強制出向 自民介入か
奈良教育大学付属小 宮本岳志氏が追及
衆院文科委
教員の強制出向が問題になっている奈良教育大学付属小学校をめぐり、自民党の文部科学部会で同校の人事に介入する発言が出ていた疑いが3日、衆院文部科学委員会での日本共産党の宮本岳志衆院議員の質疑で明らかとなりました。
宮本議員は同大学の三木達行副学長(当時)が説明している録音を入手したと述べ、そこで自民党の文科部会で議案となり、「(同小の)人事をどう考えているのか質問が出た」「政府として回答が必要」と説明していることを明らかにしました。また「相当の意見や批判が出た」としています。
自民党部会は1月30日に開かれ、望月禎総合教育政策局長は部会への出席を認めました。宮本議員は、自民党の赤池誠章参院議員がブログで「文科省の指導のもと、…教員の懲罰を検討」と書いていることを示し、「自民党に批判され、全員出向を大学に求めたのか」と追及しました。
望月局長は、「『全員かえろ』と言った事実はない」としたうえで、昨年12月に大学と打ち合わせをした事実を認めました。宮本議員は、国と大学との面談記録をすべて提出するよう求めました。
宮本議員は、付属小の教育課程についての昨年9月の大学の中間報告では小学3年と4年の理科の内容を関連づけて教えることについて「少しでもわかるようになる工夫」としていたと紹介。同じ箇所が文科省の指導後に大学が出した報告書で「不適切(年次違い)」と変わっていると指摘しました。「子どもがわかるようにする工夫を、指導要領に書かれている通りかどうかだけで『不適切』と判断するのはおかしい」と追及し、しゃくし定規な運用を改めるよう求めました。
(しんぶん赤旗 2024年4月4日)
動画 https://youtu.be/ef-AGweaWn0?si=5kgfHq18sqlz7pe4
配付資料 20240403文科委員会配付資料
*④は理事会で配付を止められた
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
資料一を見ていただきたい。今日も奈良教育大学附属小学校の問題について聞くんですけれども、地元紙、奈良新聞の三月二十五日付であります。一面トップで、附属小学校の教員異動、混乱の収拾見えずと掲げ、大学側は教職員の人事交流の必要性を説いた、しかし、大規模な人事異動によって学校現場の混乱も予想されることから、保護者の反発の声が相次いで上がり、説明会での議論は六時間にも及んだと報じられております。
三月三十一日には、奈良教育大学附属小学校の教育を守る市民集会が奈良県弁護士会館で開催され、私も現場に行ってまいりました。教育学研究者や学校の先生の発言もありましたけれども、保護者から、授業がゆっくりだと保護者も選んで来ているのになぜ今更問題にするのか、附小でしか息ができない子もいっぱいいる等々、次々と発言がありまして、会場は満員で熱気にあふれておりました。
まず、大臣に聞くんですけれども、この附属小学校では、一年契約だった先生がめでたく教員採用試験に合格して、この春公立高校に本採用されるという事情があったり、育休に入る、こういう教員がいるなど、元々、例年になく、いなくなる先生が多いということが問題になって、前から分かっておりました。これ以上先生を出せないという状態だったと聞いているんですけれども、そこで四人も強制出向させたら子供の教育が混乱すると私は思いますけれども、そうお思いになりませんか、大臣。
○盛山国務大臣 奈良教育大学附属小学校におけるこの問題、前回の文部科学委員会に引き続き宮本先生からいろいろ御指摘をしておりますので、ある程度の状況については承知をしているところでございます。
その上ででございますが、附属小学校における人事交流につきましては、大学の責任と判断により実施されるものでありますので、文部科学省としてコメントをする立場にはございません。
そう申し上げた上で、一般論としてでございますが、学校における学習活動が安定的に行われるよう指導体制を確保しつつ、人事交流等を通じて教職員の資質、能力の向上や開かれた学校運営に取り組み、よりよい教育の実現を図っていくことは有意義なことであると考えております。
