学芸員の配置を含む財政支援を 衆院委 博物館法改正
日本共産党の宮本岳志議員は23日の衆院文部科学委員会で、博物館法改正案の法案審議の中で、914館の登録博物館のうち約3割で学芸員が配置できていない現状を示し、財政支援を求めました。
博物館登録制度の見直しが今回の法改正の主眼です。これまで登録申請ができる設置主体は地方公共団体と一般社団・財団法人、宗教法人に限られていたものを、株式会社、NPO法人、私立大学等の法人に拡大します。また、博物館の登録は、都道府県等の教育委員会が文科省令を参酌し定めた基準に基づき審査します。これまで登録要件は法律に明記されていました。宮本氏は教育委員会が定める基準について、学芸員の配置など引き下げることになってはならないと述べると、杉浦久弘文化庁次長は「開館日数や学芸員の配置については引き続き法律で明記する」と答弁しました。
公立博物館の入館料は原則無料とされている一方、神戸市立須磨海浜水族園は民営化されたのち、入館料の大幅な値上げがされようとしていることや、京都府では「北山エリア整備基本計画」の中で、府立植物園の周辺で大規模開発が行われようとしていることを示し、今回の改正でこうした入館料の値上げや大規模開発を促進されては「本末転倒だ」と迫りました。末松文科相は「料金の引き上げや特定の開発の方向性をことさら推進する考えは全くない」と答えました。
宮本氏は、博物館法は憲法、旧教育基本法、社会教育法と一体に制定されたことを強調。博物館法の目的である「社会教育法の精神」はすべての国民があらゆる機会、場所で文化的教養を高めるための環境整備にあることを明らかにしました。
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
博物館法は一九五一年に制定され、今回の改定は、法制定以来七十年ぶりの制度見直しであります。
博物館法は、第一条に社会教育法の精神を掲げておりますけれども、その社会教育法は、第一条の目的に、「教育基本法の精神に則り、」とございます。つまり、一九四七年の憲法と旧教育基本法制定と、それに続く一九四九年の社会教育法、そして、一九五一年、博物館法と、憲法制定からの一連の流れの中で作られたものであります。まず、その原点から確認をしたい。
今回、法律の目的に、現行の社会教育法の精神に加えて、文化芸術基本法の精神に基づくことも取り入れることになります。しかし、この社会教育法の精神というのは非常に重いものでありまして、社会教育に携わる方々から、社会教育施設としての博物館本来の機能が後景に追いやられるのではないかという懸念が示されております。
そこで、確認をいたしますけれども、今回の法改定で、社会教育法の精神に基づくという法制定時の原則は堅持されるということでよろしいですね、大臣。
○末松国務大臣 宮本先生にお答え申し上げます。
教育基本法では、生涯学習の理念と社会教育の振興について定められておりまして、また、社会教育法では、教育基本法の精神に基づきまして、国、地方公共団体が社会教育の振興に当たって果たすべき任務が定められてございます。
これらの規定におきまして、一つは、国民が生涯にわたってあらゆる機会、場所で学習し、その成果を生かすことができる社会の実現を図らなければならないこと、二つ目は、博物館等の社会教育施設の設置等によって社会教育の振興に努めなければならないこと等が定められております。
こうしたことから、本法案では、社会教育法の精神に基づくことを引き続き規定しており、今後とも、博物館は、社会教育施設としてその責務を引き続き果たしていくよう指導してまいりたいと考えております。
先生御指摘のところで、この博物館法の一部を改正する今回の法律第一条は、「この法律は、社会教育法及び」、これをちゃんと受けて、「及び文化芸術基本法の精神に基づき、」というところで加えておりますので、先生のお考えに沿うものでございます。
○宮本(岳)委員 社会教育法は、国や自治体に、全ての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境をつくる努力義務を負わせております。
ここに新たに文化芸術基本法の精神をつけ加えるということでありますけれども、確認をいたしますが、文化芸術基本法の基本理念を定めた第二条第三項にはどのような定めがあるか、文化庁からお答えいただけますか。
