「理系転換推進」大学淘汰
衆院文科委 宮本岳志議員が批判
日本共産党の宮本岳志議員は29日の衆院文部科学委員会で、大学の理工系学部再編等を支援する独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法改定案は、「文系つぶし」「中小私大つぶし」の「大学淘汰(とうた)政策だ」と批判しました。
同案は「教育未来創造会議」第1次提言を踏まえたものです。文科省の池田貴城高等教育局長は理工系学部再編の目的として、「理学、工学、農学分野にかかる学位を授与する学部への転換等を支援する」と発言。宮本氏は、同提言が「大学全体としての定員規模の抑制をはかる仕組みを導入する」としており、「大学全体として定員を抑制するなか理工系学部の定員を増やすことは文系をつぶすことにならざるを得ない」と批判しました。
さらに、本法案が政府の求める理系転換を図る大学には規制緩和を行う一方で、そうでない大学にはペナルティーを強化するものだと指摘。「経営に苦しむ地方や中小の私立大学を追い詰めるものだ」と強調しました。
宮本氏は、1975年の「私立学校振興助成法」の参院付帯決議が「経常的経費2分の1補助の速やかな実現」を求めているのに、文科省の最新資料によれば「2015年度以降も補助割合は一貫して減り続けている」と指摘し、決議に従い「私学助成、経常費補助金の増額を目指すべきだ」と主張。永岡桂子文科相は「基盤的経費である私学助成を確保する」などと答弁しました。
本法案は同日の同委員会、衆院本会議で賛成多数で可決。日本共産党は反対しました。
(しんぶん赤旗 2022年11月30日)
動画 https://youtu.be/JRJ2h4KdWQg
配布資料 20221129文科委員会配付資料
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
本法案は、教育未来創造会議の第一次提言を踏まえて、日本では理工系を専攻する学生がOECD平均以下で、理工系学生数が増えていないことなどを理由に、今回の補正予算で三千二億円の基金を積み、理工系学部の再編や高度情報専門人材の確保を支援するというものであります。
教育未来創造会議の第一次提言では、定員が少なく、受け止める大学の枠組みが整っていない状況であり、また、デジタル、グリーン等の成長分野を牽引する高度専門人材を育成するために理工系学部の再編等を行うと述べられております。
デジタル、グリーンの成長分野を牽引する高度専門人材というのはどのようなものか、高等局長、お答えいただけますか。
○池田政府参考人 お答え申し上げます。
この法律案に基づく事業により育成する高度専門人材につきましては、デジタル、グリーンなどの分野において、我が国の成長や発展に寄与し得る人材を想定しております。
このような人材を育成するため、この事業では、学部が授与する学位の分野に着目して、理学、工学、農学分野に係る学位を授与する学部への転換等を支援することとしております。
○宮本(岳)委員 そうした人材を誰が求めているのか。提言の中には、産業界からの人材需要とあります。高度専門人材というけれども、結局は産業界が求める人材の育成を大学に強いるということになるのではないか。大体、数理、データサイエンス、AIといった能力は、文理を問わず習得することが求められております。なぜそこから単純に理工農系学部再編などということが出てくるのか。
ワーキンググループの議論を見ても、理工農系を専攻する学生を何%にすると言っていること自体が文理の枠を取っ払っていくということと矛盾しているとか、理工系の大学、学部を出ているとデジタル人材なのですかというのがびっくりしてしまいまして、例えば英米文学科を出た人は英語の翻訳者として通用しますか。ほぼ無理ではないですか。理工系の学部に行くとあたかもプログラミングができてみたいな書き方はすごく前時代的に感じるのですが、サンプルコードを書き換えるぐらいだったら、もはやその辺の気の利いた小学生でもできますね。デジタル人材の育成ではそういうことをやりましょうということではなかったのですか。理工系の大学に進む人を増やしましょうというのは、先ほど四十年遅れと言われていましたが、四十年遅れの考え方なのかなと思って失笑を買うのではないですか。
そういう声までワーキンググループで出ているんですね。
提言では、理工系学部の定員が少なく、理系志向の学生を受け止める大学の受け入れる枠組みが整っていないため、学部再編の取組を推進するというんですけれども、これはつまり、理工農系の学部への再編や定員を増やす大学等を支援するという意味なんですか。
