プロバイダ責任制限法改正案可決
人権侵害拡大防ぐ措置
宮本岳志氏 衆院総務委
プロバイダ責任制限法改正案が18日の衆院総務委員会で全会一致で可決されました。同改正案はインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷等の違法・有害情報に対処するため、SNSなどの大規模プラットフォーム事業者に対し、対応の迅速化や、運用状況の透明化に関わる措置を義務づけます。
日本共産党の宮本岳志議員は質疑で、「深刻な人権侵害にあたる投稿の削除を求める利用者の要望は当然で、さらなる人権侵害を招かないために重要だ」と指摘。同時に「この法案により、表現の自由との関係で萎縮効果が生じないかが問題だ」と強調し、投稿の削除や削除基準について、政府が何らかの規定を設けることがないかを確かめました。
総務省の今川拓郎総合通信基盤局長は「法案は削除基準や運用状況の公表を大規模プラットフォーム事業者に義務付け、事業者が自らの基準に基づいて削除等について判断するもの」と答弁。宮本氏は「改正案の枠組みは、人権侵害を拡大させないための、わかりやすい仕組みを事業者が設けていくもので大切だ」と応じました。
宮本氏は一方で、「この改正で(インターネット上の)問題が全て解決するものではない」として、インターネット空間が企業による利益追求の場にもなってきたと指摘。ネット上の注目度を売買する「アテンション・エコノミー」などの問題を挙げ、「インターネット空間のリスクに、冷静に真剣に向き合うことが必要だ」と強調しました。
(しんぶん赤旗 2024年4月19日)
動画 https://youtu.be/BIPIbgVM6RY?si=k5FrKx4T_CMUwOs9
配付資料 20240418総務委員会配付資料
議事録
○宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。
個人の内心の思想や信仰は、他の人々に伝えることができて初めて社会的に影響を及ぼすことができます。そういう意味で、表現の自由はとりわけ重要な権利であることは言うまでもありません。
私は、二〇〇〇年の臨時国会にいわゆるIT基本法が国会提出されたとき、当時は森喜朗内閣で担当大臣は堺屋太一さんでありましたが、参議院交通・情報通信委員会で法案審議に当たりました。そのとき、二〇〇〇年十一月十六日の議事録でこう述べております。
そもそも情報技術の進歩と民主主義の発展は密接な関わりを持ってまいりました。ルネサンスでの印刷技術の発展がフランス革命に代表されるその後の民主主義の形成に大きな力となった、こういう歴史もございます。新聞や放送などの情報技術の開発と普及が国民の情報入手と発信の手段を広げた、そして言論による民主主義の前進に大きく寄与してきた、これも歴史の事実であります。だからこそ、急速に発展している新しいITという技術をどう民主主義に実らせるのか、民主主義の実現に役立てるのかということが問われていると思うんです。
あれから二十四年がたち、インターネットの普及は、従来の新聞や放送といった報道、出版などと比べ個人が容易に意見を表明できる場を提供したことで、個人に対して表現の自由を保障し、民主主義の発展に寄与すると思われてまいりました。
ところが、一方で、インターネット掲示板やSNSの普及に伴い、匿名による書き込みを中心とした誹謗中傷などにより個人の人格を著しく傷つける人権侵害を招き、そのことで深刻な結果に至る事件も起きております。
深刻な人権侵害に当たる投稿について、まず削除を求めたいという利用者の要望は当然でありますし、更なる人権侵害を招かないためにも重要なことであります。問題は、この法案により投稿の削除が表現の自由との関係で萎縮効果を生じないかが問題となります。
そこで、聞くんですが、改正案では人権侵害に当たるSNSの投稿の削除に関して新たな規定を設けることとなります。確認いたしますけれども、今後策定する政省令が、事業者に対しモデルとなる削除の基準を示し削除を実行させるというようなものではありませんね、局長。
〔委員長退席、田所委員長代理着席〕
○今川政府参考人 お答えいたします。
本法案におきましては、削除基準は大規模プラットフォーム事業者自らが策定するものでございます。
○宮本(岳)委員 しかし、現在起こっている権利侵害の事例は極めて深刻であります。
例えば、勝手に成り済ましアカウントを作られて、自分の名前で投資詐欺まがいの株式投資の勧誘が行われている。成り済まされた本人は一刻を争って対処してほしいと思うのは当然だし、このような権利侵害情報の削除対応を迅速化することは当然必要なことだと思います。