○宮本(岳)委員 安定的に行われないから、保護者も説明に納得できず、六時間やり取りしても納得されないわけです。
現地で伺ったら、強制出向の結果、校長、教頭、主幹という管理職全員が入れ替わるということなんですね。どの学校関係者に聞いても、こんな人事はあり得ない、学校が回らなくなるという声です。学校方針、教育課程、学校の重点、校内人事、持ち時間、クラス担任などをよく知っている管理職が一人も残らなかったら、学校は本当に回らないと思いますね。
私は、前回、三月十三日の質問で、今年の一月三十一日に、学校側が文科に、まさかこのメンバーでこの四月を迎えるのではないでしょうねと言われた、文科省の上層部から全員替えろと言われて、それでは運営ができないということで何回も折衝した結果、こういうことになってしまったと附属小学校の先生たちに大学側が説明したことを明らかにいたしました。
文科省はこの事実を確認いたしましたか。
○望月政府参考人 お答え申し上げます。
奈良教育大学と附属小学校教員との、学校関係者との具体的なやり取りにつきましては、文部科学省として把握する立場にはないと思ってございますけれども、先生から特別の御依頼がございましたので、現在、大学に対して事実確認をお願いしているところでございます。
なお、繰り返しで恐縮でございますけれども、文部科学省の方から大学に対して、教員を全員入れ替えろというようなことを言った事実はございません。
○宮本(岳)委員 現場で大学側がそう説明しているということを申し上げたんですね。音声、録音データがあるんです。私はそれを全て聞かせてもらったけれども、間違いなく、そう、大学側はですよ。これは文科省と大学側の録音データじゃないですよ。大学がそう説明している音声データ、録音データを聞いたら、確かにそう大学は説明をしているわけですね。
同席していた三木副学長が文科省上層部から全員替えろと言われたなどと説明しておりまして、文科省は、まさかこのメンバーでこの四月を迎えるのではないでしょうねとか、全員替えろ、先ほどそんなことは全く言っていないということですが、確かにそんなことは一切言っていないんですか。いかがですか、望月さん。
○望月政府参考人 繰り返しで恐縮でございます。
昨年の十月十日に、奈良教育大学より、今般の附属小学校の事案につきまして、それまでの経緯、今後の対応方針についての御説明をいただいたところでございます。
その際、人事交流につきましては、あくまで一般的な例として、他の附属学校において多く実施されております人事交流については言及をいたしました。閉鎖性を打破するというようなこともございます。人事交流全体についてのことを言及したので、個々の人事についての、こちらとしては大学に対して指示をしたものではございません。
国立大学附属法人の人事につきましては、繰り返しで恐縮でございますけれども、各国立大学法人の権限と責任に基づいて行われるものでございまして、附属学校の教員の人事交流につきまして、文部科学省が大学に対して指示をするものではございません。
○宮本(岳)委員 困りましたね。大学側は、確かに文科から言われたと語っております。文科省は、言っていない、こうおっしゃるわけですね。どちらかがうそをついていることになります。
これは重大な問題でありますけれども、大学側の説明がうそ、作り話だとしたら、そのうそや作り話の説明の上で行われた強制出向であり、これは撤回する以外にないと思います。
逆に、文科省が、まさかこのメンバーでこの四月を迎えるのではないでしょうねとか全員替えろと言ったのが事実であれば、それは違法な圧力であって、局長だってそれはやれないということをお認めでしょうから、これもまた、そういう違法な圧力の下で進められている強制出向は撤回以外にない。
どちらにしても、今回の強制出向は速やかに撤回する以外にない、これは強く申し上げておきたいと思います。
では、真相はどうか。
大学側の説明の内容は極めて具体的です。大学側を代表して語っているのは、いずれも三木達行副学長であります。文科省、この三木副学長は、二〇二二年に国立大学法人奈良教育大学の副学長兼事務部長となる以前、二〇二一年七月以降は文部科学省の総合調整本部の国会連絡調整官でしたね、官房長。
