表現の自由への萎縮
宮本岳志氏の質問に参考人
衆院総務委
プロバイダ責任制限法改正案の参考人質疑が16日の衆院総務委員会で行われ、日本共産党の宮本岳志議員が質疑に立ちました。
同案は誹謗(ひぼう)中傷などの違法・有害情報に対処するための措置を、SNS等を運営する大規模プラットフォーム事業者に求めるもの。
宮本氏は「一番の論点は表現の自由と被害救済」とし、改正案について「参考人からはバランスの取れたものと話があった」と述べた上で、被害の届け出があれば権利侵害性の有無を確認せず投稿を即時削除するよう事業者に求める声に対し、法案検討過程の「とりまとめ」が指摘した問題点について質問。検討過程に関わった虎ノ門南法律事務所の上沼紫野弁護士は「同法は権利侵害情報一般に関わる。名誉毀損(きそん)等は公的機関に対するものも含まれ直ちに削除するのは表現の自由への萎縮効果をもたらす」と説明しました。
宮本氏は、事業者が自主的に定めたルールを守らない場合、勧告や命令に加え罰則を科す今回の改正について質問。龍谷大学法学部の金尚均(キム・サンギュン)教授は「拘禁刑を含む罰則を定め、立法者の強い意志を見る」としながら「自らつくったルールに対する違反であって、罰金の額も含め非常に慎重を期した法案だ」と述べました。
宮本氏が「アテンションエコノミーなどインターネット特有の問題こそ対処しなければならない」と述べ意見を求めると、国際大学グロバールコミュニケーションセンターの山口真一准教授は、過激なコンテンツで注目を集め金もうけをするものだと説明。「誰もが参入できるようになり、偽の救助要請などが投稿され混乱が生じた」「偽・誤情報を公開しているウェブサイトへの広告収入の停止などさまざまな対策の積み重ねが今後求められる」と述べました。
(しんぶん赤旗 2024年4月20日)
動画 https://youtu.be/x2g3QsKGs6s?si=rRB8STZEMZa9kyAo
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
三人の参考人の先生方、誠に貴重な御意見、ありがとうございます。
実は私は、二十三年前にこのプロバイダー責任制限法というものを作ったとき、参議院議員でしたけれども、最初に審議に当たった本人なんですね。二〇〇一年十一月六日の議事録を懐かしく読んだわけでありますけれども、こう言っています。「名誉毀損やプライバシーの侵害などから国民の権利をどのように守るのか、自由な言論、市民の情報発信の権利と機会をいかに拡大するのか、こういう大きな観点から見るならば、」この当時の法案ですよ、「本法案はプロバイダー営業保護法案とでも言うべき範囲の狭さを指摘せざるを得ないものになっております。」と。
本当にこの先、ネット社会というものをどう人類の文化と民主主義の発展に資するものに育てていくかという点での大きな視野からの検討がまだまだ足りないんじゃないかということを当時申し上げて、それから二十三年たって、今回こういうふうにプロバイダー責任法という、法律名も変えてプラットフォーム事業者の自主的な規律をという点での発展に至ったということは感無量なものがございます。
そこで、もちろん一番の論点は、表現の自由と被害の救済といいますか、そういうことになってこようと思うんですけれども、これをしっかり議論されてバランスの取れたものになっているというのが大体先生方のお話だったと思います。
そこで、まず上沼参考人にお伺いしますけれども、プラットフォームサービスに関する研究会の第三次取りまとめを見ておりますと、しかしながら、被害の届出、要請に応じて自動的、機械的に削除するということをプラットフォーム事業者に義務づけることについては、公的機関等からの要請があれば内容を確認せず削除されることにより利用者の表現の自由を実質的に制約するおそれがあるため慎重であるべきであるという結論が書かれておりますし、先ほども、ノーティス・アンド・テイクダウンについて、直ちに削除というのは問題が多い、こういうお話がございました。
この辺りの判断について、まず上沼参考人からお話をお聞かせいただきたいと思います。
○上沼参考人 御質問ありがとうございます。
