「貧困の底が抜けた」
衆院予算委 コロナで参考人質疑
宮本徹・宮本岳志両議員が質問
|
|
|
衆院予算委員会は4日、新型コロナウイルス感染症対策や国民生活・経済などについて参考人質疑を行いました。
国立感染症研究所の脇田隆字所長は、感染状況について「小児、高齢者などで減少傾向がないと全体の減少にはつながらない」と指摘。救急搬送の困難事例が増えているとして「柔軟な病床運用が必要だ」と述べるとともに、3回目のワクチンの前倒し接種を加速するよう求めました。
連合の村上陽子副事務局長は、雇用保険の積立金が年度途中で枯渇するとして、雇用調整助成金などへの予算措置を求めると同時に、失業等給付を従来の4分の1の国庫負担に戻すべきと述べ、政府提出法案を批判しました。
反貧困ネットワークの瀬戸大作事務局長は、困窮者などへの支援活動を通じて、「コロナで貧困の底が抜けたような状態だ」と指摘。公的住宅の拡充、生活保護の適切な受給、求職者支援制度の弾力運用などを求めました。
質疑で日本共産党の宮本徹議員は、生活保護制度の改善策を質問。瀬戸氏は、役所の窓口で生活保護を申請させない違法な対応が繰り返されていると述べ、国による調査を求めました。
国民生活・経済をめぐっては、日本共産党の宮本岳志議員が「日本のジェンダー不平等の大本に横たわる年間240万円にのぼる男女の賃金格差の解消が必要だ」として参考人の見解を聞きました。
権丈英子亜細亜大教授は、男女間の賃金格差は非常に重大な問題だと指摘。格差の一番の要因に管理職比率、二番目に勤続年数をあげ、解消のための取り組みが必要だと述べました。
また、井手英策慶大教授は「家事労働から女性が解放されていない」として、多くの女性が非正規雇用で働かざるを得ない現状があると発言。男性が家事に参加できる状況、長時間労働に異議申し立てできる状況をつくる必要性などを訴えました。
(しんぶん赤旗2022年2月5日)
動画 https://youtu.be/uk4SaKTZjZ0
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
今日は、四人の参考人の皆様方、大変貴重な御意見、ありがとうございました。
私の方から質問をさせていただきます。ずっと質問が続きますと、さきの質問者がたくさんのことをお聞きになりますから、私の方では、今までの質問とダブらないようにということをちょっと心がけながら聞かせていただきたいと思うんですが。
私、権丈先生のお話、それから宮本先生のお話でも、女性のジェンダーギャップ、男女格差、ジェンダー格差ということのお話がありました。それで、この大本にどういう問題が横たわっているかと。私たちは、やはりいろいろあるけれども、その大本に男女間の賃金格差というものがやはり非常に深刻に横たわっているんじゃないか、こういうふうに思います。
年間二百四十万円に上る男女の賃金格差、生涯でいうと一億円近い差になるという報告もあるわけですけれども、ここを本当に解決しないとやはり根本的解決に向かわないだろうと考えるんですけれども、これについて、普通は女性の方に聞くだけで終わることが多いんですが、今回は、先生方四人、皆さん方にひとつ御見解をお伺いしたいと思います。
○権丈参考人 ありがとうございます。
女性の労働の問題で、男女間賃金格差が非常に重要であるという御指摘だと思います。全くそのとおりというふうに認識しております。
そして、要因としましては、男女間の賃金格差を様々に、管理職比率や勤続年数や働く分野など、そういったものに要因分解をしますと、一番大きな要因というのは、管理職比率、女性管理職、役職による男女差というところが出てまいります。次に勤続年数ということでございます。
男女雇用機会均等法、八五年成立以降、全体としての男女間賃金格差は減っており、そしてまた、こういった女性管理職比率や勤続年数、そちらについても格差は小さくなってきているといったところはございますけれども、やはりまだ、特に重要なのが管理職ということです。
勤続年数の方は、女性もだんだんと継続就業できるようになってきた、そのためのサポートが多くされるようになってきたというところがあります。
そして、役職の方は、なかなかこちらは難しい。急に、女性の管理職、女性にぽっと管理職を与えるというわけにはまいりませんで、やはり、女性の働く方を増やしていくという、採用の段階から、継続して働き、そして育成していく、そして評価、登用ということですので、幅広い取組が必要な、そういった重要な問題かと思います。
是非、取り組んで、進めていっていただければと思います。ありがとうございます。
○松井参考人 全く専門性がありません。しかしながら、自分がかつて、例えば役人をしていた、政治家もそうかもしれません、やはり女性に対してある種の固定観念を持っていたと思いますね。それから、役人時代なんかは、毎日残業が多かったりとか、急に呼ばれて、早朝にたたき起こされるようなこともあるとか、職によってはね。そういうのはなかなかできへんのちゃうかということもあったし、逆に言うと、子供を産み育てるということについての物すごい敬意は他方で持っているわけですね。それがやはりどうしても固定的な考え方となって、日本の社会の隅々に行き渡っていると思います。
