学校法人の特殊性考慮
私学法改正案で参考人質疑
衆院文科委
衆院文部科学委員会は17日、私立学校法改正案について参考人質疑を開きました。文科省の特別委員会で改正に向けた提言をまとめた福原紀彦・前中央大学学長は、教育研究機関という学校法人の特殊性を考慮したうえで、「意思決定権限の分配とガバナンスの確立を目指した」と述べました。
改正案は、一部の学校法人で理事長らが独裁的な権力を握り、脱税やパワハラなどさまざまな問題を起こしていることを受けたもの。田中愛治・早稲田大学総長は、理事と評議員の兼務を禁じる改正案の中身について「理事会と評議員会が普段は協力して学校運営にあたるとともに、けん制機能を果たすもの」と評価しました。
藤本明弘・嵯峨幼稚園園長は、改正案を評価しつつ、なかには園児20人程度の小さな法人もあるとし、大規模法人と同一のルールが小規模法人に課されることに懸念を示しました。
日本共産党の宮本岳志議員は、改正案で設置が義務付けられる理事選任機関のあり方が各法人の寄付行為(規則)で定めることとされ、理事会を選任機関とすることも可能だと指摘。福原氏は、理事会を選任機関とすることは小規模な法人では透明性を確保した上であり得るとし、「大規模な法人にまで許されるものではない」と述べました。
(しんぶん赤旗 2023年3月20日)
動画 https://youtu.be/Mxjz5gn1b5Q
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
四人の参考人の先生方、本当に貴重な御意見をありがとうございます。私で最後ですから、もうしばらくおつき合いいただきたいと思います。
たくさんの委員の方々から御質問がありましたから、もうだんだん聞くことがなくなってくるんですけれども、私は、まず、私立学校の存在意義といいますか、そもそもの我が国における私学の価値ということをはっきり先生方から語っていただきたいと思うんですね。
文部科学省のホームページによりますと、私立学校に在学する学生生徒などの割合は、大学、短大で約八割、高校で約三割、幼稚園でも八割、こういうふうに書かれておりまして、私立学校は我が国の学校教育の発展に大きく貢献していると。
つまり、私立と書いていますから、私のものだみたいな語感がありますけれども、そうじゃなくて、我が国の公教育を支えていただいているわけですね。ですから、それは、そういう役割を担っていただいているわけですから、しっかりとした支援をするのは当然でありまして、また、支援する上でも、私立学校の特性、建学の精神をしっかり尊重する、これももう当然のことだと思っております。
そういう点では、藤本参考人が、幼児教育無償化したからやれと言われるのは違和感がある、こうおっしゃったのは、まさにそのとおりであって、我々は、そういう関係にないと。まだまだ、実は、無償化施策もそうですけれども、私学助成なども足りないというふうに思っているんですね。
本来、私学助成法ができたときに、国会は、私学助成を二分の一に引き上げるということを決議をいたしました、附帯決議で。しかし、その後の推移は御承知のとおりです。今はもう半分どころか、一割を切ろうかというところまで下がってしまった。
そういう点では、何か交換条件じゃなくて、もっとしっかり、公教育を担っていただく上での支援は、口は出さずにお金は出すというふうにすべきだと私は思うんですね。
この点で、私学の価値と役割という点、これは四人の参考人の先生方、順々にお答えいただきたいと思います。
○田中参考人 宮本先生、どうもありがとうございます。
私学の価値ということをお尋ねいただきまして、誠にありがとうございます。
私学の価値というのは、やはり、学問の独立、教育の独立というものを重要視して、専門家が、教育を専門とし、また、学問という、学ぶということを専門としている者たちが、何が今後我が国の若い方たちに必要かということをよく考えるということだと思うんですね。それを個々の学校法人の建学の精神に沿って育てていくという、そこがやはり多様性を生むということになると思います。
ですから、私学の中にも様々な学校がございまして、例えば、地域に貢献する大学もございますし、それから、世界と研究力で競おうという大学もございますし、また、ある特定の領域に非常に専門性の高い職業人を育てるというところに専門性を持つ大学もございます。今大学のお話をしていますが、それは高校でも中学でも同じように、特徴がございます。例えば私立のある小学校、中学校では、音楽ですとか芸術を非常に大事にしていて、そこの卒業生には芸術家や音楽家が多く出るというところもおありになるわけですね。
そういう様々な特徴というものを持っている私学というものの重要性というものがございますので、そこは、公立の小中高、若しくは公国立の大学と違うところでありまして、やはり、お国のため、若しくは自治体として、どうしてもこれだけの教育をしなければならないというところと一線を画すのは、その独自の理念というものを大事にして若い方を育てるということが重要だと思っておりますので、その中でも本日御議論いただいているのは、公共性があるがゆえに、我々はガバナンスの透明性を高める必要があるということだと思っておりますので、そこのところは大事にしなければならないと思っております。
ですから、私学の独自性が日本の教育の多様性を保障し、かつ、様々な有為な人材を育成してきた。それがあるがゆえに、公共性も大事にして、透明性も高める必要があるというふうに存じております。
以上でございます。
○増田参考人 どうも、御質問ありがとうございます。