まず、公的機関からの削除要請に関して言うと、公的機関が既に存在する情報の削除を直接要請して、それについて判断なく削除を認めるということになると、公的機関が直ちに削除できるということと同義になりますので、これは公的機関による検閲とか事前抑制とかにつながりかねない結果をもたらすというふうに考えましたので、そこについては日本の法律としては適切ではないのではないかなというようなことを考えた結果としての今の状態であります。
あと、ノーティス・アンド・テイクダウンに関しては、二〇〇一年の検討のときに携わられたということであれば、そのときにも似たような議論がされているのではないかと思いますが、プロバイダー責任制限法のモデルとしたDMCA、デジタルミレニアム著作権法ですね、あれはノーティス・アンド・テイクダウンなんですけれども著作権に限っているので、なので、そういう意味で、民主の過程に関わる情報発信が日本のプロバイダー責任制限法よりは少ないだろうという価値判断があったわけです。
日本のプロバイダー責任制限法は、権利侵害情報一般に関わりますので、名誉毀損、プライバシー侵害に関しては、それが例えば公的な機関に対するものとか、そういうものも含まれることになります。そうなりますと、それが直ちにまず削除という話になると、それは表現の自由なり民主的な過程に対する非常な萎縮効果をもたらすことになるというふうに考えられますので、ノーティス・アンド・テイクダウンという方策はここでは取られていないというような形になっております。
以上です。
○宮本(岳)委員 そういう意味では、私は、今回の法案に罰則が盛り込まれたということについて最初は随分検討を私たちも重ねたんですね。それが、何らかの形での表現行為が罰則によって規制されるということがあればこれは重大なことでありますけれども、今回の罰則というのは、自主的なルールを大規模プラットフォーム事業者に作ってもらって、あらかじめ公表もしてもらう、そして対応についてのルールも明らかにしてもらう、そういうことをやってくださいよということを全体としてお願いしながら、それが守られなかった場合に例えば勧告であるとか命令であるとかという形で、報告を求め、勧告をし、命令という形で重ねた上で、最終的な実効性の担保のためにということになっていようかと私たちは受け止めております。
直接プラットフォーム事業者を国が罰則でもって規制するというようなことは私は日本の憲法上許されないというふうに思うんですが、この点については、では三人の参考人の皆様方、順々に、そういうことは許されないというふうに思うんですが、いかがでございましょうか。
○上沼参考人 御質問ありがとうございます。
今回の罰則のたてつけに関しては、おっしゃっていただいたとおりでして、直接、例えば削除したり削除しなかったりしたことについての罰則というわけではなくて、あくまでも、御自分で作ったルールを明らかにしてくださいとか、そういうことについて、それに実効性を持たせるためのものとなっております。
表現行為についての削除や削除しないという判断そのものを罰則の対象にしてしまうということは、非常に表現の自由に対する侵害となる可能性が高い行為だというふうに認識しておりますので、そのようなことにはならないようにというふうな配慮はされていると思います。
以上です。
○金参考人 今回の法案は、先ほど申しましたように刑事規制立法になったわけですね。拘禁刑も定められています。また、罰金刑というふうな形で、行政罰であるいわゆる過料ではなくなりましたね。そこはやはり今回の国会、立法者の強い意思を見ることができるかと思うんです。
ただし、今回の刑罰の対象というのはあくまで、SNS事業者が自ら作ったコンプライアンスプログラム、これに対する違反なわけですね。それをどれだけ遵守しているかという、そこにまずは改善を置き、そして改善に従わなかったときに命令し、最後に罰則の適用を検討するという、いわゆる直接罰方式ではなくて間接罰方式を取っているというふうなことでございます。今回は、罰金の額もそうですけれども、非常に慎重に慎重を期した立法の作りではないかというふうに考えております。その上では、非常に合理性を担保しているというふうに私は理解しております。
○山口参考人 御質問いただき、ありがとうございます。
私からは三点ございます。
