学問の自由 危機的状態
国大法改悪案の参考人質疑
衆院文科委 宮本氏質問
国立大学法人法改悪案の参考人質疑が14日、衆院文部科学委員会で行われました。同改悪案は、一定規模以上の国立大学に事実上の最高意思決定機関となる合議体の設置を義務付け、委員の選定を文科相の承認事項とします。
東京大学教育学研究科の隠岐さや香教授は、合議体の委員選定に大臣の承認を必要とする仕組みは、大学への政治介入を可能にし、大学のトップダウン経営を助長すると批判。「(大学が)特定の時代の政府や私企業の意図を反映した研究や教育をしていると疑われるようなことがあってはならない」と述べ、そのような疑いを生む条件は「徹底して排除しなければならない」と主張しました。
日本共産党の宮本岳志議員は、学問の自由をどう考えるかについて質問。「大変重要な部分であり、大学の本質だと認識している」(千葉一裕東京農工大学長)など、どの参考人も学問の自由の重要性を認めました。隠岐氏は、世界で学問の自由の後退が起きているなか、「表現の自由の後退と学問の自由の後退は連動している」と述べ、危機的状態にあることを示しました。
宮本氏が、政府が最終的にはすべての省庁を防衛体制の強化に協力させようと話し合っていると指摘し、「軍事研究に是が否でも(大学に)協力させたいという政権の意向があるのではないかと危惧する」と述べたのに対し、隠岐氏は、デュアルユース(民生技術の軍事利用)を「学長が推し進めることへのブレーキはない構造だ」と答えました。
(しんぶん赤旗 2023年11月15日)
議事録
○宮本(岳)委員 四人の参考人の先生方、本当に今日はありがとうございます。貴重な御意見をお伺いいたしました。
私は、大学の在り方をやはり検討するときには、お金の問題、経費の問題、これは国の責任です。ちゃんとそれを皆さんが心配ないように保障するのは当然だと思いますけれども、やはり、大学の自治、学問の自由という、憲法二十三条からくるこの大原則をまず第一に考える必要があると思うわけです。
改めてその原則がどのようなものかということで、この「註解日本国憲法」というようなものも最近学ばせていただいたんですけれども、日本国憲法は、一般的な思想の自由と区別して学問の自由というものをわざわざ書いているんだと。旧憲法にはそういうものはなかったんですね。旧憲法は、学問の自由というよりも国家のための学問という性格が強かった、こう書かれています。
なぜ学問の自由という形でわざわざ特記したのか。幾つか理由が挙がっていますけれども、その中に、学問上の進歩及び新発見は一般の常識的な世界観から見れば奇異に感じられることが多く、常に世間の常識的な見方から反対され、場合によっては迫害されるのであるが、やがて真理の力によって説得せずにはいなかったということが人類の歴史的経験である以上、この歴史的な経験を謙虚に尊重すべきであることとこの本には書いてあるわけですね。だから、世間的にはそれは何のための研究かよく分からぬようなことでもそれが大化けをする、そういうものが大体歴史の教訓なんだと。
その点でも、私は、やはりピアレビューというような形でちゃんと研究を評価するということは当然のことだと思いますけれども、この大学の自治、学問の自由に関する先生方のまずお考え、四人の参考人、順々に手短に聞かせていただきたい。
○千葉参考人 大変重要な部分であり、大学そのもの、大学の本質であるというふうに認識しております。それを守るために様々な施策で大学は努力をすべきだというふうに思っております。
○隠岐参考人 御質問どうもありがとうございます。
学問の自由について、本当に大事なことだと思っていますし、あと、先ほどちょっと、この機会をかりて資料にあったことを紹介させていただきますと、私の考えも入っていますので、十五ページを御覧ください。御覧になれる方は御覧ください。
現在、実は、世界中で学問の自由の後退ということが起こっているという認識があります。これは世界中の二千人以上の専門家を動員して行っている評価による、先ほども紹介した、学問の自由度指数、ちょっと指標と書いてしまいましたが、指数の結果です。二〇一二年から二〇二二年の間に多くの国が、このグラフの右下のところ、これは十年間で学問の自由度が後退したという国を示しています。日本はぎりぎり、かなり頑張っているという印象です。これが次第に悪くなると、例えば左下の方にある、一番悪いのは、たしか東アジアだと北朝鮮なんですけれども。
要は、何が言いたいかというと、学問の自由というのは、単なる大学だけの問題ではなくて、いわば、ある種の民主主義社会の自由の上限を測るものとして理解できるということです。そのような説がかなり出てきていまして、表現の自由の後退と学問の自由の後退はかなりの程度連動しています。
それですので、私は、研究を自由にするというのも大事だと思っているんですけれども、大学が自由な場である、つまり、気にせずに、私も今日、若くもないですけれども、ほかの先生方ほど経験のない身でここで発言させてもらえる自由、これが本当に、民主主義の国だなという実感を持っております。こういった形で、それぞれの立場から自由を示していけるような状態というのがやはり大学の関係者には必要ですし、もちろん、社会のほかのセクターでも同じように民主主義を守るために必要なことだと思っています。