削除対応への迅速性ということでは、法二十五条には、大規模プラットフォーム事業者に申出を受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に結果を申出者に返すことを求めております。この十四日以内の総務省令で定める期間内という規定は、これは総務省令で七日間を想定しているとお聞きしておりますけれども、この七日間の根拠はどのようなものでございましょうか、局長。
〔田所委員長代理退席、委員長着席〕
○今川政府参考人 お答えいたします。
委員御指摘の回答期限につきましては、総務省の有識者会議の報告書におきまして、被害者の声と事業者の実際の対応を踏まえつつ、一週間程度とすることが適当との御提言をいただいております。この報告書を踏まえまして、総務省としては、一週間を念頭に、省令などに基づく詳細な制度設計を検討してまいりたいと考えております。
○宮本(岳)委員 一週間というのは、何か調査の結果でございましょうかね。
○今川政府参考人 お答えいたします。
委員御指摘のとおりでございまして、総務省の調査によりまして、一週間より長く放置されるのは許容できないというユーザーの方が八三・一%いらっしゃるということでございます。
○宮本(岳)委員 確かに、その同じ調査で、二十四時間以内という回答も三四・四%に上っております。先ほど述べた、自分の成り済ましが投資詐欺を広げているというような事例では一週間でも許容できないという気持ちは理解できますし、削除期間は個別の事情に応じてより丁寧に事業者において決められるべきものだということは言うまでもありません。
逆に、被害の届出があれば、内容を確認せずに自動的、機械的に削除するということをプラットフォーム事業者に義務づけるという考え方もございます。これについて、先日の参考人質疑では、上沼紫野参考人も、日本のプロバイダー責任制限法は権利侵害情報一般に関わるので、名誉毀損、プライバシー侵害に関しては、それが例えば公的な機関に対するものとかそういうものも含まれることになる、それが直ちにまず削除という話になると、それは表現の自由なり民主的な過程に対する非常な萎縮効果をもたらすことになるとの趣旨を答弁されておりました。
総務省も同じ考えでよろしいですか。
○今川政府参考人 お答え申し上げます。
先ほども申し上げたとおりでございますが、本法案では、どのような情報を削除すべきかということについての判断は大規模プラットフォーム事業者が自ら行うことを前提とした仕組みを構築することとしているものでございます。
○宮本(岳)委員 つまり、機械的に直ちに削除ということは取らなかったということでよろしいですね。
○今川政府参考人 お答え申し上げます。
繰り返しで恐縮でございますが、大規模プラットフォーム事業者が自らの削除基準に基づきまして削除等についての判断を行うというものでございます。
○宮本(岳)委員 削除に該当するとされた場合に、今度は、投稿者の弁明の機会は保障されるのか、また、削除された場合、その削除が不当だった場合の救済措置は事業者において定められるべきだと思うんですが、この辺りはいかがでしょうか。
○今川政府参考人 お答えいたします。
本法案におきまして、大規模プラットフォーム事業者に対して発信者からの不服申立ての手続を定める義務は課しておりませんけれども、発信者に対する通知を義務づけておりまして、発信者が不服申立てを行う契機となるというところでございます。また、運用状況の公表を義務づけて透明化を図ることによりまして、運用の適正化を図っていくということを考えているものでございます。
○宮本(岳)委員 もう一つ、これは念のために確認しておかなければなりません。
いわゆる政権批判に対して、政権や政権党がこれをフェイクだ、人権侵害だと主張されて削除を申し入れ、これが削除されるということになれば、それこそ表現の自由に萎縮効果を及ぼしかねないと私は思いますけれども、そういう心配はございませんか。
○今川政府参考人 お答え申し上げます。
繰り返しで恐縮でございますが、本法案では大規模プラットフォーム事業者が自ら削除などを行うことを前提とした仕組みを構築することとしております。
具体的には、削除基準や運用状況の公表を事業者に義務づけることで事業者の自主的な取組の透明化を図り、国民にとって分かりやすい形での開示を通じまして事業者による削除基準やその運用の見直しを促すとともに、削除を行った場合には発信者に対してその事実及び理由の通知などを義務づけることで発信者に対する透明性も確保するものでございます。