まず一点目、罰則のたてつけというところに関しますと、まさに御指摘のところかなというふうに考えております。既に各参考人がおっしゃっているところですので私からは割愛いたしますが、とりわけ、あと、例えば罰則についても、多額の過料を科すとかという話になってくるとやはりオーバーブロッキングの懸念とかも出てきますので、そういう意味でも、今回かなり慎重を期して、バランスということに注目して法律案というものが出てきたのかなというふうに考えている次第です。
二点目に関しまして、御指摘のとおり、言論の場となっている民間事業者に対して、判断そのものに対して罰則を設けて介入するということ、これは極めてリスクの高い行為ですので、あり得ないというのは私も同意するところです。
三番目、この問題は、もちろん今回はプラットフォーム事業者が議論のメインとなっておりますのでプラットフォーム事業者の話をするわけですけれども、事業者だけでどうこうというような問題でもないんですよね。例えば私が提示しましたインターネット上での誹謗中傷経験率のデータがございましたが、これが何と、インターネット以外、つまりリアルの社会でどんな経験がありましたかというふうに調査すると、何とインターネット上のたしか二倍弱ぐらいの経験があるんですね。つまりインターネット以上に現実社会で誹謗中傷されているというふうに答える人が多いということで、誹謗中傷というのは、インターネットはもちろんですが、インターネットだけじゃなくて社会全体の課題であるというふうに私は非常に理解しているところです。そういう意味でいっても、多角的なアプローチは極めて重要でして、情報の生態系全体について、プラットフォーム事業者に今回はフォーカスして規律というものを作っているわけですが、その他の手段も併せて社会全体としてこの問題に取り組んでいくということが何よりも大切かなというふうに考えている次第です。
以上です。
○宮本(岳)委員 やはり被害は深刻なものは深刻でして、私の同僚議員、うちの党の議員も成り済ましのような形の被害があって、これが大規模プラットフォーム事業者はなかなか改善してくれないということで、そういう質問も先日御本人がされておりましたけれどもね。なかなか、相談、そういうことを申告する、届け出る窓口がよく分からないとか、日本語で書かれていないということから分かるように、まさに大規模プラットフォーム事業者というのはグローバル事業者ですよね。そういう点で、これの実効性、先ほど、そういう枠組みでの、罰則も含めてということですけれども、しかし、一方では、我々はグローバルでやっていて日本の法律に縛られる筋合いはないんだという言い分というものが出てくる可能性がないのかなとちょっと心配するわけであります。これは上沼参考人に、グローバルな事業者に対してどう実効性を担保していくのかという点ではどういう検討がなされたんでしょうか。
○上沼参考人 御質問ありがとうございます。
グローバルな事業者さんが多いというのはおっしゃるとおりなんですけれども、検討会の場では、日本で事業をしている以上、日本の法律に従っていただくのは当然でしょうという前提でおりましたので、そういう意味で、グローバルな事業者だから緩くなるということは全然なくて、むしろグローバルな事業者にどう日本の法律あるいは日本の社会に対応した対応をしていただくのか、そのための実効性をどうするのかというような形での検討をしておりました。それが今回の例えば調査員の選任の義務とか、そういうような形で立法化されているという認識でございます。
以上です。
○宮本(岳)委員 今出ている事業者、想定される事業者というのは、今お話があったように、日本国内での連絡先も全部明かしてもらうというようなことで対応していくということでしょうけれども、ただ、こういうものができますと、それをすり抜けるような大規模プラットフォームというものができてこないのか。つまり、逆にそれをすり抜けるために様々な知恵を持ち出してくるということがあり得ないわけではないでしょうけれども、最終的にそれをどうにかするというのは可能なんでしょうかね。上沼さん、もう一言。