○池田政府参考人 お答え申し上げます。
先ほど申し上げましたように、まずは学位に注目して、理学、工学、農学分野に係る学位を授与する学部への転換を支援することが基本でございますけれども、当然、総合知などが重要になっている中で、いろいろな分野との融合を前提にしつつこれらの分野の学位を出すということも支援をしていきたいと思います。
また、結果的には入学定員の増などに結びつく場合もあると思いますけれども、当然ながら、この支援を通じて教育の質を充実するということも、教育の質の重視ということも支援をしていくことになると思っております。
○宮本(岳)委員 イノベーションには文理融合が必要だ、デジタルリテラシーは文理問わず必要と言う一方で、理工系学部再編、こう言うわけですね。
さらに、第一次提言には、大学全体としての定員規模の抑制を図る仕組みを導入する、そういうことも書かれております。大学全体として定員を抑制する中で理工系学部の定員を増やすということは、つまり文系を潰すということにならざるを得ません。
理工農系学部の再編等に支援するというんですけれども、学部の改組転換はそう簡単ではありません。新学部を再編しても、在校生は旧学部にいるわけです。この旧学部の学生の学びの権利を保障するためには、卒業するまで旧カリキュラムを維持することになり、当然、それを担当する教員の確保も必要であります。こうした教員のうち、新学部に移行しない教員を定年まで雇用することにもなります。その上で、新学部に必要な教員の採用もある。
文科省は検討、準備段階から完成年度までの支援を想定しているようでありますけれども、学部が完成すれば終わりではありません。大学関係者からは、新学部がスタートしてからが大変だという声を聞いております。
新学部の完成年度以降については、どのようにしてその大学を支えていくおつもりですか。
○池田政府参考人 お答え申し上げます。
本事業におきましては、各大学の迅速な対応を後押しできるように、最長十年間の継続的、機動的な支援を実施することを想定しております。
基金による支援につきましては、今委員おっしゃったように、完成年度までということを想定しておりますけれども、各大学におきましては、その間、新たな学部を軌道に乗せていただき、基金による支援終了後は、基盤的経費等を活用し、各大学で対応していただくことを考えております。
○宮本(岳)委員 今年十月に大学設置基準が改正されました。デジタル、グリーン等の成長分野への学部再編をしようとする大学について、学部の新設、再編についてはこの新しい大学設置基準が適用されることになりますね。
○池田政府参考人 お答え申し上げます。
大学設置基準の改正につきましては、段階的に移行期間を設けておりますので、それに応じて、再来年度、令和七年度から改正と段階的に、規定によって、大学の選択により適用がなされると承知しております。
○宮本(岳)委員 大胆な規制見直しを求めたこの第一次提言を受けて、必要な教員数、校地、校舎面積の基準を引き下げました。こんな規制緩和をすれば、教育研究の質が低下するのは明瞭だと私は思います。
政府が求める理系転換をする大学に対しては規制を緩和する一方で、第一次提言では、教育の質や学生確保の見通しが十分ではない大学や学部等の定員増に関する設置認可審査の厳格化、少子化を見据えた大学全体としての規模を抑制する仕組みの整備、定員未充足大学に対する私学助成減額率の引上げ、不交付の厳格化、計画的な規模の縮小や撤退等も含めた経営指導の徹底、修学支援新制度の対象を定員充足率が収容定員の八割以上の大学とするなどの機関要件の厳格化などを求めております。
そういう記述があることは事実ですね。
○池田政府参考人 お答え申し上げます。
今御指摘いただいたとおりの記述がございます。
○宮本(岳)委員 こうしたペナルティーの強化は、経営に苦しんでいる中小や地方の私立大学を追い詰めるものであって、地方の中小私立大学潰しになりかねないと思います。
一方では、デジタル、グリーンなどの成長分野へ転換する大学については、成長分野の学部等の設置を促進するための規制の大幅な緩和を行い、もう一方では、ペナルティー強化を行い、文系潰しや中小私大潰しといった厳しい対応をする。これは、大学の淘汰政策であり、あからさまな選択と集中と言わざるを得ません。
ところで、本法案は、機構の目的に「中長期的な人材の育成の観点から特に支援が必要と認められる分野における教育研究活動の展開を促進し、もって我が国社会の発展に寄与すること」を加えるというものであります。
つまり、今回は、特定成長分野として、グリーン、デジタルといった分野強化のための理工系学部再編の支援が掲げられておりますが、この法律の要旨と趣旨としては理工系学部再編に限られているわけではない、これは事実ですね。