○井上政府参考人 委員御指摘の三木につきましては、御指摘のとおり、奈良教育大学副学長就任以前において、文化庁総合調整本部国会連絡調整官として国会との連絡調整等を行っております。
○宮本(岳)委員 文科官僚、しかも国会連絡調整官ですね。奈良へ行く前に私のところにも御挨拶がございました。私は録音データを聞きましたけれども、確かに三木さんの声ですね、生々しく文科に言われたことが出てまいります。到底作り話とは思えません。
三木副学長はこれ以外にも不理な圧力を説明しておりますけれども、例えば、昨年十月四日、附属小学校の教育課程などへの再調査についての説明の場で、文科省から、設備要求を二億円しているけれども、この問題の行く末が見えない限りは財務省と闘えないという話をされていると語っておられます。大学に二億円の予算が欲しければ言いなりになれと言わんばかりの話ですけれども、事実とすればですよ、こういう話をあなた方文科省は大学にやったのですか。
○望月政府参考人 大変恐縮でございますけれども、今委員から御指摘の点は我々承知していないところでございます。
○宮本(岳)委員 二億円の予算が欲しければ言いなりになれというようなこと、二億円の設備要求、これに関わるということは言ったことはないんですね。高等局長でもいいですよ。ないですか。
○池田政府参考人 今御指摘の予算がよく分かりませんけれども、私も、そのようなことを申し上げたとは承知しておりません。
○宮本(岳)委員 これも、私も音声データを確認いたしました。設備要求を二億円しているけれども、この問題の行く末が見えない限りは財務省と闘えないと言われたと、これも三木さんですけれども、語っております。昨年十月十日以降も、文科省は、一月九日の報告書までの間に奈良教育大とやり取りをしてきた、大学側とZoomなどで協議をしてきたことを認めております。
私は録音データのことに触れましたけれども、それはいずれも三木副学長と大学側がそう説明しているその音声でありますから、あなた方と大学側がどういうやり取りをしたかの音声というものには触れておりません、それは。でも、文書なり音声なりというのは残っている。少なくともZoomでの打合せ等々がやられてきたことを文科省はお認めになりました。
文科省側と奈良教育大学側との附属小学校に係る相談、打合せの記録を、リアル、オンライン問わず、音声を含む資料を提出していただきたい。いいですか、望月さん。
○望月政府参考人 委員御指摘のとおり、昨年十月十日以後から本年一月九日の奈良教育大学とのオンラインを含む打合せにつきましては、現在確認中ではございますけれども、関係課への聞き取りによりますと、十二月に打合せが実施をされている、ウェブ会議での実施がされているということは確認できてございます。
本年一月九日までのオンラインを含む打合せに関しまして、行政文書ファイル簿に登録されております、行政文書ファイル等に保存されている文書につきまして、これまで関係課に確認をしてございますけれども、本日時点で該当する文書はございません。
○宮本(岳)委員 それも聞いているんですけれども、是非、手控え、メールなど、徹底的に探して提出していただきたい。
大学側は、前回の質問でも紹介したとおり、文科省から、自民党の文教部会でこの事態が議案に上がり、かなりの御意見、御批判を受けたと言われております。三木副学長は、自民党文部科学部会を昨日だと語っております。説明は一月三十一日ですから、自民党の文部科学部会はその前日、一月三十日だったはずであります。
望月総合教育政策局長が一月三十日の自民党文部科学部会に出席し、報告したことは分かっております。事実確認ですが、出席いたしましたね、望月さん。
○望月政府参考人 出席してございます。
○宮本(岳)委員 日付もぴったり、三木さんの話は確かなんですね。
この日の自民党部会の様子を、ここにもおられる山田賢司衆議院議員がネットで公開されております。資料二につけておきました。それによれば、奈良教育大附属での不適切な教育が行われていた事案が議題となり、文科省より報告を受け、質疑、意見交換が行われたとなっております。さらに、下線部、国の指針に反する教育が長年にわたって行われ、結果、大人の都合で子供たちの教育機会が奪われてしまったと、附属小学校の先生たちをあたかも子供の教育を奪った罪人であるかのように扱っております。
