利用者情報の保護を
ネット普及 宮本岳志氏に参考人
衆院総務委員会で4月28日、電気通信事業法改定案の参考人質疑が行われました。
同案は、ウェブ利用者の閲覧情報等の第三者への送信規制強化を目指したものの、経済団体の意見で後退したとの批判があります。有線ブロードバンドをユニバーサルサービス化するものの、あまねく提供する義務を規定していません。
日本共産党の宮本岳志議員は、インターネットの普及が国民生活向上に寄与する一方、新たな社会的格差拡大の可能性があるとして「民主主義の発展と国民生活と福祉の向上、文化の発展に役立てる」見地が欠かせないと質問。検討会座長を務めた大橋弘東京大学副学長は「弊害も生んだ。公正なもの、営利ではなく公共のものとして情報基盤をつくることが重要だ」と発言。森亮二弁護士も「利用者情報の保護を強化してほしい」と強調しました。
宮本氏は、法案は国の責任で国民に有線ブロードバンドのユニバーサルサービス化を保障するものになっていないと指摘し、「社会の側から国民に保障する」理念が必要だと質問。大橋氏は「指摘された議論をしていかなければいけないが、まだ十分に議論されていない」と答えました。
(しんぶん赤旗2022年5月13日)
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
三人の参考人の先生方、本当に今日はありがとうございます。
私の方からも御質問申し上げたいと思うんですけれども、順々に各会派がこうして質問してまいりますと、いよいよ、全て、大概のことは聞かれてしまいまして、質問が残っていないという状況でありますけれども。
まず、大橋参考人にお伺いしたいんです。
先生は、政府、電気通信事業ガバナンス検討会の座長をお務めだったと思うんですけれども、第十六回の議事録を少し見せていただきましたら、大橋先生、座長の方から、様々な議論、これを御紹介いただいた上で、「しっかり議論できたかというと、そこまでには至っていないと私も思っていまして、そこは忸怩たる思いはありますけれども、ステークホルダーも非常に多いですから、そうした方々を交えて今後しっかり検討していってほしいと思います。」という御発言が記されております。
「忸怩たる思い」という言葉を使っておられますので、その辺りの先生の思いを、是非この場でお聞かせいただきたいと思います。
○大橋参考人 どうもありがとうございます。
まさに発言どおり議事録が残っているということでございます。
ある意味、先ほどの御質問の中でも、私が利用者情報に対してどう考えているのかということについて若干お話をさせていただきました。
いろいろな見方がいる中で、決めなきゃいけないことですから、そういう意味でいうと、ステークホルダーの声は全て聞いて、皆さん御納得の上で、最終的な案として合意をいただいたという点においては、私はしっかりとした改正案ができたというふうに思っています。
他方で、利用者情報の保護について、私自身は、先ほども申し上げたように、基本理念からすると、やはり、利用者がしっかり自分のデータとして判断ができるような、そうした環境をつくることが理想だなというふうに思っています。
それは、技術的にもなかなかまだそこまでに至っていないことも分かりますけれども、そうした思いの中で、ちょっとそうした発言もあったということでございますが、案としては、やはり、現状以上に、今回の改正案は、国際的な動向という意味でいうと整合的なもの、つまり強化の方向へ向かっていますし、利用者保護にも一歩前進ですので、そういう意味でいうと、私自身は、今後更に、これを出発点にして、よりよいものをみんなで工夫して考えていくことが重要だなというふうに考えているところでございます。
○宮本(岳)委員 ありがとうございます。
先生のそのじくじたる思いも受け止めて、国会としての役割を果たさなきゃならぬと思うんですね。
今、基本理念というお言葉がございましたので、実は、私は長く国会議員をやっておりまして、参議院議員をかつてやっておりましたとき、二〇〇〇年の十一月でありましたけれども、初めて国会に、これは高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案、通称IT基本法と呼ばれるものが出てまいりました。あれは森喜朗政権であったと思いますけれども、そこで、この法案を審議、私自身が審議に当たったわけでありますけれども。
共産党は、よく何でも反対というふうに誤解されますけれども、高度情報ネットワーク社会、IT社会、これは反対ではございません。大いに意義あるものというふうに位置づけておりまして、私、ここで、こう申し上げました。
そもそも情報技術は民主主義と密接なかかわりを持っているものであります。ルネッサンスでの印刷技術の発展が、フランス革命に代表されるその後の民主主義の形成に大きな力となったのを初め、新聞、放送など情報技術の開発とその普及が国民の情報入手と発信の手段を広げ、言論による民主主義の前進に大きく寄与してきました。
また、近年の情報通信技術の進展は、経済の分野だけでなく、国民の社会生活や文化をも大きく変化させつつあります。インターネットの普及は、生活水準や利便性の向上のみならず、民主主義の発展にも文化の向上にも大きな寄与をすることができる一方で、新たな社会的格差を拡大する可能性も持っています。だからこそ、新しい技術を国民全体のものにし、民主主義の発展と国民生活と福祉の向上、さらには文化の発展に役立てるための本格的な取り組みが求められているのです。
