平成二十三年四月二十日(水曜日)
午後一時開議
出席委員
法務委員会
委員長 奥田 建君
理事 滝 実君 理事 辻 惠君
理事 樋口 俊一君 理事 牧野 聖修君
理事 平沢 勝栄君 理事 大口 善徳君
相原 史乃君 井戸まさえ君
磯谷香代子君 大泉ひろこ君
川越 孝洋君 京野 公子君
熊谷 貞俊君 黒田 雄君
桑原 功君 階 猛君
橘 秀徳君 中島 政希君
野木 実君 福島 伸享君
三輪 信昭君 水野 智彦君
山崎 摩耶君 横粂 勝仁君
北村 茂男君 柴山 昌彦君
棚橋 泰文君 徳田 毅君
城内 実君
青少年問題に関する特別委員会
委員長 高木美智代君
理事 岡本 英子君 理事 川村秀三郎君
理事 城井 崇君 理事 高井 美穂君
理事 湯原 俊二君 理事 棚橋 泰文君
理事 松浪 健太君 理事 池坊 保子君
小野塚勝俊君 金子 健一君
神山 洋介君 川口 浩君
橘 秀徳君 橋本 博明君
初鹿 明博君 花咲 宏基君
松岡 広隆君 皆吉 稲生君
山田 良司君 横粂 勝仁君
吉田 統彦君 馳 浩君
宮本 岳志君
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法務大臣 江田 五月君
国務大臣 蓮 舫君
内閣府副大臣 末松 義規君
法務副大臣 小川 敏夫君
厚生労働副大臣 小宮山洋子君
内閣府大臣政務官 園田 康博君
厚生労働大臣政務官 小林 正夫君
最高裁判所事務総局民事局長兼最高裁判所事務総局行政局長 永野 厚郎君
最高裁判所事務総局家庭局長 豊澤 佳弘君
政府参考人
(警察庁長官官房審議官) 田中 法昌君
政府参考人
(法務省大臣官房司法法制部長) 後藤 博君
政府参考人
(法務省民事局長) 原 優君
政府参考人
(外務省総合外交政策局長) 鶴岡 公二君
政府参考人
(文部科学省初等中等教育局長) 山中 伸一君
政府参考人
(文部科学省スポーツ・青少年局スポーツ・青少年総括官) 有松 育子君
政府参考人
(厚生労働省大臣官房審議官) 石井 淳子君
法務委員会専門員 生駒 守君
衆議院調査局第一特別調査室長 金子 穰治君
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本日の会議に付した案件
民法等の一部を改正する法律案(内閣提出第三一号)
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○高木委員長 池坊保子さんの質疑は終わりました。
次に、宮本岳志さん。
○宮本委員 日本共産党の宮本岳志です。
本改正案が、虐待する親の親権を二年以内に限って停止する制度を創設することや、子供みずからが親権喪失等の申し立てを行える点、児童養護施設等も未成年後見人となることができるようにする点、離婚協議に当たって養育費や面会交流を明文化することなど、いずれも必要なことであり、我が党も賛成であります。
きょうは、時間もございませんので、民法第八百二十二条、懲戒権に絞って質問をいたします。
昨年十月の法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会第八回会議の議事録を読みますと、ほとんどすべての委員が八百二十二条の懲戒権を削除すべきだという意見であります。
ところが、十二月の第十回会議では、法務省民事局の羽柴関係官が、二項の懲戒場の規定は削除するが、一項の懲戒権については、子の利益のために子の監護及び教育に必要な範囲内という条件をつけて残すという、今回の改正案のもとになった要綱案を示しました。その後の第十回会議の議論を見ても、やはり懲戒権は削除すべきだ、こういう強い意見が出され、他の委員も、それが一番いいのだがという、そういう議論が続くものを、この法務省事務局案で取りまとめているわけです。
まず聞きますけれども、法務大臣、なぜこれを削除しなかったのか、お答えいただけますか。
○江田国務大臣 削除すべしという強い主張があり、その主張に一定の根拠があること、これは私も認めます。しかし、私もことしになって法務大臣になったばかりなので、その間の経緯を、法務大臣としてそれに関係しているわけではございませんが、最終的に出されました答申というのが、今、懲戒は残し、ただし子の利益にということで上がってきたものですから、やはり多くの皆さんの議論を集約するとそういうことになる、これはそう受けとめざるを得ないということでございました。
