教員免許更新廃止 研修履歴記録に懸念
参考人から相次ぐ 衆院文科委
宮本岳志氏質問
衆院文部科学委員会は1日、教員免許更新制度の廃止を柱とした法改正案について参考人質疑を行いました。更新制度廃止を歓迎する意見とともに、廃止とセットで導入される研修受講履歴の記録義務化に懸念の声が相次ぎました。
慶応義塾大学の佐久間亜紀教授は、教員の多忙化に拍車をかけるなどしてきた更新制度の問題点をあげ「もっと早く廃止してほしかった」と強調。教員の管理・統制につながりかねない受講履歴の記録義務化は必要なく、教員1人当たりが受け持つ授業時数を抑制するなど、勤務時間内に研修に取り組める体制づくりこそ必要だと訴えました。
日本教職員組合の滝本司委員長も、受講履歴の記録義務化が人事評価や受講の強制に結びつくことに懸念を示しました。兵庫教育大学の加治佐哲也学長は更新制度について「正直、ここまで評判が悪いと思っていなかった」と指摘。3氏とも教員の多忙化を解消し、研修時間を保障するには教職員定数の改善が必要だとの認識で一致しました。
日本共産党の宮本岳志議員は、教員の身分保障を求めた国連勧告に反するとして更新制度に反対したことを紹介。佐久間氏は「不適格教員」の排除という更新制度導入の出発点に、同制度が抱える問題の根源があると指摘しました。
(しんぶん赤旗2022年4月2日)
動画 https://youtu.be/ahQkZ7f3KoQ
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
三名の参考人の先生方、ありがとうございます。
私の方からも質問させていただきたいと思います。
我が党は、そもそも教員免許更新制を導入した二〇〇七年の教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律案に対しまして、一つ、教職における身分保障は教育のために不可欠なものであり、あくまでも保護されるべきとする教員の地位に関する勧告に反すること、二つ目に、免許更新制は、先進国の中ではアメリカの一部の州で実施されているのみだ、こういうことも指摘しまして、反対という立場を取りました。
そこで、まず、アメリカの教育にも詳しい佐久間参考人にお伺いするんですけれども、この教員免許更新制、私たちはこういう判断をしたわけですけれども、諸外国の事例や国際的な動向に照らしてどのようにお考えか、お聞かせいただけますか。
○佐久間参考人 この教員免許更新制は、アメリカの制度を参考にしてつくられたわけです。そして、二〇〇七年当時、教員免許を更新制にしているのは、世界先進国の中でもアメリカだけでした。
それはなぜかというと、アメリカは地方分権が徹底しているんですね。そして、教員免許を出しているのは州ということになります。国が教育に口を出すことは憲法で禁じられていますので、各州が責任を持っています。州が教員免許を出していますが、教員研修は、カウンティーといって、もっと下の各地方自治体が行います。実際に教員研修を実施するのは各学校で、校長ということになります。予算が要るんですね。なぜなら、アメリカの学校の先生たちの仕事は基本的に授業のみです。ですので、これこれを勉強してくださいといって、更に仕事を増やし、時間を拘束するためには、その分のエキストラペイを払わなければなりません。つまり、残業代を払わないと研修が受けさせられないんです。ですので、アメリカの学校の場合、教員を研修させたいと思ったら、校長先生はまず、予算を確保するために奔走しなければなりません。
というわけで、アメリカの場合は、裕福な財政事情があってきちっとした地域に住んでいる学校の先生たちはいっぱい研修を受けている、ところが、そうでない貧困な地域の先生方は研修を全く受けられないという状況がありました。
そんなことがあっては子供たちに対して不利益ですので、それを何とかカバーするために州が知恵を絞り、教員はこれこれの研修を受けないと免許を更新できませんよというふうにして、免許制度を介して研修のチャンスを保障する、そういう制度として成立していたのがアメリカの制度でした。
ですから、目的は不適格な先生を排除することでは全くなくて、教員の免許の質を保証するための制度としてアメリカではあったというわけです。それが日本に導入されてくるときにはねじれてしまって、先ほども申しましたように、不適格な先生を排除するために教員免許更新制を使いましょうということになったので、そもそも問題が生じたというふうに考えております。
このような情報でよろしいでしょうか。
○宮本(岳)委員 やはり私たちは、この制度自身が、もうとても続けられない形で今回やめざるを得なくなったというのは、そもそものこの制度に問題があったというふうに考えます。