例えば、女性のかつて同僚の政治家の議員、あるいは地方議員で女性で頑張っておられる方々に対するある種の地域社会の偏見とか、どうせおまえらはこうだろうとかいうようなのが、まだやはりいろいろなところに残っている。これをどうやって、頑迷固陋な考え方の部分をより柔らかく、しかし別に日本の伝統を全部否定するわけではないんですけれども、つくり直していくかということを抜きには、今のクオータみたいな話も少しずつそういう固定観念を解きほどくためには意味があるかもしれませんけれども、やはり、しみついた固定観念をどうやって社会全体で取り除いて、相互にリスペクトしていけるような社会をつくるかしかないと思います。
何の答えにもならなくて済みません。
○宮本参考人 私の方から違う角度を申し上げますと、やはり、日本の女性の地位及び経済的な力というものが先進諸国の中でも著しく低くなった一つの理由というのは、経済成長時代に男性の労働力人口が極めて潤沢であった。人口ボーナス時代と言われているわけですが。やはり、人口ボーナス時代に豊富な男性労働力に依拠して産業社会をつくってきたということが気づいてみたらもう逆転した、労働力人口が非常に枯渇する状態になった。人口オーナス時代といいますけれども。その人口オーナスの時代に転換したにもかかわらず社会の構造も価値も規範もボーナス時代のまま続いているというところにあって、それに対する手当てが遅れているがために日本の社会全体が停滞をしているというふうに思うわけです。
人口オーナス時代に一番期待できるのは十分に活用されていない女性労働力で、この労働力が一人前に力を発揮すれば、にわかに外国人労働力に依拠しなくても日本の社会の発展というのは可能だというふうに思います。
それをやることによって経済発展をやるようになった国はいろいろありますけれども、先日も、アイスランドなんかは女性の社会進出を徹底して進め、大統領まで女性ですけれども、そのことによってすばらしい経済発展をしている。そういうような国に比べると、日本がいかに遅れてしまっているかということのように思います。
以上です。
○井手参考人 ありがとうございます。
男女の間の賃金格差をどの局面からつかまえるかによってお答えは変わろうかと思いますが、ひとまずお答え申し上げたいのは、九〇年代の後半以降に女性が労働市場に参入するようになっていったという事実であります。これは実は男性の所得補完でありまして、したがって、非正規雇用として足りない部分を補っていくという形で労働市場に出ていった。
御存じのように、九八年以降、男性労働者の自殺者数が急増いたしましたけれども、収入の稼ぎ手の一部になった女性が今いて、今度はコロナ禍で、所得を支え切れずに死んでいくような女性の数もまた増えてきている。こういう問題の根源がどこにあるかと考えたときに、私は、一言で申し上げれば、家事労働から女性が解放されていないことに理由があるように思います。したがって、非正規雇用でしか労働はできない。
ではこの家事労働からの女性の解放をどう考えるかというときに、二つ答えがあろうかと思います。
一つは、日本にも部分的にありますが、フランスのような保育ママのような仕組みを取り入れることで、女性を具体的に家事労働から解放するというやり方。
もう一つは、男性が家事に参加できる状況をつくることだと思います。そのためには、私の議論でいうならば、ベーシックサービスをというふうに今日申し上げているのは、老後の心配、子供の子育て、学費の心配をしなくていい社会をつくることで、男性労働者が長時間労働に対して異議申立てをできるような状況をつくっていきたい。そうすることでいわば男性が定時に帰れる、そして定時に帰れれば育児参加、家事参加もできるようになっていく、そういったトータルでの取組が重要になろうかと思います。
ありがとうございます。
○宮本(岳)委員 ともすれば女性議員だけが、また、ともすれば女性の参考人だけに聞くということが従来繰り返されてきましたけれども、やはり男性の方々がしっかり考えるということが大事だと自分自身も思いましたので、皆様に聞かせていただきました。
それで、宮本参考人のお話の中で一つ、先ほどじゃないですよ、一番最初のお話の中で、誰もが、セーフティーネットということ、これは否定されないと思うんですが、日本におけるセーフティーネットである生活保護ですね、これの捕捉率が二〇%にしかすぎないという話が出てきます。私たちも随分、身の回りでお伺いすると、なかなか率が低いですよね。
なぜこれほど生活保護を必要とする方々が生活保護をお受けになっていないのか。これは、どんな要因をお考えになりますか。
○宮本参考人 捕捉率の低さの一つの理由は、生活保護に対する忌避感といいますか、保護を受けることを非常に屈辱と感じ、受けたがらない人が多いということが言えるかと思います。
元々、生活保護制度というものが成立したときに、やはり、どうやっても生活の成り立たない人々だけを特別に取り出して生活費を補填するということでありますので、社会的に見ると、生活保護を受けたらおしまいだという意識が現在でも非常に根強い。これは各地で言われることで、年齢が高い人でも若い人でも同じだというわけなんですね。これがまず大きいと思います。