懲戒というものが持つ言葉の悩ましさというのはあると思いますけれども、しかし、逆にそれをなくすると、今度は、しつけもできないのではないかというような誤った理解が社会に広がるのではないかとか、そういう理由を述べられたのであろうと思います。
○宮本委員 この第十回会議で羽柴関係官は、本来できるしつけができなくなるといった誤った受けとめ方がされないかなど、現在ある規定を削除することによる社会的な影響についての懸念というものに触れておられます。しかし、同時に、児童虐待を行った親は必ず、しつけのためにやったと主張することは、これはもう各委員、これまでにも申し上げているとおりであります。
そこで、江田大臣と蓮舫大臣、お二人にお伺いしたいんですが、しつけというものと虐待というものの間に明確な一線を引けると思うかどうか、これをイエスかノーかで端的にお答えいただけますか。
○江田国務大臣 引けないと思います。
○蓮舫国務大臣 しつけというのは、子供の健全成長に資するために保護者が行うものであって、他方、虐待というのは、子供の心身ともに、その成長にマイナスの影響が及ぶものであり、明確に違うと思いますが、線引きは難しいと思います。
○宮本委員 ここの議論は、実に混乱した議論がずっと続いているわけです。
きょうは、私、資料をつけておきました。いずれも、地方自治体のホームページをとったものであります。
一番は福井県大野市、「しつけと虐待はまったく異なるもので、行為の程度で測れるものではありません。」とあります。二番は神奈川県相模原市、「しつけと虐待を程度の問題として捉えることは正しくありません。」とあります。これらは、程度の問題を否定する、いわば質的区別派だと思うんですね。
三番は、福島県のホームページでありますけれども、「子どもの虐待は家庭におけるしつけとは明確に異なり、」から始まっていて、一見、質的に区別がつくと言っているようでありますけれども、その直後に、「しかし、実際上は」「区別を判断することは大変難しい」と言い、結論は、担当者一人で判断するな、組織的対応をといういわば中間派であります。
四番は、北海道北広島市、「たしかに、「しつけ」と「虐待」の違いを明確にすることは難しいことです。」と区別を困難視しております。
五番の大分県津久見市も、「境界は必ずしも明確ではありません。」と述べた上で、虐待と考えてよい場合を挙げて、「通常のしつけ、体罰の程度を超えている。」というのを挙げるんですから、程度の問題だと見ているわけで、こちらは量的区別派だと言わなければなりません。
さらに、同じく今の津久見市は、「民法で認められている「親が必要な範囲で子を懲戒する権利(懲戒権)」によるしつけや体罰と、「虐待」との境界は必ずしも明確ではありません。」と述べているのに対して、六の福岡県は、「「虐待」と民法で認められている「懲戒権」によるしつけとは、区別されなければなりません。」と、全く反対のことをこの二つのホームページは述べているわけですね。
蓮舫大臣、どうしてこのような混乱が起こっているとお考えになりますか。
○蓮舫国務大臣 宮本委員、その質問は非常に悩ましいといいますか、ここに至るまで、さまざまな虐待関連の法改正が行われているときに、議員の間でも、あるいは法務省の中の審議会でも、厚生労働省の中でも本当に幅広い議論が行われてまいりました。懲戒なのか、しつけなのか、それとも虐待なのか、体罰なのか。ただ、明快に言えることは、やはりその状況が毎回違うものですから、一つ一つ個別の事由において丁寧に見ていって、これは一体何なのかという議論を多角的に行うのは必要ではないかと思っています。
○宮本委員 議論が繰り返されてきたように、しつけと虐待というものは明確に区別されなければなりません、それは。