こう述べた上で、しかし、この見地が欠落しているからこの法案は駄目なのだと述べておりますから。そこから始めているんですね。
ちょっと、三人の参考人の先生方お一人お一人から、これは二〇〇〇年に私が申し上げたことですけれども、こういう理念についてどのようにお感じになるか、それぞれお聞かせいただきたいと思います。
○大橋参考人 ありがとうございます。
まさに、インターネットの黎明期において、インターネットが普及することで民主主義が更に増進される、そうすることで自由な言論の世界が生まれるというふうに、我々というか、多分多くの方々がそういう思いで取り組んできたんだと思います。
そうしたインターネットの普及の広がりと、あと深さが今の時点まで至ったときに、我々振り返ってみると、確かに、情報というのは、アクセシビリティーというのは物すごい高まったことは間違いないですが、他方で、別の弊害も生んだというふうなことなんだと思います。
それは、典型的には、寡占の問題ですかね、データ独占の問題であるとか、それに基づく、今日ケンブリッジ・アナリティカ等のお話もありましたけれども、ある意味フェイクニュースのような問題、そうした情報に基づいて我々は判断をするわけですから、やはり、情報の基盤自体が、いかに公正なもの、それは営利の手ではなくて、しっかり公共のものとして基盤をつくるかということが極めて重要だということを、私たちは今学んでいるところなんだと思います。
今、新しい技術を国民のものにするとおっしゃいました。国民のものになっていないんです、今。そういう意味でいうと、いかに国民のものにするのかということの、まさに我々は試行錯誤をしているさなかであって、これについて、まだどの国も解答を見出していないという状況であります。
そんな中で、我が国は我が国なりのやり方を、各国の知見を学びながら今やっているところでありまして、この改正案がまさにその第一歩になるというふうな認識でおります。
○森参考人 森でございます。御質問ありがとうございました。
まさに大橋参考人のおっしゃったとおりですけれども、元々、インターネットによって、これまで大きなメディアに独占されていた情報発信が個人の手に戻ってきた、個人でも情報発信できるようになった、いろいろな人が情報発信できるようになったというのは、これは本当にいいことだと思います。
そして、今日、外部送信の文脈でお話ししましたレコメンデーションのようなことも、これは、本来はやはり、私に合ったものをコンテンツとしてお勧めする、私が買いそうなものを広告として出すということなので、便利な面というのはあるわけでございまして、そういう意味では、どんどん便利になっているということは、これは確かなんだろうと思います。
ただ、やはり一方で、看過し難いデメリットが、影の部分が生まれてきて、それによって非常に大きな危険にさらされる。これは国家、社会も併せてということですけれども、そういった問題が出てきましたので、これに対する対応が求められていて、今回、利用者情報の規制というものがここでできましたので、これを初めの一歩として、それはもう本当に初めの一歩でして、今後のアップデートによって問題意識を皆さんに共有していただくと同時に、利用者情報の保護を強化していただきたいというふうに思います。
以上です。
○原参考人 ありがとうございます。
先ほど読み上げられたIT基本法の審議の際の御発言は、全くそのとおりだと思って伺っておりました。IT化を進める、デジタル化を進めるといったことは、これは、何か党派によって意見とか利害が異なるということではなくて、社会をよりよくしていくための基盤であるということなんだろうと思います。
ただ、今お二人の参考人も言われたように、その進め方においていろいろな問題が起きているということはそのとおりであって、これが技術によって解決していく面もあると思います。それから、制度によって、これはまさに先生方に新しいルールを設定していただいて、ルールによって解決していける部分もあるということで、まだ課題が残っているということなのかと思いました。
○宮本(岳)委員 ありがとうございます。
さあ、そこで、そのような安心、安全で国民に寄与できるネットワーク、IT環境というものをつくっていく上で、一つは、やはりユニバーサルサービスという、今回も出てきている。先ほど申し上げたのがもう二十二年前でありますから。そして、その頃には光ファイバーも全然なくて、むしろ、光ファイバーが非常に先行して、とにかくIT化というのは光ファイバーを引くことだという時期もありました。その結果、今日、先ほどお話があったように、相当な普及率になってきているということですが。
ブロードバンドをユニバーサルサービスとして接続をしっかり進めていくというのはいいんですけれども、このユニバーサルサービスの概念というのは、元々は、国は、ユニバーサルサービス、これを保障する責任がある、国民の側からは当然それを求める権利がある、そういうことで特に固定電話等々はやってきたわけですよ。ところが、今回のものはそういう概念になっていない。
私は、やはり、ブロードバンドへの接続の権利と、それを公的に、これは、国が直接保障するかどうかは別として、当然、筋合いとしたら、社会の側から全ての国民に保障する、こういう理念が必要ではないかと思うんですが、これは大橋参考人と森参考人の御意見を聞かせていただけますか。
○大橋参考人 ありがとうございます。