○上沼参考人 いわゆる脱法行為の検討があるというのはどの法律でもあるかなと思っていまして、やはりそれは、そのような行為ができたときにそれに対応して最も適切な対応方法を考えるしかないのかなというふうには思っております。そういう意味で、今現在検討される今現在の対応に対する対策というふうに考えている次第です。
○宮本(岳)委員 先ほど上沼参考人も、一方では社会が寛容でないような気がするという言葉も少し出されました。
それから、山口先生のお書きになったものを読ませていただきますと、まさにアテンションエコノミーであるとかフィルターバブル、エコーチェンバー、こういったものが特にネット社会に特有の現象として指摘をされております。これはなかなか重要な論点だと思うんですよね。
こういうものについてどう対応していくのかというのは、これからのネット社会の、私が二十三年前に、そのときのプロバイダー責任制限法ではプロバイダー事業保護法にすぎないと言ったその立場から翻れば、こういう問題にどう対処していくのかということこそ本当に今我々が考えなきゃならないことだと思うんですけれども、この点について、口端に上せられた上沼参考人と、そして山口先生から少し御意見を御開示いただきたいと思います。
○上沼参考人 御質問ありがとうございます。
フィルターバブルとかアテンションエコノミーとかに関する問題は、インターネットの根本に関わる重要な問題であると認識はしておりまして、ただ、これをどう規制するのかは非常に難しい問題だと思うんですね。
なので、まずはユーザー個人が適切に情報を取捨選択できるようにするということを前提に、例えば、それを教育、システム、あるいは法制度が使えるのであれば法制度という形で多角的に検討していかないと、ここはまさに民主的基盤に関わる問題だと思っておりますので、喫緊の課題だなというふうには認識しているところです。
○山口参考人 御質問いただき、ありがとうございます。
私からは、時間の都合上、一つのテーマに絞ってお答えさせていただきたいと思います。
私が昨今特に注目しているのがアテンションエコノミーというテーマです。
アテンションエコノミーについて簡単に申し上げますと、関心経済というふうに訳せるわけですが、要するに、情報があふれる高度情報社会において人々の注目をぱっと引くということがお金につながるというような議論ですね。例えば、昔であれば、ネットメディアのあおり見出しとか、そういったことがよく問題になったわけですね。つまり、中身と全然違うあおり見出しをつけることによって、あるいは過激な見出しをつけることによってページビュー数を稼いでお金をもうける。こういったことが非常に問題になっていたわけですが、昨今更にこれが加速しています。なぜか。どんどん個人レベルに落ちてきているんですね。
例えば、動画共有サービスでは、個人が動画を投稿してお金を得るということが可能になっています。その結果として、例えば暴露系とか迷惑系とかあるいは私人逮捕系とかいろいろなジャンルができていますけれども、共通しているのが過激なコンテンツということですね。こういった過激なコンテンツをなぜ作るかというと、結局、ビュー数を稼いでお金をもうけたいという意思なわけです。
ところが、去年、ここに更に大きな動きがありまして、Xで収益化プログラムというものが出てきたわけですね。これはすごいことでして、要するに、百四十字の短文を投稿すると、それのインプレッション数を稼ぐことでお金がもうかるというようなことなわけですね。動画と何が違うかというと、投稿する難易度並びにコピーする難易度が全く違うわけです。
ここに来て、アテンションエコノミーはまさに裾野が物すごく広がって、誰もが自由にこのアテンションエコノミーという中に参入できるという時代になりました。その結果として、例えば能登半島地震では、国内外で偽の救助要請などなどが投稿されまして、それによって混乱が生じたということがありました。
ですから、こういったものの対策、例えばそういう投稿をしている人を迅速に規約違反ということで排除するとか、そういった様々な規律とか、あるいは偽・誤情報を公開しているウェブサイトへの広告収入の停止とか、そういった様々な対策を積み重ねていくということが今後求められているかなというふうに感じております。
以上です。
○宮本(岳)委員 時間が参りましたので、終わりたいと思います。
三人の先生方、誠にありがとうございました。