設置市においては市長さん、特別区は区長さんということになります。
その上で、令和四年の法改正では、国の総合調整機能の法改正をした、そういうたてつけでございます。
○宮本(岳)委員 那覇港から横浜港に向かう洋上にあるダイヤモンド・プリンセス号の、その感染対策はどこがやるんですか。
○佐々木政府参考人 洋上の話でございますので、その時点においては、これは検疫法に基づいての国の対応ということになります。
○宮本(岳)委員 国なんですよ。何で昨日と違うそういう説明をするのか。この法案の議論をやっていると、答弁が、何かの意図によって表現を変えているのかと思わざるを得ないような答弁が多いんですけれども。
国が責任を持ち、現地対策本部を設置して対応したんです。最終的には、受入れ病院の選定や患者さんを救急搬送する必要がありますから、神奈川県や横浜市、また周辺の自治体の協力がなければ進みません。この事案が発生したときは、感染症法上の法律的根拠がなかったと聞いておりますけれども、自治体への協力要請に自治体はどのように対応いたしましたか。
○佐々木政府参考人 お答えいたします。
その時点においては、関係する自治体また関係団体等については協力をいただいたという状況でございます。
○宮本(岳)委員 協力したんですよ。横浜市も神奈川も、また周辺自治体も、みんな協力して、想定外の事態に対応していったのが事実なんです。国の指示権がなかったから対応できなかったというような事実はないんです。
先日の参考人質疑では、参考人の先生方からも、事件は現場で起こる、つまり現場に近いところでこそ一番正しい判断ができるとの声が出されました。
そして、ダイヤモンド・プリンセス号事案は、国と地方がスムーズに協力したからこそ乗り越えられた事案として認識されるべきものです。総務省は、法案が示す内容も、その必要性も全く説明できていないということを指摘して、今日の質問を終わります。