政府出資に公然と道 宮本岳氏、インフラ輸出法案に反対 衆院委可決
衆院国土交通委員会は11日、海外インフラ事業に日本の民間企業の参入を促進する「インフラ輸出」促進法案を賛成多数で可決しました。同法案は、独立行政法人など公的機関が国内で積み上げてきたノウハウを民間のインフラ輸出に提供し、事業を支援させる内容です。日本共産党は「民間企業による海外インフラ事業に、政府が出資することに公然と道を開く」として反対しました。
採決に先立ち質疑に立った日本共産党の宮本岳志議員は、日本のインフラ輸出のモデル事業とされる米テキサス州での新幹線事業で地元住民から反対意見が上がっていることや、インドネシアのバタン石炭火力発電事業をめぐって同国の国家人権委員会が日本政府に人権重視など求める書簡を送ったことを紹介。地元住民の意思を反映することや、相手国の法規制が未整備の場合の手続きなど、今回の法案には規定がないと批判しました。
さらに宮本氏は、独立行政法人は本来、多国籍企業支援のために設立されたものではないとして、政府の見解をただしました。
石井啓一・国交相は、インフラ輸出は日本経済の成長に寄与することから、独立行政法人を活用する意義はあると答えました。
宮本氏は「独立行政法人は国内のインフラ整備を担ってきた国民の財産」だと強調し、国内の老朽化したインフラ対策を率先してやるべきだと主張しました。
( 赤旗2018/5/15)
動画 https://www.youtube.com/watch?v=8Og9fWAncNo&t=0s&index=208&list=PL3M7AtnZgh3UwBngS4JL1lVJplHH5b_A4
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律案について質問いたします。
この法律案は、独立行政法人の行う事業内容として、新たに海外インフラ事業を書き込むものでございます。トップセールスに始まる民間企業のインフラ輸出事業に独立行政法人が関与できるようにするというものです。
石井大臣は、四月十九日の衆議院本会議での本法案の質疑で、「日本は質の高いインフラシステムの海外展開を進めております」と答弁されました。
では、政府の言う質の高いインフラというのはどういうものか。
二〇一五年五月二十一日に政府が発表した質の高いインフラパートナーシップの中では、質の高いインフラとはどのように書いてございますか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
ただいま御指摘いただきましたパートナーシップにおきましては、質の高いインフラといたしまして、「一見、値段が高く見えるものの、使いやすく、長持ちし、そして、環境に優しく災害の備えにもなるため、長期的に見れば安上がり」なものというふうに定義されてございます。
○宮本(岳)委員 環境に優しい、災害の備えになる、そして、長もちするので長期的に見れば安上がりということのようであります。
しかし、その質の高さが相手国との関係でも本当に維持できるのか、きょうは主に環境面から質問申し上げたいと思うんです。
まず、海外インフラ事業で土地収用とか環境規制、環境影響評価等々について、相手国に日本の法規制以上の厳しい内容の法規制がある場合、現地の法律を遵守することになりますか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
海外インフラシステムを展開いたします場合、相手国における法制度を遵守することは、良質な社会資本整備を実現するという観点から当然であると考えております。
仮に、その法制度が日本の同様の制度よりも厳しいものであっても、遵守すべきものと考えてございます。
○宮本(岳)委員 では、それは法案の条文に書いてございますか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
今回の法案の規定上、明確に書いている部分はございません。
○宮本(岳)委員 当然のことながらという意味でしょうけれども、相手国との法律関係にかかわる基本的なことなわけですから、法案に書いて、法律上も遵守させるのは当然のことだと思うんです。
では逆に、相手国に土地収用や環境影響評価等に関する法規制が未整備の場合、この場合は、日本で行う公共事業の場合と同様の手続を現地でも行うのか、法律にはどう定められているか、お答えいただけますか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
法律上は明記をしてございませんけれども、基本的な考え方を申し上げますと、海外インフラ事業を実施する場合、相手国における法制度等を遵守するということがまず原則であるということでございます。