○義家委員長 速記を止めてください。
〔速記中止〕
○義家委員長 速記を起こしてください。
杉浦次長。
○杉浦政府参考人 文化芸術基本法の第二条第三項ということでございますけれども、ここでは、文化芸術に関する施策の推進に当たりましては、文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であるということに鑑みまして、年齢とか、障害の有無とか、経済的な状況とか、居住する環境とか、そういうのにとらわれずひとしく文化芸術を鑑賞して、参加して、創造できる、こういう環境をつくるということが言われております。
○宮本(岳)委員 国民が、その年齢、障害の有無、経済的な状況、また居住する地域にかかわらずひとしくその権利が保障される、非常に大事な点なんですね。
同時に、文化芸術をめぐっては、二〇一九年にあいちトリエンナーレでの「表現の不自由展・その後」が脅迫を受けて中止になり、大きな社会問題になりました。この事件は、公立美術館における展示規制がどのような社会的な構図の下で起きるのかということを白日の下にさらしたと思います。
改めて、これも文化庁に確認しますが、文化芸術基本法は、第二条の一項と二項で何と定めておりますか。
○杉浦政府参考人 お答え申し上げます。
文化芸術基本法の第二条の第一項では、「文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない。」こと、そして第二項では、「文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術活動を行う者の創造性が十分に尊重されるとともに、その地位の向上が図られ、その能力が十分に発揮されるよう考慮されなければならない。」、このように規定されているところでございます。
○宮本(岳)委員 つまり、文化芸術を行う者の自主性の尊重と創造性の尊重を定めております。
また、前文では、我が国の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し、文化芸術活動を行う者の自主性を尊重することを旨とすると定めております。
税金を出している以上、口出しするのは当然だというのは、俗受けするかもしれませんが、文化芸術基本法の精神ではありません。たとえお金を出していたとしても口出しはしないというのが、文化芸術基本法の精神であります。
そこで、文部科学大臣にお伺いするわけですが、当然、この文化芸術活動を行う者の自主性の尊重も、今回、博物館法に新たに追加される文化芸術基本法の精神の内容に含まれますね、大臣。
○末松国務大臣 お答え申し上げます。
今回の法案によりまして、博物館が、これまでの社会教育を担う機関としての位置づけに加え、文化芸術基本法の精神に基づく文化芸術を担う施設として位置づけられてございます。
また、先生お尋ねの文化芸術活動を行う者の自主性の尊重については、私としては、文化芸術基本法において、その文化芸術基本法の精神の内容の一つでありますから、当然のことだというふうに理解をしております。これも先生のおっしゃるとおりでございます。
○宮本(岳)委員 二〇〇八年、社会教育法が改定された際の衆議院附帯決議では、「自発的意思で行われる学習に対して行政の介入とならないよう留意すること。」としております。
また、九条俳句不掲載損害賠償等請求事件をめぐっては、二〇一八年十二月二十日、最高裁の上告が棄却され、東京高裁の判決が確定いたしました。確定判決は、社会教育法第九条の三第一項及び同法第十二条の各規定は、原告が主張するとおり、大人の学習権を保障する趣旨のものであるとして、大人の学習権を認めた画期的な判決でありました。
社会教育法の精神に基づく博物館においても、当然、大人の学習権は保障されなくてはならないし、それを保障するためには、博物館の自由で自律的な運営が求められる。
そこで、登録制度の見直しについて質問をいたします。
法案は、博物館の設置主体の対象をできるだけ拡大するものでありますけれども、その審査基準は、都道府県の教育委員会が定めることとされております。
博物館の設置主体を拡大するに当たり、公益性、公共性を保障するためにも、学芸員の配置など、基準の引下げが行われてはならないと私たちは考えますが、文化庁、これは担保されておりますか。