にもかかわらず、このように混乱した議論が起こるのはなぜかと考えるときに、これは子どもの虹情報研修センターの研究部長でもある川崎二三彦氏が書いた「児童虐待」という岩波新書でありますけれども、この中で、しつけと虐待の境界領域にもう一つ体罰というものが割り込んでくると、明らかに別のものでなければならないはずのしつけと虐待の区別がつかなくなってしまうんだ、こういう指摘がございます。
そこで、先ほどの資料の七番目につけた最後のものを見ていただきたいんですけれども、それを裏づけているのが富山県立山町のホームページであります。「“しつけ”と“虐待”とは違います!」と述べた上で、「しつけをするのは難しいものです。自分の子どもを思うあまりに手が出てしまい、あとで冷静になって寝顔をみたら自己嫌悪。どの親でも一度は味わう苦い気持ち。でも日常茶飯事しつけで“たたく”ようになると、それに慣れて、暴力はエスカレートしていき、自分が抑えきれなくなってしまいます。気をつけたいですね。」と書いてあって、つまり、しつけだと言ってたたくということを始めると、いよいよその境界線というものがぼやけてくるんだということを言っているわけですね。そして、この子供に対する親の体罰を正当化しているものこそ民法八百二十二条の懲戒権だというふうに川崎氏は述べておられます。
そこで法務大臣に確認するんですが、二〇〇〇年四月十三日の衆議院青少年問題に関する特別委員会で、当時の法務省民事局長は、「この懲戒には体罰も場合によっては含まれる」と答弁しておりますが、間違いないですね。
○江田国務大臣 「場合によっては」という修飾語つきでそういうことを民事局長が答弁しているというのは事実でございます。
○宮本委員 この体罰というものが、今申し上げたように、しつけと虐待の境界をあいまいにするというだけでなくて、私は、これは明らかに体罰は子供への暴力であって、そういう点では、この民事局長答弁というのは、それを家庭において容認するものになっていると言わざるを得ないと思うんですね。
江田大臣、この答弁、いまだに適切だとお感じになりますか。
○江田国務大臣 これは本当に悩ましいところで、しつけと虐待というのは区別をすべきものなんです。それは違うものなんだと言わなきゃいけないんです。私がさっき言ったのは、しかし、なかなかその境界域になりますと、事案によっていろいろと振れてくるということを申し上げたので、虐待はもちろんいけません。しかし、しつけというものは、やはりそれはあるんだろうと思います。
そこで、体罰なんですが、この体罰とは何かというのもまたこれが難しいところで、先日、法務委員会でも申し上げたんですが、私も子供をぱちんとたたいたことがあるんです。しかし、その瞬間に、これはしまったと思って、すぐおもちゃを買って謝ったんですが。本当にそこはなかなか、親子の間でそう簡単に線が引けるものじゃないんだということなんですね。
だけれども、もしどちらかに決めなさいということになれば、体罰というものは、やはり精いっぱいやめるべきものだと思います。
○宮本委員 個々の親子の関係で、さまざまな、つい手が出るということがあることまでも問題にするつもりはないんです。
ただ、体罰というものをやって何が悪いのかという議論のよりどころになっているのがこの懲戒権というものであって、しかも、民事局長が「場合によっては含まれる」と言うものですから、私は、ここは非常に問題があるというふうに言わざるを得ないんですね。
それで、文部科学省、きょう初等中等教育局長に来ていただいておりますけれども、学校においても、懲戒というものは学校教育法十一条に定められております。学校の校長並びに教員は子供を懲戒することができるんですけれども、その懲戒の手段として体罰を行うことは許されておりますか。
○山中政府参考人 学校においてでございますけれども、学校教育法は第十一条で、校長及び教員は、教育上必要があると認めるときには児童、生徒、学生に懲戒を加えることができる、ただし、体罰は加えることができないというふうに規定しております。体罰は禁止されているというものでございます。
○宮本委員 法務大臣、私、この法制審の議論、第八回も第十回も読みましたよ。圧倒的多数、ほとんどの人は、この懲戒権、八百二十二条というものは削除すべきだ、あるいは削除するのが望ましいという議論をやっていて、それで、先ほど言った事務方が、一項については残すんだという話をしたときに、では、どういう条件をつけるかといったときに、みんなが口々に言っているのは、体罰や暴力はだめですよというふうに書かなきゃならないというやりとりなんですね。