しかしながら、我が国が海外インフラシステムを展開するという場合には、良質な社会資本整備を図るという観点から、相手国の政府のニーズや実情を踏まえつつでありますけれども、よりよい法制度の提案を含めまして、相手国政府に働きかけていくことが望ましいというふうに考えてございます。
○宮本(岳)委員 いろいろおっしゃるわけですけれども、結局法文上は、環境でその国が日本より厳しい基準で法規制していた場合は、これは渋々従うわけでありますけれども、日本よりも低い、あるいは法規制が未整備であるという場合は、日本より低い基準でも済まそうと思えば済まされる、こういう法のたてつけになっているわけです。
政府が、成長戦略だ、三十兆円の受注目標だ、こう言ってトップセールスで売り込むわけでありますけれども、大臣が基本方針を定めるというだけでありまして、結局は民間企業任せ。必ず質の高いインフラがつくられるという保障が条文上あるのかといいますと、これはないわけであります。
個々の民間事業者に任せた結果どういうことが起こるか。例えば、一〇〇%政府出資の国際協力銀行JBICが二十一億ドルの融資を実施しているインドネシアのバタン石炭火力発電事業では、インドネシアの国家人権委員会が、人権を重視し、慎重な融資検討を求めるという書簡を日本政府とまさに国会に送ってくるという事態が起こっております。
では次に、インフラのような公共性の高い事業には、国内でもそうですけれども、当然住民の意思の反映が必要でありますけれども、それは海外でも同様だと思うんです。
では、今回の法案に、事業への住民意思の反映、これは条文で担保されておりますか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
条文上、住民意思の反映についての規定はございません。
○宮本(岳)委員 それもないわけです。
民間任せでは、その事業を現地住民が望まなかった場合、どういうことが起こるか。これは、今回からは独立行政法人がこの事業のお先棒を担ぐということになるわけですから、それは、これまでならば、民間企業、この企業はけしからぬ企業だという企業への悪評ということで済むでしょうが、これからは我が国政府が直接批判を受けることになりかねない。
これは大臣にお伺いするんですけれども、今回の法案というのはそういう面があるという自覚はございますか。
○石井国務大臣 我が国のインフラシステムの海外展開を進めるに当たりましては、相手国における関係法令等を遵守しつつ、現地住民の理解を得ながら進めていくよう努めていくことが重要であると考えております。
本法案に基づいて独立行政法人等が海外で業務を行う場合におきましても、相手国政府等と連携をしつつ、当該プロジェクトが現地住民の理解を得ながら進められるよう、必要に応じて、国土交通大臣といたしましても指導をしていきたいと考えております。
○宮本(岳)委員 いや、現地の法を守るという今大臣の御答弁なんですけれども、私は改めて、先ほど御紹介申し上げたインドネシアのバタン石炭火力発電事業というものを調べてみたんですけれども、これはインドネシアですから、随分やはり法的には未整備なんです。
それで、その予定地を囲い込んでみたり、現地の住民の説明会というのをやるんですけれども、わざわざJBICの側から、警察などの同席は避けてくれということで気を使ってやめてもらっているぐらいなんですけれども、ほっておくとすぐにそういう事態になる。
何度も、そこに生活の場を持っている人たちが追い出されているものですから、中に入れてくれというトラブルが生じている。JBICも非常に気を使いながら融資の検討をやっているという、これは国会でもそういう議論がされているぐらいなんですよ。
だから、これから進めていくこのインフラ事業というのは、まさにそういった法的に未整備な国々が多いわけですから、極めて現実的な問題だと思うんです。
もちろん、問題は法的に未整備な国々ばかりではありません。日本の海外インフラ事業で今具体的に進んでいる事業の一つに、アメリカのテキサス新幹線事業というものがございます。総事業費百五十億ドルの巨大事業でありまして、JR東海が技術支援をしております。
ことしの一月十六日、チャオ・アメリカ運輸長官と石井大臣がワシントンで会談し、石井大臣は、日米のインフラ協力の象徴的な計画としてしっかり支援していきたいと述べられました。そういう報道もございます。今後の海外インフラ事業の一つのモデル事業ともいうべきものだと思うんです。
ところが、このテキサス新幹線事業に現地で反対の声が上がっております。二〇一六年一月、テキサスの州議会議員ら地元有力者三十三名が連名で、高速鉄道計画に反対する旨の書簡を当時の佐々江賢一郎駐米大使に送ってまいりました。
きょうは外務省に来ていただいておりますが、外務省に聞きますけれども、この書簡は届いておりますか。外務省として、これを国土交通省に送っておりますか。