恐らく、今、ユニバーサルサービスの議論を今回していますが、サービスが出た暁には、じゃ、アクセスはどうなんだというふうなお話も当然出てき得るのかなというふうに思います。他方で、まだ敷設が進んでいない部分については、これはしっかりユニバーサルサービスとして事業者が自らの責務としてやっていただく必要が恐らくあって、今回、そうした形での御提案だと思っています。
確かに、ブロードバンドにおける基礎的電気通信役務の扱いというのが第一種固定電話とは若干違っていて、それは何かというと、地域によって十分ペイしている地域と、あと、競争がやはりないので、広げるためには何らかの交付金等の手だてが必要だという地域があって、また、これは、整備費をどう考えるのか、あと、その後の維持費をどう考えるのか、細かく実は考えていかないといけない部分があるんだと思います。
詳細の一部は今後詰めていくということになっているんだと思いますけれども、やはり、そこの部分はしっかり、まずは敷設。設備として持っていく。その後、じゃ、アクセシビリティーはどうなんだということの今御指摘された議論をしていかなきゃいけないんだと思いますが、ただ、この議論は、恐らくまだ十分議論がされていないイシューだと思っていまして、そういう意味でいうと、ちょっと、そうした議論も今後、議論の熟度が高まる中でやっていくべき内容の一つだと思います。
○森参考人 森でございます。御質問ありがとうございます。
アクセシビリティーについては、重要な問題だと思いますけれども、私も専門家として十分に考えたことがありませんので、御回答は御容赦いただきたいと思います。
○宮本(岳)委員 維持費ということも、今、コストの問題ですね、大橋先生からもございました。
元々のユニバーサルサービスという場合は、例えば郵便などもユニバーサルサービスでありますけれども、山のてっぺんに送る場合でも、切手を貼れば同一料金でと。コストから考えれば到底考えられないんですけれども、それを保障するというところにユニバーサルサービスという考え方の根本があるので、コストがかかるからどうこうということでは元々はなかったと思います。それを、民営化したりとか競争政策を導入して、様々、今日ここまで来たのかと。改めて、ユニバーサルサービスということも今後議論していく必要があるというふうに思います。
さて、個人情報の保護、プライバシーの保護というのが、実はこの二〇〇〇年のときにも、そういうネット社会の発展の上で鍵であるということは議論もされました。そして、森参考人が資料におつけいただいた二〇〇三年、平成十五年四月二十五日のこの個人情報保護法制のときの附帯決議ですね。私はこの法案の審議に当たりましたが、これも覚えております。改めて、プライバシーの保護というものがやはり非常に大事だということは言うまでもないことですよね。
それで、改めて、この十六回のまた電気通信事業ガバナンス検討会の議事録等々も読ませていただきますと、ここで森参考人は、この議事録の中で、「まず、適正な取扱い規律の適用対象となる利用者情報からCookieや広告IDにひもづく情報が外れていますのは残念です。」とはっきり述べておられます。
今回こういう形になったことについて森参考人はどのようにお感じか、そして、どうすべきだとお考えか、聞かせていただけますか。
○森参考人 御質問ありがとうございます。森でございます。
議事録に書かれているとおり申し上げました。
私としては、特定利用者情報の範囲については、そういった契約とか、そういったものと関係なく、先ほどちょっと通信関連プライバシーみたいなことを申し上げましたけれども、広くその本人に対して影響を与える、その本人がどんな人かということを把握した上で、その人に影響を与えられるような情報については、それはやはり危険があるわけですから、その保護の対象としていただきたいというふうに思ったわけでございますし、現在でも思っているわけでございます。
しかしながら、先ほども申し上げましたように、人によって様々な意見がある。そして、法案として出てきたら、それを法律にしていただくことによって一定の保護が図られるわけです。これまでみたいな何にもなしではなくなるという意味がありますので、まずは法律を成立させていただいて、そして、しかる後、この今後の検討課題のところで、環境の変化に応じた制度の在り方の見直しということが強調されています。これは、素早いアップデート、早いアップデートということを、今回の法改正というのは、ある意味、中に内在させているものではないかと思いますので、この問題について、状況の変化、あるいは諸外国の状況を踏まえてアップデートを繰り返していただきたいというふうに思っております。
以上です。
○宮本(岳)委員 この法案をめぐっては、経済団体等の反対もあったというふうに聞いております、もちろん。経済にとってどうかということが検討されたんだろうと思いますけれどもね。
私たち、実は今、優しくて強い経済ということを申し上げるんです。これはなかなか、ぽかんとされることが多いんですが、優しかったら弱い、厳しく競争を、激しい競争をやれば強くなる、こう考えがちですけれども、実は、この二十年ほど、競争政策をあおり、厳しい戦いをやってきましたけれども、結論としては、やはりなかなか強くはならなかった、むしろ優しいことこそ強いことではないかというふうに考えておりまして、個人情報の保護とか、あるいはユニバーサルサービスをきちっと確保するとか、そういう社会こそ実は経済的にも強くなるんだ、こういうふうなことも考えております。
先生方の御意見をしっかり受け止めて、この審議に万全を期したいということを申し上げて、今日の質問を、時間ですので、終わらせていただきます。
ありがとうございました。