今回つけ加えた条文というのは随分これまでと違っているというふうにおっしゃるんだけれども、実は、二〇〇〇年四月十三日の、今やりとりのあった民事局長答弁も、「場合によっては含まれる」と言いつつも、子の利益のために行うべきだ、そして、教育のために必要かつ合理的なものであることが求められると言っていますから、何も別にこのときはそういう条件がなかったわけじゃないんですよ。そういう条件があればやってよろしいという議論になっていて、明確にこの委員の方々、法制審でやっている議論とはやはり違うんですよね。
それで、端的に聞きますけれども、なぜ学校教育法十一条のように、ただし、体罰は許されないと書き込まなかったんですか。
○江田国務大臣 なかなか難しい御質問でございますが、学校の場合は、やはりそれは先生という資格を持って子供の教育に専門に当たっている人の営みで、これは体罰などを加えることが教育上意味があるというような理解をしたりする人じゃない、むしろ、体罰を加えなくて子供を上手に教育していく方法を十分身につけている人たちの場ですから、だから、そこであえてそういうことを書いても、それは教育上ちゃんとしたやり方をしなさいよということで、その規定を十分生かしていけるということで書いているのだと思います。
これに対して、家庭というのはもうさまざまですから、家庭の営みというのは、時に間違ったこともある、時に憎しみ合うこともある、そういうのを乗り越えて乗り越えていく、そういう裸の人間のぶつかり合いの場ですから、あえていろいろな規定をそこに書き込まないようにしようという、一生懸命説明するとすればそういう説明かなと思います。
〔高木委員長退席、奥田委員長着席〕
○宮本委員 明示的にそういう言葉を使っていないけれども、限りなくそういう趣旨を含んだ改正だというふうには受けとめました。
ただ、本当に、やがてはやはり八百二十二条そのものを削除すべきだというのは、すべての委員の方々が、今回やむなしという方も含めて主張されていることですから、その点しっかり押さえておきたいと思うんですね。
それで、これは実は国際的な到達点に照らしても非常に恥ずかしいことであります。何人もの方から出ましたけれども、子どもの権利条約、これは日本も批准しておりますけれども、この条約の十九条の1に対しても反するという指摘がありますし、また、この間、国連子どもの権利委員会から三回目の政府に対する勧告が出されましたけれども、ここでもこの問題は触れられております。
きょうは外務省に来ていただいておりますけれども、これは一つにまとめて、条約の十九条1と、そして勧告の中身を御紹介いただけますか。
○鶴岡政府参考人 児童の権利に関する条約第十九条1は、「締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、社会上及び教育上の措置をとる。」と規定しております。
また、ただいま委員御指摘の、児童の権利に関する条約に基づき提出いたしました第三回我が国政府報告につきましては、児童の権利委員会は、昨年六月に公表した最終見解のパラグラフ第四十八におきまして、次のとおり勧告しております。「委員会は、締約国に対し以下を強く勧告する。 (a)家庭及びその代替的監護環境を含む全ての環境における、体罰及び児童の品位を下げるあらゆる形態の扱いを法律により明示的に禁止すること、 (b)全ての環境において、体罰の禁止を効果的に行うこと、」
以上でございます。
○宮本委員 その勧告の一つ前の四十七項では懸念というものが表明されているんですが、「家庭および代替的ケア環境における体罰が法律によって明示的に禁止されていないこと、ならびに、民法および児童虐待防止法が、特に、適切な懲戒の行使を許容し、体罰が許容されるのか否かについて不明確であることを懸念する。」と述べているわけですね。
江田大臣そして蓮舫大臣、これは子どもの権利条約という条約の批准国として、これらの懸念と勧告にどうこたえるのか、お二人の大臣からお答えいただけますか。