そこで、私、加治佐参考人にお伺いしたいんですけれども、大学で免許更新の研修をやってこられて、大学ではうまくいっていると思っていたんだけれども、現場の声を聞いてみたら、これほど評判が悪いとは思わなかったという率直な御意見もございました。なぜこれほど評判が悪い結果になったのか、これについてお考えをお聞かせいただけますか。
○加治佐参考人 調査結果というのは、これはアンケートですので、個別の事情はほぼ出ないわけですね。ですから、いいものもたくさんあったと思います、先ほども申し上げましたように。
結構、本学は元々現職の先生がたくさん来る大学ですから、現職の先生方とのおつき合いというのは、本学の大学教員にとってはそんなに違和感はないんですが、ただ、多くの教員養成をやっている大学というのは、養成はしますけれども、つまり、教員になる学生の指導はしますけれども、なった方に接するということが余りなかったわけですね。そういう機会が得られました。多くの大学の先生にとっては現職の先生は初めてなので、だから、そういう点での、現職の先生からすると、現場を知らないよとか、何か役に立たないよねとか、多分そういう意見はあったんだと思いますね。
ただ、文科省はずっとアンケート調査していますので、そこの中で見ると、改善はされてきたと思うんですね、先ほど言いましたような少人数にするとか、いろいろな工夫はしてきたので、と思います。
ただ、結局は、要するに、先ほど申し上げたとおりなんですけれども、時間的にも金銭的にも余裕があって受けるのと、余裕がない、忙しくて、そういう状況にある、それで、お金ももったいないとか、まあいろいろある、そういう状況で受けるのでは違うということですね。
しかも、本当は、更新講習も、すぐに役立つものだけじゃなくて、本当に今の教育というのはどうなっているんだとか、子供たちはどう変化しているんだとか、国の政策はどうなっているんだとか、やはり、そういう大局的なものも教えるべきだと思うんですよね。
それでやはり新しい教職観なりを得ていくということが大事なんですけれども、そういうものを大学側は提供しようとしたと思うんですけれども、ただ、現場の先生にそこまでのゆとりがなかった、まあ全部じゃないんですけれども、そういうこともあって、やはりこういう厳しい評価になったんだというふうには思っているところです。
ただ、大学は、先ほど言いましたように、かなり学びましたので、これで、現職の先生と接するとか、プログラムもいいものをいっぱい作りましたので、それを次の新しい学びの姿に生かしていく、こういうことになるんだと思います。
○宮本(岳)委員 ありがとうございます。
私たちも、教特法第二十一条第一項では、「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない。」、こういう定めにあるように、子供の教育に責任を有する教員が研修を行うことは当然のことだとは考えております。その際に、やはり、自主的、自律的な研修が保障されなければならないということだと思うんですね。先ほどから先生方口々に、やはり、多様な研修、多様な中身を先生方の中にしっかり培っていくということが大事だ、これは論をまたないと思います。
その点で、今回の法改正に含まれておりますけれども、要するに、研修記録の作成を任命権者に義務づけ、そして対話と奨励によるということでありますけれども、やはり、先生方にとっては、教育委員会、管理職の意に沿う研修をやらなければならぬのではないかという圧迫感、義務感、こういうものがあるんじゃないか、こういう心配が現場からは出されるわけでございます。
このことについて、是非、現場の先生の団体であります瀧本参考人、そしてもう一度、佐久間参考人から御意見をお伺いしたいんですが、いかがでしょうか。
○瀧本参考人 研修受講履歴で一つ懸念があるとするならば、今御指摘があった、どんな研修を記載するか、記載するに当たって、その成果は何かということを求め始めると、研修自体が非常に負担になってくるだろうというふうに思っています。
実際に、例えば教育委員会が実施する研修等も、決してその成果を求めたりはしていません。ところが、受講履歴に載せるから、どんな成果があったのかを提出しなさいというようなことになったら、更に働き方に逆行し、負担感が増えるんだろうというふうに思っています。そこが一番懸念しています。
また、もう一方で、研修履歴に記載するに値する研修というふうなことで、研修自体の中身をこうあるべきだ、そういった話が出てくると、それはある意味、現場実態とかけ離れた研修になってくるんだろうというふうに思っていますので、そういったことが今回の法改正でなされないような担保をしていただくということが非常に重要なことだというふうに思っています。