○池田政府参考人 お答え申し上げます。
助成対象となる分野につきましては、議員御指摘のとおり、法律案におきましては、「中長期的な人材の育成の観点から特に支援が必要と認められる分野」と規定しております。
具体的には、文部科学大臣が、専門的な視点から、審議会の意見を聞きつつ、大学、高専等における修学の状況や、社会経済情勢の変化や、技術開発の動向などを踏まえ、基本指針において定めることとしており、特定の分野に限定した規定には法律上はなっておりません。
○宮本(岳)委員 今回は理系転換と言っておりますけれども、基本指針に定めれば、様々な形で、学部再編、選択と集中のために今後ともこのスキームが使われるということになります。
資料一を見ていただきたい。財務省財政制度審議会財政制度分科会歳出改革部会に提出された資料の「論点(まとめ)」というものであります。国立大学法人運営費交付金や私学助成についても、これまでもめり張り強化の取組を進めてきたが、依然十分な効果が見られないことから、引き続き、めり張り強化や執行改善を求めていく必要とあります。
つまり、財政審と財務省は、めり張りの名による選択と集中を迫るばかりで、国立大学運営費交付金も私学助成も、基盤的経費を増やすつもりなどさらさらないのであります。
資料二を見ていただきたい。一九七五年の私立学校振興助成法の参議院附帯決議であります。私立学校の経常的経費二分の一補助の速やかな実現を求めています。
ところが、資料三を見ると、一九八〇年の二九・五%をピークにずっと下がり続け、ついには、二〇一五年、九・九%と、一割を割り込みました。
ところが、この二〇一五年、平成二十七年以降、このグラフが作られなくなりました。どういうわけかと聞いたら、経常的経費の仕分に不正確なものが含まれていたというような説明でした。しかし、私たちが見たいのは、国会決議との関係です。私学助成と経常的経費の割合は、国会決議が言う二分の一に向かって増えているのか減っているのかという、その経年の推移であります。
そこで、文科省に正確な資料を作り直してもらったのが資料四であります。さきの資料で九・九%だった平成二十七年度の補助割合は、一二・六%と、少し数字は増えています。しかし、そのときの経常費補助金が三千百六十六億円。
では、直近の令和三年度、二〇二一年度の経常費補助金は幾らで、経常的経費に占めるその割合は何%になっておりますか。
○茂里政府参考人 お答えいたします。
令和三年度の実績につきましては、一一・六%となってございます。
○宮本(岳)委員 額は二千九百十五億円ですね。初めて三千億を割り込んだんです。下のグラフを見ていただいても、二〇一五年度以降も、補助割合は一貫して減り続けております。つまり、二分の一補助の速やかな実現を求めた全会一致の国会決議には全く逆行しているわけですね。
ゆめゆめ国会決議を軽んじるつもりはないと思うんですけれども、私学助成、経常費補助金の増額を目指す大臣の御決意をお聞かせいただきたいと思います。
○永岡国務大臣 宮本委員のお気持ち、よく分かります。本当に、二分の一の補助割合と言ったのが、だんだん下に行っているじゃないかというお話でございました。
私立の大学というのは、国立等に比べまして、本当にたくさんの学生さんがいらっしゃいます。日本でいえば、七割を超える学生さんが私立の大学に在籍をしておりまして、また、建学の精神に基づいて、それぞれ各校、本当に個性、特色のある教育を実施をしておりまして、我が国の学校教育におきまして重要な役割を果たしていると考えているところでございます。
私学に対します助成は、こうした私立学校が果たす役割の重要性に鑑みまして、私立学校の教育条件の維持向上、そして学生さんたちの修学上の経済的負担の軽減、私学の経営の健全性の向上を図ることを目的としておりまして、私立学校の振興に大きな役割を果たしているところでございます。
文部科学省といたしましても、基盤的経費である私学助成を確保するとともに、今回の基金の活用ですとか、高等教育の修学支援の見直しなども含めまして、私立学校への総合的な支援を行いまして、教育の質向上とアクセス機会の充実に取り組んでまいる所存でございます。
○宮本(岳)委員 時間が来ましたから終わりますけれども、三千億のお金を使うのであれば、三千億を切ったこの私学助成に本当に使えば、つけ加えれば、倍加することができるわけですよ。それこそ大道だということを申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。