○杉浦政府参考人 お答え申し上げます。
現行法においては、登録要件は、年間百五十日以上開館すること、それから学芸員を置くこと等以外は、大綱的な内容のみが法に定められておりまして、その詳細は、審査を行う都道府県等の教育委員会に委ねられております。
このため、今回の改正法案では、博物館登録の審査基準につきましては、文部科学省令で定める基準を参酌して、都道府県等の教育委員会が定めることとしておりますけれども、開館日数ですとか学芸員の配置につきましては、引き続き、法律上明記することということとされております。
○宮本(岳)委員 第四条三項で、「博物館に、専門的職員として学芸員を置く。」と担保されているという答弁でありました。
文化庁の資料でも、登録博物館九百十四館のうち、二〇一八年十月一日現在で、学芸員の配置数がゼロとなっている博物館が二百五十六館となっております。約二八%、三割が今現に学芸員を配置できていないんですね。五年間は経過措置があります。しかし、それを過ぎれば、登録博物館でなくなる可能性がある。
もちろん、個々の博物館には、登録博物館から外れる判断もあり得るんですけれども、できれば登録博物館のままでいたいという場合に、学芸員配置のための支援も必要になると思うんですけれども、文化庁はどうお考えですか。
○杉浦政府参考人 お答え申し上げます。
現在の博物館法においても、登録博物館には学芸員が配置されることが求められておりますが、登録後の博物館の運営状況について、都道府県等の教育委員会が定期的に把握する手段が現行法上ございません。こうしたことから、現在、学芸員が配置されていない登録博物館が存在するだろうということは承知しております。
博物館に学芸員を配置するかどうかは、確かに、それぞれの博物館の設置者が判断すべきことではございますけれども、本法案では、現在登録されている博物館については、改正法の施行後五年間は登録博物館となる経過措置を置いておりまして、文化庁としては、この本改正法を契機として、それぞれの博物館が必要な学芸員をしっかり配置して登録博物館となるよう、それから、地域からもそういう御理解をいただき、地域の首長の皆様からもそういった形でしっかりと博物館を位置づけていただけるように、様々な機会を通じて、設置者にしっかり働きかけてまいりたい、このように考えております。
○宮本(岳)委員 しっかり財政的な支援をしていただかなければ、なかなか、定めるだけではいかないと思いますので、これはまさに今後の課題だと思います。
同時に、今回の法改正で、これまでの三条二項に定められておりました、博物館は、その事業を行うに当たっては、土地の事情を考慮し、国民の実生活の向上に資し、更に学校教育を援助し得るように留意しなければならないという規定が削られてしまったのではないかという不安の声が、私のところにも寄せられております。
事前の説明では、この条文の趣旨は、そのまま第三条三項に含まれているという説明を受けたんですが、これは、文化庁、間違いないですね。
○杉浦政府参考人 お答え申し上げます。
おっしゃるとおり、本改正法案の第三条第三項につきましては、現行法の第三条第二項、これをしっかりと受け止めた形の、包含された形だというふうに認識しております。
○宮本(岳)委員 そもそも、登録制度が導入された法制定当時、約五百館ほどしかなかった博物館を増やそうとする中で、単なる営利を目的とした遊園地的、見せ物的に運営されているものを排除するために公益性、公共性ということが掲げられた、これは極めて大事なことだと思います。
全ての国民があらゆる機会、あらゆる場所で利用できなければならない、そういう精神に立って、博物館法第二十三条では、原則無償ということが定められております。
今回の改正でも、この条文に変わりはございませんね。
○杉浦政府参考人 お答え申し上げます。
現行法の二十三条、改正後は第二十六条となりますけれども、ここにおいて、公立博物館の入館料等について、原則無料である旨は引き続き規定されてございます。これは、広く国民の皆様に博物館を利用する機会を提供するためのものと認識しております。
また、同条ではただし書の規定もございまして、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情がある場合には、必要な対価を徴収することができるとされておりますが、これはいずれにせよ、利用料の徴収については設置者の判断、このようになっております。