以上でございます。
○田中参考人 学問の自由の根源的な必要条件は余裕だと思っております。ですから、新大学でも構成員が余裕を持てるようにというふうにうたっておりますけれども、余裕のためには財政的なものも必要になりますので、是非御支援をいただきたいと思っております。
もう一度繰り返しますけれども、やはり余裕のないところに発想の自由は生まれない、そういうふうに考えております。
○山崎参考人 皆さんとそんなに変わった意見を持っているわけじゃないですけれども、さりながら、今おっしゃったように、特に文系の一部だと紙と鉛筆があればできちゃうという考えもあるんですけれども、理系だとやはり環境がないとできないので、幾ら自由と言われても、環境はやはり自分で築かなきゃいけないです。それはやはり、競争的資金を取りに行かなきゃいけない。それはピアレビューなので、はやりでない研究をやると大体疎外されるんですよね。それは世の常なんです。認められない。というか、こんな変わったことをやって役に立つのみたいな感じになってしまうので。やはり我々のピアレビューする世界にもそういう自由度がない部分があるので、なかなか難しい問題。
根本に立ち返って、みんなで尊敬し合いましょう、認め合いましょうというのは、精神としてはあると思うんですけれども、現実にはなかなか難しい部分があって、さっき私が哲学とか宗教という話を持ち出しましたけれども、同じだと思うんですね。やはり誰かが守らないと自由は守られない、勝手にできるものじゃないなというふうに、学長経験者からとしてお答えさせていただきます。
以上です。
○宮本(岳)委員 学問の自由を否定される方はいらっしゃらないと思います。
余裕が必要だというお話もございました。本当に、基盤的経費で、運営費交付金で、余裕があるだけのお金を皆さんにたっぷりと保障するというのが本来の道だと思うんですよ。それをぎりぎりと、お金が欲しければこういうことをやれ、こういう話になっているから、なかなかトップダウンはあってもボトムアップが利かないということになっていると思うんですね。
それで、先ほど隠岐参考人が、ボトムアップが学術研究にいかに不可欠か、機会があったら語りたいとおっしゃいましたので、是非語っていただけますか。
○隠岐参考人 御質問ありがとうございます。
ボトムアップが本当に必要だというのは、二種類ありまして、一つは、恐らく研究者の方なら御存じかと思いますが、若い世代ほど新しいテーマとか変わった発想を持っているということは結構往々にしてあるわけです。もちろん、年配の方はないとは申しませんが、ただ、そういうのを経て、責任のある立場になっていらっしゃるから、余り奇抜なことをわざわざする必要もないということがあると思うんですね。
しかし、トップダウンで、例えば、でもうちの大学は今度この分野に力を入れるからというのを言われちゃうと、活躍の場がなくなる、減るような若手が出てこないかということも思うわけですね。なので、ボトムアップで、今度、今これが面白いんだと。
それから、例えば、ダイバーシティーだとかという、ちょっと研究じゃないように思われるかもしれないですけれども、結構今の科学の研究というのは、倫理的責任感というのを大事にするような雰囲気というのがあるんですね。そういうものを取り入れて新しい発想でやっていこうというような若手というのがいまして、そういうことが例えばそのときの大学の方向に合わなかったりということが起きると、その若手は外に出ていってしまうということになるわけです。
私は文系と理系の間の領域にいるんですけれども、やはり日本でなかなかできない研究があるなと。あと、さらに、人社系の方になると、明らかに、例えばマイノリティーの問題でとか、LGBTQだとか、LGBTQの健康なんというと文理両方になりますけれども、そういった問題を日本で研究しづらいので外国で就職したというふうな例が私の周りにあります。なので、ボトムアップで、どういう動きがあるかというのを上げていくというのがもっと強くならないと、大学としても豊かにならないというふうに私は思っています。
二つあると申したもののもう一個なんですけれども、もう一つはイノベーションの関連のことでして、研究とイノベーションを私はちょっと分けているんですけれども、イノベーションをするためには雑多な意見があった方が跳ねるものが出やすいという理論がございます。それは、いわゆる科学技術を使ったイノベーションでも、そうじゃないイノベーションでもそうなんですけれども。
欧米の最近のイノベーションの動向で、例えば、ボトムアップの、市民との対話を使って新しいアイデアをつくるだとかというふうなことがかなり奨励されているんですね。実際に、地球温暖化によい措置を取るためには、やはり、それこそ意思形成が不可欠なので、トップがCO2削減と言って走っても、結局国民がついてこなかったらうまくいかなくて、地球の環境にもダメージですので、そういった状況を起こさないためにも、イノベーションをするためには、ボトムアップの意思決定というか、ボトムアップでいろいろな知見を入れていって研究につなげることが不可欠だという議論がございます。