私も、田中先生が言われたとおり、私学の重要性というのは非常に認識しております。また、敬意を表しておりますし、日本の教育の重要な、本当に、担っているということを十分承知しております。
その中で、私学の法人の中に、九九・九%のところは問題ないと思うんですが、やはりその中に不心得な方が出てくる。例えば、最近ですけれども、先ほど話が出ました私学助成法の補助金のカットというのがありましたけれども、一つは、不適切な役員の学校資金の流用だとか、あるいは、ハラスメントで実刑判決を受けた方がまた理事長に戻ったというようなことの理由によって補助金のカットが行われたということが出ていました。
だから、こういったことは、先ほどのガバナンスコードじゃないかと思いますけれども、そういったところで規制できてきたのかと、現状ですね、そういったことが大きな問題だと思うんですよ。もちろん、九九・九九ぐらいは問題ないんですよ。よく分かっているんですけれども。だけれども、そこにおいて一部に不心得者が出るので、それをどう防ぐかというのが大きな理由だと思いますし、これからやはり少子化で、日本の経済が非常に厳しい状況になります。この中で、やはり対応できるような機動性のある、執行部はあってもらいたいと。
そのためには、やはり今回のようなガバナンス改革というものは、執行体制の強化、これは執行する方が強化するとすれば、これはもうアクセルですよ。それをチェックするのは監督する体制だと思っていまして、そういう体制をきちんとつくらなきゃいけないというのが我々の主張だったわけですよ。
それは一部取り入れていただいたので、私は、不十分だけれども是非進めていただきたい、このように思っております。よろしくお願いします。
○福原参考人 宮本議員、貴重な御質問ありがとうございます。
私学の価値というものでございますけれども、やはりこれには、質的と、私学という器的な、量的な問題とが、両面あるかと思いますけれども、まず、建学の精神というものを堅持をして、そして、これを時代や社会に合わせて実践をしていく。それの実践があるがゆえに、多様な教育機会というものを社会に提供しているということは大変大きいことかというふうに思います。
このことは、設置者として、国や地方自治体が設置する学校では取り組むことができない、そういう社会のニーズをいち早く取り組んで教育に反映させる、また、隅々の声をこの教育という現場に反映させる、こういった役割を果たしているものというふうに思います。
そして、私学というのは、また、器として、社会の様々なリソースを教育あるいは研究といった営みに投下するチャンネルでもございます。創立時の寄附等による基金の拠出にとどまらず、最近では、様々な社会連携によって、自治体、企業、また個々人、いろいろな方からの浄財、寄附が私学に集まることによって公教育をしっかりと支えているということもございますので、私学はそういった両面で我が国の公教育に欠かせない存在であるというふうに思います。
そして、ややもすると、私学というものは国立、公立の役割を補完するものだというような論調に出くわすことがございますけれども、私は、決してそうではなく、国立や公立ではなし得ないような、そういった社会のニーズをいち早く感じ取ってこれを実践していくというかけがえのない存在である、そういう価値をしっかりと認識するがゆえに、その価値を発揮できるための学校法人のガバナンス改革であるというふうに考えているところでございます。
ありがとうございました。
○藤本参考人 ありがとうございます。
三人の先生方の後に私がこんなことを答えていいのかなと思いますけれども、私は、学歴というのは、実は、最終学歴も大事ですが、最初学歴がもっと大事なのではないかなというふうに考えております。どんなところで何を学んだか。
人生で一番最初に出会う学校が幼稚園であります。その意味で、幼稚園の中で私たち私立幼稚園は、様々な思いを持ちながら、様々な子供たち、そして保護者の皆さんと真剣に向き合っております。私たちの思いに賛同してくださるお母さん、お父さん、こんな幼稚園でうちの子供を通わせたいな、そして、こんな幼稚園で私たちは働きたいなという先生、本当にそういう、お互いが相思相愛の関係でやっていくという、それが私立幼稚園の、私学のよいところではないかなというふうに思います。
つまり、全てが決まっている、そういう中での学校生活ではなくて、真っ白なキャンバスに、子供たちも、先生も、そして保護者の方たちも、自分が感じたり考えたことを自分で選んで、自分で行動に移して、自分たちでまたそれを評価していく、そういう主体的な営みができるのが私学のよさではないかな、それを大切にしていく使命を私たちは担っているのではないかなというふうに思います。
子育て支援ということが非常に今重要とされております。確かにそうですが、私たちが大事にしている子育て支援は、本当は、子育ての支援、子育てをすることを支援するんだ、子育ての全部を肩代わりすることではなくて、私たちの営みに対して賛同してくださる方とタッグを組んで、子供を真ん中にしていつも頑張っていきたい、それが私学の使命だ、存在意義だというふうに考えております。
以上です。
○宮本(岳)委員 幼児教育無償化したからやれという話じゃなくて、されなくてももちろんやっているし、それとは無関係にガバナンスが必要だとおっしゃるのはそのとおりだと思うんですね。
価値は認めつつも、ごく僅か、やはり深刻な問題が起こっている。
実は、私の大学の恩師が、大阪のさる私立大学の理事長らによる業務上横領事件が起こった、その私立大学の今理事長として再建に当たっておりまして、相当深刻な事件が起こっていることは事実なんですね。