○宮本(岳)委員 二十三条を確認をされました。
当時の財政事情をこれは考慮したただし書、先ほど後段述べられたただし書も、当時の財政事情を考慮したものだと思います。
十分な補助がないために料金の徴収をしなければならないということはもちろんあり得るわけですけれども、二〇一八年時点で、四千四百五十二館中三千五百四十二館が、博物館類似施設の圧倒的多数、これは公立博物館ということになっているんですね。今の二十三条は、公立博物館の利用料に当たる規定であります。
ところが一方で、この間、本来、入場料無料を定めたこの二十三条の精神に逆行するような事態を耳にいたします。
これは最後の質問にしたいと思うので、大臣にしっかり聞いていただいて、お答えいただきたいんですが、是非二つの事例を今日は紹介したい。
一つは、神戸市立須磨海浜水族園であります。
一九五七年五月十日に神戸市立須磨水族館として開園をいたしました。後に多く誕生する大型水族館の嚆矢となり、一九八七年には、年間入場者数二百四十万人という当時の日本記録を達成いたしました。スマスイの愛称で、市民や子供たちに親しまれてきた公立水族館であります。
ところが、神戸市は、二〇一〇年度から指定管理制度を導入し、さらにその後、民営化まで決定いたしました。
その結果、小中学生は五百円だった入館料が何と千八百円へと大幅に引き上げられることになり、市民はもちろん、神戸市議会からも懸念の声が上がっております。
もう一つ、京都府立植物園は、一九一七年に着工し、一九二四年一月一日に大典記念京都植物園として開園した、日本で最初の公立植物園であります。
入園料は、一般二百円、高校生百五十円、中学生以下は無料、七十歳以上の高齢者や障害者手帳をお持ちの方も無料であります。
この植物園を含む一帯に、京都府は、一昨年十二月、北山エリア整備基本計画を策定いたしました。
計画によりますと、園西側の賀茂川沿いにレストランやミュージアムショップを造り、北山通り沿いにも商業施設を整備する。また、植物園の周りでも、園の南側にある府立大の体育館を約一万席のアリーナを備えたものに建て替え、府立医科大、京都工芸繊維大と共同で使えるようにするほか、園の東側に劇場など芸術複合施設を造ることを検討していると報じられております。
この計画には反対の声が相次いで、住民や全国の園芸関係者らが計画見直しを求める署名活動を展開、昨年十一月時点で約十万筆を突破し、歴代園長も反対の立場で会見を開く、異例の事態となっております。
最後にこれは大臣に確認したいんですが、今回の改正の結果、スマスイのように、無料どころか子供たちが入れないような高い入館料になったり、京都府立植物園のように大規模開発が次々進められるようなことになったら本末転倒だと私は考えますけれども、今回の改正は、こういう方向を促進することを意図したものなのか、大臣の御見解をお伺いをして、質問を終わりたいと思います。
○末松国務大臣 宮本先生にお答え申し上げます。
公立博物館の入館料の設定を含む運営の方向性につきましては、博物館法にのっとりながら、各館の事情を踏まえて設置者が適切に判断すべき事項と考えております。
このため、お尋ねの個別の博物館の取組につきまして、文部科学省として具体的に言及することは差し控えたいと思います。
ただ、一般論として考えれば、それは先生、使いやすい料金が一番よろしいですね、これは。利用しやすい料金が好ましいです。
さらに、その上で、一般論として、御指摘の本法案における他機関との連携は、文化をつなぐミュージアムの理念の下、博物館が地域の活力の向上に寄与するためには、地域の抱える課題に対応する様々な主体との連携が重要との考えから規定したものでございます。このような取組を通じて、博物館が、今後、社会教育施設と文化施設の両方の性格を持つ施設として地域住民から愛される存在となることが重要である、そういうふうに考えております。
いずれにしましても、文部科学省としては、今回の法改正を通じまして、料金の引上げや特定の開発の方向性を殊更に推進する考えは全くありません。先生と考え方は、その辺もう少し。
○宮本(岳)委員 是非、社会教育施設としての原点をお守りいただきますようにお願いして、質問を終わります。
ありがとうございました。