ですので、新しいことをするために、両方とも同じことを言っていますが、研究のためには研究者だけが大事じゃないという話もしています。研究者の中でもボトムアップが必要ですけれども、面白い研究のためには、実は市民の方、外部の方にも関わっていただくということは望ましくて、それは特にイノベーションのために生きるというふうに理解しております。
○宮本(岳)委員 ボトムアップがいかに大切か、必要か、よく分かりました。
今度のこの法案というのは、やはり、国立大学のありよう、これから先の国立大学が本当に国民の要請に応えていけるかどうかに関わる重大な法案ですから、真剣な議論、慎重な審議が必要だと思うんですね。
それで、四人の参考人の方々、いろいろ表現は違いますけれども、ボトムアップは要らぬとか、リーダーシップだけでいいという方はいらっしゃらないんです。どなたも、リーダーシップもボトムアップも必要だということをおっしゃる、重点はいろいろ差があると思いますけれども。
そういうときに、今もそういう努力をされていると思うんですね、各大学。ところが、リーダーシップというものを、じゃ、なぜ、最終的なリーダーシップをこれほどはっきりさせなきゃならないのか、そして、いざとなったら文部科学大臣が承認せずというような仕組みまで入れる必要があるのかと、大変私も不思議に思っておったわけでありますが、一つ思い当たるものがございまして。
実は、今年の八月二十五日に、総合的な防衛体制の強化に資する研究開発及び公共インフラ整備に関する関係閣僚会議というものが開かれております。防衛力の抜本的強化を補完して、それと不可分一体のものとして研究開発を進める、このことを閣議口頭了解して、文部科学大臣以下全ての大臣が参加をして、内閣官房で議論がされ、その中で、実は、要するに、全ての省庁は最終的には防衛体制の強化に協力させるということが話し合われているわけですよね。
ですから、やはり最後は、日本学術会議もそういう話でありましたけれども、デュアルユースという形で軍事研究に是が非でも協力させたいという政権の意向があるのではなかろうかと危惧するわけでありますけれども、この点について、隠岐参考人のお考えをお聞かせいただけますか。
○隠岐参考人 御質問ありがとうございます。
私はちょっとその点は詳しくはないのですが、ただ、確かに、こういうふうな体制にしますと、デュアルユースに何らかの例えば意見を持っている、そもそもそういう学長が選ばれづらくなっている現状はあるかと思うんですけれども、さらに、構成員が余り納得しない状態で学長がそういった方向を推し進めることのブレーキはないような構造だとは思っております。
その意味で、確かに、もしそういうことがあり得るとしたら、知り合いの自然科学の研究者でも、非常に、自分の分野の研究が自分の思想信条を超えた形で使われないかということを懸念している人はいますので、もしそのようなことになったら、かなり大学の中は混乱するのではないかということは危惧されます。
○宮本(岳)委員 最後ですけれども、あと残った三人の学長様、前学長様に、まさにデュアルユースという形で軍事研究をというこの要請について、皆様方はこれはやるべきとお考えか、そういうものはやはりありがたくないとお考えか、イエスかノーかでお答えいただけますか。
○千葉参考人 デュアルユースにつきましては、大変難しい問題だということは皆様御承知のとおりでございまして、科学技術において、一つの技術において、それをどちら側かということを区分けすることがほとんどのものはできない。要するに、それをどう扱うかという倫理観とか見識に関わっていることですので、それはまさに大学がしっかりとそこを考えていく重要な要素になっているというふうに思っております。
○田中参考人 一番問題となるのは、知らない間に使われていたということだろうと思うんですね。ですから、そういうことがないようなやはり仕組みを考えなければいけないと思います。
○山崎参考人 初めから軍事目的という名を打ってこの研究開発をということであれば多分どこの学長も反対するだろうと思いますが、過去の例を見ると、例えば、戦闘機のあれがテフロンになったとか、電波でいろいろするものがステルスになっちゃったとか、元々、例えばテレビの電波の二重を防ごうとか、いろいろな目的で民間で開発された技術ですよね。塗装でですね。それから、最近でいうとカーナビなんかもそうなんですよね。だから、そうはいいながら、上手に民生品にしっかり使われているものもあるので、微妙だなというのが私の立場ですね。
なので、最初から言われたらもちろんみんなで断ろうよというのがありますけれども、知らぬ間にと今おっしゃったけれども、知らぬ間ではないと思うんですけれども、民間ユースも考えると、そうでもないなと。巨額が投じられて、国民の皆様にその技術がしっかりと生活の中に入り込んでいくのであれば、それもありかなというふうに、微妙でございます。
お答えになっていないんですけれども、以上です。
○宮本(岳)委員 四人の参考人の先生方、誠にありがとうございました。御意見を踏まえて、慎重な審議が必要だと思っております。その決意を申し上げて、私の質問を終わります。
ありがとうございました。