いずれも、理事、評議員、監事等々を理事長が選任できる仕組みとなっていることから歯止めが利かないということですよね。それにどうガバナンスを利かせるかという議論が重ねられてきたわけです。
私たちは、今回の改正、一定の前進、歯止めが期待されるというふうに考えておりますけれども、ただ、今回、理事選任機関というものを選んでそこで選任するというんですけれども、この理事選任機関がどのような方から構成されるか、これは寄附行為で定めるとなっていますね。寄附行為で定めたならば、理事会を理事選任機関とすることが排除されていないというふうに私たちはちょっと読めてしまうんですけれども、ここは少し問題があるんじゃないかと思うんですが、田中先生と福原先生にお伺いできますでしょうか。
○田中参考人 ありがとうございます。
理事選任機関は寄附行為で定めるというふうになっておりますが、そこは各学校法人のやはり自律的な考え方が重要だと思っております。
理想的には、寄附行為という、いわゆる私学で言うところの校規を寄附行為と呼んでおりますけれども、その校規でどのように定めるかに関しては、寄附行為の設定例、寄附行為の改正例というものを文部科学省がお作りになるというふうに伺っておりますので、これを法案改正とともに可及的速やかにお出しいただくことがやはり一つモデルになると思うんですね。
私どもも、今自分たちで勉強しながら考えておりますけれども、理事の選任機関というものは、外部の方も入れ、それから内部の者も入れ、そして卒業生も入れる。そういう、やはりその三種類の方たちに集まっていただいて決めていくというのが必要なことだというふうに考えております。
そういうモデルの在り方というものは重要だと思いまして、そういうものが、私立大学連盟などで作っているガバナンスコードではまだそこまでは定めておりませんので、そういうところも、いわゆる遵守していただく規定、若しくは尊重するべきところというようなことを進めていく必要があろうかと思います。やはり、そこにも、コンプライアンス・オア・エクスプレーンになると思うんですね。
なぜそういうふうにならないか。例えば、規模の小さい小学校さんですと、なかなか適任者がいないので、その三者を集めることができないというようなこともあろうかと思いますが、それはまさにコンプライアンス・オア・エクスプレーンだと思うんですね。
どういうものがモデルになるかということは御議論いただけると思いますので、そこは文部科学省もお考えだというふうに伺っておりますので、そういうものをお見せいただくことが、私学全体がある程度共通の倫理観を持つことに役に立つのではないかと思っております。
以上でございます。
○福原参考人 まさに、監督、監視機能を万全に発揮させる最重要な手段というのは、業務の決定と執行を担う理事会の構成員であります理事と理事長の選任あるいは選定、解職ということでしょうか、による監督機能の強化ということでありますので、まず、今回の法案におきましては、その在り方をしっかりと、この在り方にフォーカスするということでございまして、これを具体的にどのように定めるかということは、ただいま田中総長からも御紹介ございましたけれども、様々な選任の在り方を各学校種ごとに調査をいたしましたところ、実に様々な現実が判明をいたしました。その中で、議員おっしゃるような、ある一握りの方々とか一人の方がそれを全て牛耳ってしまったがゆえに不祥事の発生の温床となってしまったという事例も散見されております。
そういうことを踏まえまして、多様性を踏まえながら、評議員会やその他の寄附行為に定める機関を明確にするようにという法令での定めでございます。それによりまして、評議員会とすることも、また、理事会以外で、役員選考会議とか、あるいは設立団体とか選挙実施機関といったような任意の機関はこれに当たるということも考え得るわけでございます。その中で、やはり理事会というものをその選任機関というふうにしたのであれば、そのことがしっかりと社会に説明できるような、そういった体制の下で決められることが必要であろうかというふうに思われます。
すなわち、各選任機関における選考過程の透明性を確保するということが必要でございますので、これは、寄附行為作成例や、また、先ほどの御質問にありましたガバナンスコードといったようなものでその点を規律づけて、そして、その在り方をそれぞれの学校法人が公開をして、社会的な信頼を確保するように努めていただくということになろうかというふうに思います。
ただ、本当に小さなところでは、理事会が、その理念を引き継いでくださる方々を、次はこういう方々に引き継いでいただきたいということを実際にお決めになって円滑に継承されていくという例もございますので、そういった例を全く防いでしまうというわけにはいきませんので、そういった場合には、こういう事情によってこういうふうな選任機関で選任したということが、しっかりと透明性のある公表がなされれば十分ではないかというふうに思います。
ただ、それが全ての大規模な大学にまで同じようなことまで許されるかというと、それは決してそうではないというふうに考えているところでございます。
以上でございます。
○宮本(岳)委員 時間が参りました。ありがとうございました。
何よりも、増田参考人から笑顔が見られたことが、今日は参考人質疑をやってよかったなと私も喜んでおります。
是非ともよいものにするために私たちも全力を挙げる決意を申し上げて、終わります。
ありがとうございました。