○飯田政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘の書簡につきましては、在米日本大使館から報告を受けております。また、その報告を当省から国土交通省にも情報を共有しているところでございます。
○宮本(岳)委員 改めて外務省に確認いたしますが、英文の書簡でありますけれども、その書簡では、高速鉄道計画の反対理由についてどのように述べられておりますか。端的に御紹介ください。
○飯田政府参考人 お答え申し上げます。
委員御指摘の書簡における関係者の考えそのものについては、政府としてお答えすることは控えさせていただきたいと思いますけれども、同書簡によれば、テキサス高速鉄道計画によって地域コミュニティーが分断され、私的財産が脅かされつつあるとして、この計画を実施するためにはより適した土地があるとの考え等が述べられていると承知しております。
○宮本(岳)委員 本当に端的に述べていただきましたけれども、この書簡には、最終的には外国企業の利益のために私有財産を不当に取り上げられようとしている、テキサスの家族に世代を超えて受け継がれてきた土地と財産が線路で分断される、反対がより少ないほかのマーケットを進めることを勧めたい、あらかたそういう旨の書簡が駐米大使に届けられたということであります。
先ほど外務省からもあったように、この書簡は国土交通省にも送られていると思いますけれども、国土交通省はこれをどのように扱っておりますか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
御指摘の書簡につきましては、外務省から国土交通省としても入手をいたしてございます。
これを受けまして国土交通省では、この事業を主導しております米国の民間企業と面談を行いまして当該企業の説明を聞いたところ、地元の方々への説明を丁寧に重ねているということを確認をしたところでございます。
本件は、米国の民間企業が計画推進しているプロジェクトでございまして、用地取得に関しても、当該企業が現地の法令に基づいて責任を持って対応すべきものというふうに考えてございますけれども、国土交通省としても、その動向を注視していきたいというふうに考えております。
○宮本(岳)委員 重ねて聞きますけれども、今の、そういう丁寧に進めていった結果、こういった問題は既に解決をしたというふうにお考えですか。
○篠原政府参考人 お答え申し上げます。
当該会社からは、引き続き丁寧に説明を重ねているというふうに聞いてございます。
○宮本(岳)委員 その会社は、テキサス・セントラル・パートナーズ、TCPという会社でありますが、丁寧に説明もし、進めていると述べているという答弁でありました。
このテキサス新幹線事業というのは、政府がインフラ輸出のために、四年前に新法までつくって設立した株式会社海外交通・都市開発事業支援機構、通称JOINが四千万ドルも出資をしております。我が党はこのJOINの設置に反対をいたしましたが、その理由の一つは、JOINの支援には、海外の大規模開発事業における自然環境と現地住民への悪影響に対する配慮の視点が全くないということでございました。
先ほどの反対書簡が届けられたのは二年前のことでありますけれども、しかし、その後もこの問題は解決しておりません。連邦鉄道局がことしの一月に主催した地元説明会で発言をした住民三十六人全てが反対意見を述べたという報道があるんです。これでは、現地住民の意思を無視して、頭ごなしに事業を進める象徴的な海外インフラ事業になると言わざるを得ないと思うんです。住民意思を反映する法的な担保がなければ、第二、第三のテキサス新幹線事業を生み出しかねない。私たちは、このことを本法案にかかわって指摘しないわけにはまいりません。
そこで最後にですけれども、今回、インフラ輸出に乗り出させようという独立行政法人というのはそもそもどういうものであるか、確認をしたいと思います。
きょうは総務省にも来ていただいておりますが、独立行政法人通則法の第一条第一項の目的規定にはどのように書いてありますか。
○堀江政府参考人 御指摘の条文を読み上げさせていただきます。
「この法律は、独立行政法人の運営の基本その他の制度の基本となる共通の事項を定め、各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律と相まって、独立行政法人制度の確立並びに独立行政法人が公共上の見地から行う事務及び事業の確実な実施を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする。」
以上でございます。