三木副学長の録音データを聞くと、文科省は、昨日の自民党の文部科学部会でかなりの御意見、御批判を受けたと述べた後、政府としても様々なことを回答しなければならない、第一は子供の回復措置をしっかりやってほしい、あわせて、人事をどう考えているのか質問が出た、こう語っております。
あなた方は、文科省は、自民党に厳しく批判されて、全員出向という厳しい方針を大学に求めたのではありませんか。
○望月政府参考人 一月三十日の自民党文部科学部会におきましては、私の方から、今般の奈良教育附属小学校における事案の概要、法令違反の疑いもあるということも含めまして、概要を御説明いたしました。
また、他の国立大学附属学校への注意喚起なども含めた、文部科学省としてのその後の対応についても御説明をしたところでございます。
ただ、その際、出席の先生方からの御意見につきましては、党の会議でございますので、私の方からお答えすることは差し控えさせていただきたいと思っております。
○宮本(岳)委員 人事についてどう考えているのかという質問は、あったかなかったかも言えませんか。
○望月政府参考人 記録を何かこちらで取っているものはございません。私の方からお答えは差し控えさせていただきます。
○宮本(岳)委員 これも食い違いますね。
赤池誠章参議院議員は自民党元文部科学部会長でありますけれども、総合教育政策局長、赤池議員を御存じですか。
○望月政府参考人 参議院議員の赤池議員は知ってございます。
○宮本(岳)委員 資料三は、その赤池誠章参議院議員の今年一月二十五日のオフィシャルブログであります。タイトルは、「奈良教育大学付属小学校で法令違反 左翼の巣窟か」となっております。
奈良教育大学の報告書には、不適切という言葉はあるんですけれども、法令違反とは全く言っていないんですね。先ほど少し望月局長も法令違反の疑いとは言われましたが、法令違反があったとは大学自身も言っていないんです。それを誇大に法令違反とねじ曲げて、さらには左翼の巣窟呼ばわりまでしております。
そして、続けて何と書いているか。下線部。奈良教育大学では、文科省の指導の下、子供たちに補習等の回復措置を実施するとともに、教員の懲罰を検討するとのことですと書いておりますね、教員の懲罰を検討する。
文科省は、大学の説明どおり、自民党から人事をどう考えているのかと圧力を受けて、懲罰を検討させているのではありませんか。
○望月政府参考人 議員の方からの配付資料でございました赤池議員のブログの内容でございますけれども、ここは、個々の議員の発言内容については、文部科学省としてそのお答えは差し控えさせていただきますが、議員のいろいろな御意見、我々としては、政策の立案に関することやいろいろな大きな事案になることにつきましては、個々の先生方にも御説明をしたり、あるいはそれぞれの部会において御説明をしております。
そこでの個々の先生方の御発言というものは、非公開の部会でございますので、私の方からつまびらかにすることはもちろん差し控えさせていただきますけれども、決して、部会でどういった意見があったかということではなく、また、大学あるいは学校の方に強制的に人事等につきまして指示をしたというものではございません。
○宮本(岳)委員 食い違いがあるわけですけれどもね。まさに、自民党の文部科学部会に参加された方々が語っておられることと三木副学長が言われたと語っていることとは一定合致するわけですね。最終的に文科省の説明は、そういう強制に当たることは言っていない、こういうことであります。
赤池参議院議員は、二〇一八年、前川喜平前事務次官が同年二月に名古屋市立中学校で講演を行ったことを問題にし、当時の自民党文部科学部会長代理の池田佳隆衆議院議員とともに、名古屋市教委に前川さんの講演を事細かく調査するよう圧力をかけたことが報じられた人物です。その池田議員は、御承知のとおり、既に裏金問題で逮捕されました。
文科省は一体大学側に何を話したのか、その音声、つまり、大学側と文科省とのやり取りの中身ですね、圧力がなかったというのであれば速やかに提出することを求めたいと思います。
次に、附属小学校の教育課程が学習指導要領どおりではなく不適切だとされた問題についてお聞きをいたします。