○佐久間参考人 今、瀧本参考人がおっしゃったことに加えて、やはり、私、問題は、二十二条の五の四をどのように扱うのかというところが焦点になろうかというふうに思います。当該任命権者が必要と認めるものというのが、一体何の基準にするのか、そこに公平性や公正性が担保されるのかということが懸念されますので、この研修は記録してもいいけれども、この研修は記録したら駄目だとか、そういう線引きは事実上不可能だと思うのですね。
ですので、この辺りについて、私としては、この四号については削除するのがこの法案の安定的な運用に資するのではないかというふうに考えていますけれども、是非とも、この点、御議論いただきたいというふうに思います。
○宮本(岳)委員 実は、審議まとめを見ますと、必ずしも主体性を有しない教員に対する対応として、職務命令に基づく研修の受講、場合によっては懲戒処分を講じることも出てくるわけです。
大臣は、会見で問われて、そんな何でもかんでも懲戒というのは、そんなことは考えていない、こういうふうにもおっしゃったみたいなんですけれども、私は、こういう形で、職務命令、懲戒というものについての不安というのは、現場に非常に多いと思うんですね。
これはひとつ、加治佐先生に、そういうことを別に、いわば、言葉は悪いですが、脅して進めようというわけじゃないという辺りのことはどうお考えか、お聞かせいただけますか。
○加治佐参考人 だから、数的にそんなに多くはないと思うんですよ。どういう人が対象になるか、これは、これから文科省がガイドラインを作りますので明らかにされると思いますが。
先ほど佐久間先生も、教員としてやらなければいけない研修があると。安全に関わるとか、命に関わるとか、学習指導要領のことであるとか、これは最低、誰でもやらなきゃならない。こういうのはほぼ全てが、教育委員会が職務の研修としてやられているわけです。
例えば、そういうものを受けない人、あるいは、そういうものを受けた結果が、全然結果が出ない人、つまり、学んだ形跡がないというふうな人。だから、それが結局、校長と対話をすることによって明らかになりますので、そこで校長は、まずはしっかり指導するということになると思うんです。過去の、今までの、どういう学びをしているか、この先生はどういうところに課題があるかとかですね。この先生が学ぶようになるためにはどうしたらいいか、意欲を持たせる、やはりそれは校長の役割だと思うんですよ。そういうことをやっていって、それでも駄目だという場合ですね。
だから、これは、先ほども出ていますけれども、法的に、教師は研修を受ける権利と義務がありますので、研修を受けることは義務でもありますので、その義務が、要するに、義務の最低限の内容が職務研修だと思うんですね。それを学んでいないということになると、これは先生としては役割を果たしていない。かつ、それが少数だとは思いますけれども、それでも、全体として見たときに、やはり教職の質ということを保証しているのかということになるんだと思うんですよね。そこで、やはりそういう措置を講ずる必要があるということになると思います。
○宮本(岳)委員 若干時間が残りますので、是非、瀧本参考人から同じ点についての御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○瀧本参考人 私の資料の中でも、研修、そして実施者、その根拠法というのを記載させていただいています。初任者研修、中堅教諭等資質向上研修、また、先ほど来言われております、例えば児童生徒の安全に関わる研修、そういうのは多分、地教行法に基づいてそれぞれの教育委員会が実施する、そういうことに関しては、当然、受けるということはなければいけないんだろうというふうに思っています。
ただ、それ以外に関しては、それぞれ、じゃ、それ以外の研修で何をもって水準とするかというのは、なかなか理解、今の段階で私はちょっとできないということです。
例えば、初任者研修、それと中堅教諭等資質向上研修、それと教育委員会が実施する研修、これを受けることで水準が確保されるというのなら、そういうふうに言っていただきたいですし、それ以外に、例えば何をもって水準をと。これは非常に現場としてはなかなか判断に困るところなんだろうな、これは受ける教員の立場もそうですし、多分、管理職、校長先生も、そこら辺の判断が非常に迷われるんじゃないかなというふうに思っております。
今後、文科省の方でも、その基準等については明らかにするという話がなされています。是非とも、審議の中でその部分も明らかにするようなことをお願いしたいというふうに思っております。
○宮本(岳)委員 三人の参考人の先生方、ありがとうございました。
私も、佐久間参考人がおっしゃるとおり、すっきり、教員免許更新制の廃止のみをすべきだと思っております。今、野党内でもそういう議論を是非進めたい、このことを申し上げて、今日の参考人質問を終わらせていただきます。
ありがとうございました。