それから二つ目は、やはりこれは行政の方針ですけれども、生活保護をできれば出したくないと。特に地方自治体は、昨今のように生活保護受給者が増えてくると地方自治体の財政を圧迫しています、窓口で拒絶するようないろいろなやり方が横行するわけでございますね。なので、生活保護受給のために、例えばそれを支援する民間団体がついて役所へ行けば簡単に取れることが、それがなかったら絶対に取れないというような実態があります。そんなようなことがあるのではないかというふうに思います。
もう一つ、三つ目は、やはり生活保護費というものが柔軟性がなくて、規則どおりにやっているわけですけれども、実際に今の生活困窮の実態というのを見ると、ある時期生活費が足りない、そのところを補填してあげればやがては回復できるような人たちが結構多くいるわけですけれども、制度が柔軟性がないために、受給すれば受給しっ放しで再び実社会に戻ることができない、あるいは多少の可能性があると見られて保護費をもらえないということで、課題としては、もっと柔軟なものにしていき、入りやすく出やすい生活保護制度へと変えていくということが重要ではないかというふうに思っております。
○宮本(岳)委員 生活保護制度というのは憲法二十五条に根拠を持つ制度でありまして、健康で文化的な生活を営む権利を私たちは保障しているわけでありますから、今お話があったような問題、いかに乗り越えるかというのは、これは政治の課題でもあるというふうに思っております。
だんだん時間が迫ってまいりましたけれども、松井参考人の方から、最後のページのお話、人の役に立つことがやはり社会の大きな目的だ、こういう話がございました。
それで、今日の議論の最初からを振り返っても、やはり新しい資本主義、そして今の政権、岸田さんも新自由主義からかじを切り替えるということをおっしゃっているわけであります。それは、競争とかあるいは弱肉強食とかという方向で進めてきたけれども、ちょっとこれは、それではいかなくなったということを示していると思うんですけれどもね。そこで、かじを切り替えると。
今、私たちが考え始めているのは、じゃ、これまでのような厳しい競争が強い経済で、優しいことを言うていると弱くなるのか、少々弱くなってもこういう競争の行き過ぎを是正するためにはちょっとぐらいは経済成長を諦めるのかというたら、そうじゃないだろう、むしろ、今、優しい経済、持続可能な経済、あるいは本当に人々の暮らしを支える経済に移ってこそ競争力を取り戻すことができると。優しく強い経済と私たちは呼んでいるんですが、そういうふうに物事をこの先は展望する必要があるんじゃないか、こう考えているわけでございます。
これは全員に聞こうと思っていたんですが、時間の関係がございまして、まずは松井参考人、そして権丈参考人、お二人に少しお聞かせいただきたいと思います。
○松井参考人 ありがとうございます。
私、参議院議員時代に大門実紀史先生の御質疑をずっと聞いていて、本当にいつも、考え方が違うところもありますけれども、非常に勉強になりましたし、今、大門先生もそういうことをおっしゃっていると思います。
大事なことは、さっき井手先生が成長を前提としないというようなことをおっしゃったんですけれども、確かに、成長を当然の前提にしない、数値のマジックで、ある収入が実現できるということを当てにしないということは大事だと思います。と同時に、だけれども、やはり優しくあるためには強い経済でなければ支えられません。さっきのオール・フォー・オールといったって、結局オールが力を失ってどんどんいろいろな国に抜かれているような状態では、それを支えられませんから。
僕は、もう一点、先進国だからもう成長は無理だという考え方の人もいます。私の昔の同僚はそういう考え方の人が多いです。だけれども、やはり、いろいろな規制とか、既成概念を取っ払うことによって、高い成長も実現して、そしてちゃんと優しい社会をつくる。やはりそれは、僕は、居場所だけをつくるのではなくて、いろいろな人たちの出番をつくらなければいけない、さっき支える側を支えるという話もありましたけれども、支えられる側と支える側というのを固定的に捉えないというような社会にしていかなければいけないと思います。
ありがとうございました。
○権丈参考人 ありがとうございます。
優しく強い経済ということでございますね。全く賛成でございます。
効率と公平のトレードオフというふうに経済学でよく言いますけれども、効率と公平はトレードオフではなくて、両者の適切な組合せがやはり必要だというふうに考えております。今日何度か申しましたフレキシビリティーとセキュリティーというのが労働市場でよく使われる言葉ですが、その組合せが大切である。そのバランス、今どこにいて、どちらに向かっていくのか、それをしっかりと判断して考えていくということが必要かと思います。
分配の話も、市場での一次分配、貢献原則に基づく一次分配、そしてこれを補完する形の二次分配、社会保障などになりますけれども、そういった必要原則に基づくもの、しっかりとこれらを組み合わせて優しく強い経済を進めていくということは、とても大切なことだというふうに考えております。
ありがとうございます。
○宮本(岳)委員 四人の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。大変勉強になりました。
私たちも、皆さんの御意見をしっかり受け止めて、予算の審議、これからも、過ちなきを期して頑張っていきたいと思います。
本日は、誠にありがとうございました。