この附属小学校の教育は、前回の私の質問に文部科学省も、非常にモデル的な、よい教育をやってきたと答弁されております。現地で先生方から、昨年九月の大学の中間調査報告では不適切という言葉はほとんどなかったと聞きました。
私は、ここに、その昨年九月の基礎報告書、中間と題された文書のうち、理科の部分を持ってまいりました。大学が公表していないということを理由に、今朝の理事会で配付は差し止められたわけでありますから、私が読むしかないんですけれども、昨年九月に行った基礎報告書、現場の大学の先生がやった最初の調査報告書ではこう書いているんですね。
理科、学習指導要領に基づき適正に行っています。例えば、小学三年における物の体積と重さを、小学校四年の物の温度と体積、物の温まり方、閉じ込めた空気と水に関連づけた指導を行っています。このことは小学五年、六年の学習にも生かされています。このように関連づけることで、子供たちが少しでも分かるようになる工夫をしてきています。これは、新学習指導要領で特に強調されているカリキュラムマネジメントを意識した取組となっています。附属小学校では、この文言が出てくる前から既に取り組んでいます。その他の単元でも、教育課程を俯瞰し、どこの単元がどの単元と関連づけて指導を行うと効果が上がるのかを常に意識して研究を行っています。
読み上げましたが、そう書かれております。
小学校三年生で扱うとされる物の重さは、形が変わっても重さが変わらないとか、体積が同じでも物によって重さが違うなど、重さについての抽象的な思考が必要で、三年生では難しいとも言われているんですね。それを四年で、それに関連した単元と一緒に、子供たちが少しでも分かるように工夫した、私は大変先進的な取組だと、この中間的な中間基礎報告書、中間報告書で語られていることは妥当だと思っておりますけれども、この物の重さの部分は、では、最終的に公表された奈良国立大学機構奈良教育大学の事案に係る報告書では何と書かれておりますか。
○田野瀬委員長 速記を止めてください。
〔速記中止〕
○田野瀬委員長 速記を起こしてください。
文部科学省望月総合教育政策局長。
○望月政府参考人 大変失礼いたしました。
一月九日に取りまとめられました奈良教育大学の本事案に関する報告書においては、理科の、物の重さを四年で指導というところは、年次違い、事後、指導不足に関する教育における目安の時数は六時間程度の不足というふうになっているところでございます。
○宮本(岳)委員 子供たちが少しでも分かるようにと工夫してやられたことを、指導要領に書かれているとおりかどうかだけで判断し、不適切とする、そういう報告書になっているんですね。
大臣、指導要領をこんなしゃくし定規に使うのはおかしいと私は思いますけれども、いかがですか、大臣。
○盛山国務大臣 宮本先生よく御案内のとおり、学習指導要領は、学校教育法等の法令の規定に基づいて、教育の機会均等と全国的な一定水準の維持のために、文部科学大臣が定める教育課程の大綱的な基準であります。全体として、法規としての性質を有するものであります。この点は過去の最高裁判例において示されているものと認識しております。
その上で申し上げますが、学習指導要領につきましては、その具体的な項目によっては、もとより学校や教師の判断や裁量を広く想定しているものもあり、何がどこまで学校や教師の裁量が認められるかについては個別具体に判断されるものと考えております。
各学校においては、学習指導要領の規定に基づいた上で、児童の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮して、創意工夫を凝らした教育課程を編成していただきたいと考えています。
○宮本(岳)委員 学習指導要領は一体何のためにあるのか。子供たちがよく分かるようになるためにあると思うんですね。
ここに、「「少ない時数で豊かに学ぶ」授業のつくり方」という本を持ってまいりました。副題は「脱「カリキュラム・オーバーロード」への処方箋」。カリキュラムオーバーロードとは、あれもこれも教えようと詰め込んだ結果、オーバーロード、つまり、荷物の積み過ぎになった。ここからの脱却が日本でも世界でも求められているということであります。