したがいまして、表現の自由の確保と被害者救済のバランスを取った制度となっているというふうに考えております。
○宮本(岳)委員 今おっしゃった透明性というのは非常に大事でしてね。先ほどの成り済ましによる投資詐欺まがいの発信が削除されないという訴えの方も、いろいろ相談窓口をやっと探し当ててそこに通告しても一向にその後の対応が分からないと。つまり、透明性がないということ。だから、なぜそうなっているのか、まだ削除されないのかという説明すらないということを非常におっしゃっていましたから、やはり透明性というのは非常に大事なことだと思います。
そこで、この後、対案提案者から修正案が提出されると聞いております。
まず、対案提案者に確認するんですが、日本維新の会提出の対案は、第二十二条で送信防止措置の実施状況の公表について定め、七つの項目の公表を求めております。このうち、第四号と第七号について閣法の第二十八条に盛り込むという趣旨の修正であるやに聞いております。
しかし、元々の維新対案の第二十二条はあくまで公表を定めたもの、透明化を定めたものであり、その結果に政府が口出しすることを求めるようなものではないと理解しておりますが、提案者、間違いないですか。
○中司議員 お答えいたします。
維新案においては、大規模なSNS事業者等に、毎年少なくとも一回、送信防止措置の実施状況や自己評価などを公表することを義務づけております。これは、事業者に自らの運用状況や自己評価を公表させることによって、事業者自身が自主的に送信防止措置等の運用について更なる改善、向上に努めることを期待したものであります。
あくまで事業者の自浄作用に委ねるものでありまして、事業者が行った削除等の措置について政府から何らかの口出しをすることを想定したものではございませんので、よろしくお願いいたします。
○宮本(岳)委員 そもそも、維新対案の二十二条が事業者の公表内容に政府が介入するような趣旨ではない以上、その中の一部を修正によって閣法の二十八条に移したとしても政府の介入の余地はないと理解いたします。
念のために政府にも確認をいたしますけれども、政府案二十八条は事業者による公表、透明化を定めた条項であって、これはその公表結果に政府が口出しすることを求めるようなものではありませんね。
○今川政府参考人 お答えいたします。
委員御指摘のとおり、法案第二十八条の趣旨は、大規模SNSなどのプラットフォーム事業者に対し削除基準やその運用状況の公表を義務づけ透明化を図ることで、各事業者の取組が国民、利用者に分かりやすいように開示され、プラットフォーム事業者自身による削除基準や運用の適正化を促すものと考えております。
○宮本(岳)委員 改正法案が規定する侵害情報の削除の仕組みは、人権侵害を拡大させないために迅速に対応するための分かりやすい仕組みを事業者が設けていくものであり、大切であります。そして、今回の法案については、先日の参考人の先生方も、非常に慎重に慎重を期した立法の作りではないか、表現の自由とのバランスに配慮された法案になっているとの評価でございました。その点で、この後提案される予定の修正案も含めて賛成できるものと考えております。
しかし、問題は、この法律改正で問題が全て解決するものではないことは明らかです。とりわけ、先ほど来議論になっている有害情報やフェイクニュースに対する対応は大きな課題であります。
偽情報の中には、悪意を持って意図的に流すものもあれば、正しいと誤認して拡散しているものもあります。また、偽情報とあえて分かるようにして発信するパロディーもあるわけですね。一方で、災害時にうその救援依頼やうその被害情報を流すといった行為は、まさに命に関わる重大な問題を引き起こします。なかなか難しい問題でありますけれども、インターネット空間の健全な発展のためには、どうしてもこれらは解決しなければならない課題だと考えますけれども、総務省の見解はいかがでございましょうか。
○今川政府参考人 お答え申し上げます。
本法案では、権利侵害情報についての削除などの対応を促すこととしておりますけれども、昨今、いわゆる偽・誤情報などいろいろな課題が出てきているところでございまして、例えば名誉毀損や著作権侵害などとなる権利侵害情報に該当する場合には削除対応の迅速化の義務がかかるということでございますし、それ以外の情報についても運用状況の透明化の義務がかかるということで、昨今の偽情報、誤情報といった対策についても一定の役割を果たすのではないかと考えております。