○宮本(岳)委員 通則法に定められた独立行政法人の目的は、「公共上の見地から行う事務及び事業の確実な実施を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資する」ということになります。
インフラ輸出というものが、なぜこの公共上の見地から行う事務や事業の確実な実施に資することになるのか。国民生活の安定あるいは社会経済の健全な発展に資する、こういうことになるのか、これは大臣、どのように受けとめておられますか。
○石井国務大臣 新興国等におけます旺盛なインフラ需要を取り込むために、日本企業の海外市場への参入促進を図ることは、日本経済の重要な成長戦略の一つであります。
本法案では、独立行政法人等が有する公共性の高い法人としての信用力、中立性や交渉力に加え、国内業務を通じて蓄積をいたしました、民間企業にはない技術、ノウハウを活用して海外業務を行うことで、民間企業のみでは参入が困難であった案件においてもより効果的に海外市場への参入が図られることとなります。
これによりまして、我が国企業の海外市場への参入機会が拡大をし、日本経済の成長に寄与することが期待をされることから、インフラシステムの海外展開に独立行政法人を活用する意義があるというふうに考えております。
○宮本(岳)委員 独立行政法人が大臣おっしゃるように信用力があるのは、まさに国内で今、独立行政法人通則法に定められたように、「公共上の見地から行う事務及び事業の確実な実施を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資する」というこの目的を掲げてひたすらに頑張ってこられたからだと、そうでないような面もないとは言いませんが、第一条にはそう定められて、頑張ってこられたからこそ信用力があるわけです。
しかし、それを、これから海外にインフラを売り込んでいく民間企業の、先ほどはお先棒を担ぐという言葉を使いましたけれども、先鞭をつける役割をさせる。そして、それによって行われる事業というのは、何もかも地域住民が大歓迎するものであるのか。また、環境との関係で絶対に何の問題も起こさないような、例えばいろいろなあつれきが現に生じている。こういうことを進めれば、まさに今おっしゃったような、公共上の見地から行う事務及び事業の確実な実施、あるいは国民生活の安定、社会経済の健全な発展に資するという独立行政法人のその役割を変質させるものだと言わなければなりません。
独立行政法人は多国籍企業支援のために設立されたものではありません。国内のインフラ整備を担ってきた国民の財産であります。民間の海外インフラ事業に独法を協力させることは独立行政法人の本来の姿を変質させるということであり、断じて容認できない。このことを申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。
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○宮本(岳)委員 私は、日本共産党を代表して、海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律案に反対する討論を行います。
第一は、日本企業が海外インフラ事業をより多く受注できるよう、公的機関まで動員して支援を強め、多国籍化する特定大企業の利益獲得の機会を増大させることです。
本法案は、これまで行ってきた、海外交通・都市開発事業支援機構、JOINによる資金的支援に加えて、独立行政法人などが持つ公的な信用力や専門的な技術、ノウハウを日本の民間企業による海外インフラ事業の受注につなげるよう活用するとしています。
インフラ輸出戦略の柱には新幹線、高速鉄道の輸出がありますが、そこにはリニア中央新幹線も含まれます。JR東海は、単体では赤字のリニア中央新幹線事業を強引に推進していますが、その背景には、米国等海外への輸出による利益獲得の狙いがあります。既に政府は米国リニア高速鉄道の調査に八億円の税金を投じていますが、本法案では、民間事業者が海外でリニアのようなインフラ輸出事業を行う際の調査等を鉄運機構の資金で行えることになります。民間企業が行う海外インフラ事業へ政府が資金出資をすることに公然と道を開くものです。
第二は、もともと独立行政法人は多国籍企業支援のために設立されたものではありません。国内のインフラ整備を担ってきた国民の財産です。国内でインフラ施設が大量に更新時期を迎え、対策に膨大な費用と労力が必要とされる中で、独立行政法人等の公的機関が率先してやるべきは国内の老朽化インフラ対策であり、特定の多国籍企業の海外事業を支援することではありません。
第三は、日本国内では義務づけられる開発前の環境影響評価や住民参加についての規定がなく、環境や人権に関しての配慮を欠いていることです。
以上の理由から、本法案には反対する旨を申し上げ、討論といたします。