この本の中で、合田哲雄さん、二〇〇八年の学習指導要領改訂を担当し、今、文化庁の次長をやっておられる方が、合田さんはこう書いております。資料五につけておきました。「学習指導要領は、教育基本法や学校教育法に規定された学校教育の目的を実現するための具体的な手立てや手段を定めた大綱的基準であるため、学校や教師は、学習指導要領が示したもの以外の内容を加えて指導したり、単元のまとまりを見通して特定の内容に思い切って重点を置いて指導したり指導の順序を組み替えたりするなど児童生徒の実態に即した創意工夫が可能である。」指導順序の組替え、まさに先ほどの附属小学校の理科の例そのものでありますけれども、文科省で指導要領に関わってきた方々が、学校の現場や教師の広い裁量を認めた方がいい、こう言っている事実もあるわけですね。
ところで、大臣は灘中学、灘高校の出身でありますけれども、「銀の匙」授業のことは御存じですか。
○盛山国務大臣 私どもの担任ではありませんでしたが、ほかの学年の担任で、著名な、最後は灘の教頭先生をされた橋本武先生だったと思いますが、「銀の匙」を使って国語の授業をずっとされていたというのは承知しております。
○宮本(岳)委員 橋本武先生が灘中学で行った授業、中勘助さんの小説「銀の匙」、これですけれども、この一冊の薄い文庫本を、中学一年から中学三年まで、時に横道にそれながら徹底して読んでいく、必要なら一ページに何日もかける、それが国語の授業の全てだということでやってこられた。奇跡の授業という本にもなっているんですね、これですけれども。
灘校は中高六年間同じ教師が教え続けるシステムでありますから、今大臣がおっしゃったとおり、六年ごとでしかこの先生の授業は受けられない。大臣の入学年次を調べますと、大臣はこの授業は受けておられないということを私も分かっております。
「奇跡の教室」というこの本の中で、授業を受けたOBたちがどんなにいい授業だったかということを語っています。資料六につけておきました。例えば、東京大学第二十九代総長の浜田純一先生は、改めてすばらしい授業だったんだなと思いますね、「銀の匙」で橋本先生がやってくださったのは、僕らが例えば大学で原書講読をやるやり方と似ています、ゆっくりとしたペースで、言葉や文章表現を丁寧に読み解いていきますよね、筋として何を言っているかということばかりじゃなく、ある一つの言葉にこだわることで、その背後に大きく広がっている概念や感覚や考え方とつながっていくわけですと述べておられます。
大臣、こういう授業が多くの人から奇跡の授業と高く評価されていることについてはお認めになりますね、大臣も。
○盛山国務大臣 この浜田元東大総長に限らず、多くの人がよかったと言っているのは承知しておりますが、ただ、我々の学年を含め、橋本先生以外の担任の学年ではそういった授業はしておりませんですから、何がベストでというところはちょっと何とも答えられませんが、評価されていることは承知しております。
○宮本(岳)委員 だったら、ちょっと局長に確認しますけれども、この授業も、学習指導要領に照らせば不適切であり、回復措置の対象となるんですか。
○矢野政府参考人 義務教育におきましては、一定の規模と妥当な内容の教育を保障する、こういう観点から学習指導要領が定められているわけでございまして、最低限これはこなす必要があるというものが学習指導要領でございます。
その上で今のような授業をやっていただくというのは学校の判断、こういうことだと考えております。
○宮本(岳)委員 いやいや、これだけをやっているんですよ、この「銀の匙」の授業というのは。
まさか、灘中学校でこの「銀の匙」授業を受けられた浜田純一東大総長や、この本に出てきますが日弁連第三十六代事務総長の海渡雄一弁護士に、回復措置が必要とはとても言えないと思いますね。
橋本武先生は、国語は全ての教科の基本です、学ぶ力の背骨という信念の下、考えに考え抜いて奇跡の授業を行いました。教え子たちはその授業から多くのものを受け取り、その後の人生の糧にしたんです。
これも認めない、硬直し切った学習指導要領は何なのか。大綱的基準という原点に戻って、そのしゃくし定規な運用を根本的に改めることを求めて、私の質問を終わります。