○宮本(岳)委員 問題は、現在のインターネットが本質的に抱える在り方にあります。
インターネット空間は、自由な言論の場というより、企業が利益を最大化するための仕組みを構築し、複雑高度化させてまいりました。そして、企業利益追求の場にもなってきた。
そのビジネスモデルが構築されてきた結果、金もうけのためにアクセス数を稼ぐとか、どのような内容であっても閲覧者の目につく投稿であればよいとして過激な投稿を繰り返すアテンションエコノミーや、フィルターバブル、エコーチェンバーといった現象が起きております。負の面とも言えるゆがんだインターネットの仕組みが、誹謗中傷やいじめ、分断の温床になってきたことも事実であります。
日本の利用者がこのようなアテンションエコノミーあるいはエコーチェンバー、フィルターバブルなどといった問題についてどれぐらいの認知度があるのか、総務省はつかんでおりますか。
○湯本政府参考人 お答え申し上げます。
委員お尋ねの日本における偽情報関連用語の認知度の調査についてでございますが、二〇二三年三月の調査結果によりますと、言葉は聞いたことがあると回答した方も含めまして、アテンションエコノミーの認知度は一六・四%、エコーチェンバーの認知度は一八・〇%、フィルターバブルの認知度は二一・七%となっているところでございます。
○宮本(岳)委員 資料を見ていただきたいんですね。これは、先ほど御答弁があった、プラットフォームサービスに関する研究会第三次取りまとめで紹介された数字の基となった調査結果の資料であります。総務省からいただきました。先ほどのアテンションエコノミー、一六・四%とかいうものは、黄緑色の、言葉を聞いたことがあるまで入れての数字であって、青の、内容や意味を具体的に知っているだけを見れば、それぞれ、フィルターバブル、二・九%、エコーチェンバー、三・三%、アテンションエコノミーは僅か二・四%しかありません。
参考人質疑で山口真一参考人は、アテンションエコノミーについて、人々の注目をぱっと引くということがお金につながるという議論だと述べられ、こういったものの対策が今後求められていると指摘をされました。
そこで、大臣に聞くんです。こうしたアテンションエコノミーやエコーチェンバー、フィルターバブルといった現在のインターネット空間が抱える大きなリスクについて大臣は認識しておられますか。
○松本国務大臣 インターネット、SNSの意義については、今委員からもお話がありましたとおり、誰もが発信でき、また、世界の人々とつながって迅速に情報を入手できるという意味でも意義があろうかと思いますが、この審議でも申し上げてきましたように、大量の情報が流通する中で違法、有害、偽・誤情報があり、これがまた迅速に流通、拡散してしまうという事態は大変深刻であり大きな課題であるというふうに私も認識をしているところでございます。
そういった面から、いわば情報を御利用いただく人々にも是非ネット上の現在の情勢を知った上で情報を利用いただきたいということは機会があるたびに私からもお願いしているところでございますが、情報流通の主要な場となっているSNS等プラットフォームを提供する事業者にもやはり社会的責任を果たして対策を実施することが求められていると認識しているところでございます。
そういった中で、先ほどもこれも御答弁で申し上げましたが、ネットにおけるお金の流れについても見ていく必要があるということで、私どもとしても健全性を確保すべく有識者の先生方にお願いしている検討会でヒアリングなどを行っているところでございまして、ネットはいわば道具でございますので、よい使い方をしていただいて、よい結果が出るようにお願いをしていくところではないかと思いますが、必要な対策は私どもも利用者、国民の視点に立って機動的に検討したいと思います。
○宮本(岳)委員 インターネットの空間は、決してバラ色でも安全でもありません。実社会の投影でもありますが、インターネット空間に何の疑いも持たなくてよいという状況は既に過ぎ去っております。もちろん、だからといって全てを捨てて昔に戻れなどと言うつもりはありません。我々がなすべきは、こうしたリスクに冷静に真剣に向き合うことだと思います。
先ほど人々も利用する上で知ってもらいたいと大臣はおっしゃったけれども、ところが、この間、政府は殊更に安心、安全のみを語り、いわば安全神話を振りまきながら、安易なDXの推進や無警戒なマイナンバーカード施策を進めております。これは極めて無責任だということを指摘して、私の質問を終わります。