145 – 参 – 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会公聴会 – 1号 平成11年05月18日
平成十一年五月十八日(火曜日)
午前九時開会
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委員の異動
五月十七日
辞任 補欠選任
佐藤 泰介君 谷林 正昭君
寺崎 昭久君 今泉 昭君
荒木 清寛君 魚住裕一郎君
加藤 修一君 沢 たまき君
弘友 和夫君 風間 昶君
福島 瑞穂君 田 英夫君
入澤 肇君 月原 茂皓君
五月十八日
辞任 補欠選任
今泉 昭君 足立 良平君
内藤 正光君 山下八洲夫君
緒方 靖夫君 畑野 君枝君
宮本 岳志君 富樫 練三君
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出席者は左のとおり。
委員長 井上 吉夫君
理 事
鈴木 正孝君
竹山 裕君
山本 一太君
若林 正俊君
齋藤 勁君
柳田 稔君
日笠 勝之君
笠井 亮君
山本 正和君
委 員
市川 一朗君
加納 時男君
亀井 郁夫君
木村 仁君
世耕 弘成君
常田 享詳君
長谷川道郎君
橋本 聖子君
畑 恵君
松村 龍二君
森山 裕君
矢野 哲朗君
依田 智治君
吉村剛太郎君
足立 良平君
伊藤 基隆君
石田 美栄君
今泉 昭君
木俣 佳丈君
久保 亘君
谷林 正昭君
前川 忠夫君
山下八洲夫君
魚住裕一郎君
風間 昶君
沢 たまき君
小泉 親司君
富樫 練三君
畑野 君枝君
宮本 岳志君
田 英夫君
田村 秀昭君
月原 茂皓君
椎名 素夫君
山崎 力君
島袋 宗康君
事務局側
常任委員会専門
員 櫻川 明巧君
公述人
早稲田大学法学
部客員教授 栗山 尚一君
全日本海員組合
教宣部長 平山 誠一君
元陸上幕僚長 冨澤 暉君
上智大学法学部
教授 猪口 邦子君
株式会社岡本ア
ソシエイツ代表
取締役 岡本 行夫君
軍事評論家 藤井 治夫君
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本日の会議に付した案件
○日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間に
おける後方支援、物品又は役務の相互の提供に
関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間
の協定を改正する協定の締結について承認を求
めるの件(第百四十二回国会内閣提出、第百四
十五回国会衆議院送付)
○周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保
するための措置に関する法律案(第百四十二回
国会内閣提出、第百四十五回国会衆議院送付)
○自衛隊法の一部を改正する法律案(第百四十二
回国会内閣提出、第百四十五回国会衆議院送付
)
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<陸海空港湾の労働者が戦争法案に反対>
宮本岳志君 日本共産党の宮本岳志です。
公述人の皆様にはお忙しいところ、まことにありがとうございます。時間に限りがございますので早速質問に入らせていただきます。
まず、全日本海員組合の平山公述人にお伺いをいたします。
大変感銘を受ける生々しい話でございました。さきの大戦あるいは戦後も数々の戦火の中で命がけで仕事をされてきた船員の皆さんの現実に立った大変重みのある公述だったと思います。
今回の法案については、交通運輸関係の労働組合の皆さんは、陸、海、空、港湾など二十単産単組約三十五万人の方々がそれぞれの労働組合の上部団体の違いを超えて共同されて反対運動に立ち上がっておられると聞いております。交通運輸に働く皆さんにとっては、海はもちろん、陸でも空でもあるいは港湾でも、みずからの命と安全にかかわる重大問題だというふうに思いますが、そういう皆さんの思いについて少しお話しいただきたいと思います。
公述人(平山誠一君) 御質問ありがとうございます。
先ほど齋藤委員の方から突然集団的自衛権、個別自衛権の問題についても御質問があって私もちょっと戸惑ったわけでありますが、いずれにしても海員組合がとっている立場というものは、今御質問いただきました日本共産党の主張される日米安保条約の破棄あるいは自衛隊の縮小、改編という立場には実は立っていないわけでありまして、基本的には現行の平和憲法が認める安全保障政策としての専守防衛に徹する自衛隊の存在なり軍事同盟を禁止する集団的自衛権の行使の禁止、こういう観点については我々も政府の見解、今までの日本のとってこられた立場というのを明らかにしているわけであります。
〔委員長退席、理事竹山裕君着席〕
そういう海員組合がなぜ今回この法案について積極的に今反対の声を上げているかということを申し上げれば、これはもう公述で申し上げたとおりでありまして、船乗りという職業を選択した私も東京商船大学を卒業して船に十五年ほど就職しましたけれども、まさかこういう事態が、しかも半ば強制的に出てくるなんということは想定をしなかった。多少海賊に襲われかけたり、いろんなそうした国際紛争の中で誰何といいますか臨検を受けっぱぐったり、こういうふうな事態というのは我々も体験上あるわけでありますが、まさか戦争状況の中で明確に兵たんを担当しろ、こういうふうなことを言われるというのは全く青天のへきれきであるわけであります。
今回、特に交通運輸関係の労働者、陸、海、空、港湾と申し上げておりますけれども、そうした二十団体三十五万人の皆さんが、今、宮本先生のおっしゃったように、明確に立場を超えて、中には日本の安全保障条約なり憲法の考え方について若干意見の違うグループもあるわけでありますけれども、とにかく後方支援活動を担当させられる交通運輸関係の労働者が一番身近な問題として考えたからだろう、まさにそう思います。
先ほど公述の中でも御紹介しましたように、ユーゴの事態を説明していただければと思うわけでありますが、まさにたちどころに空爆が後方のインフラ施設に向かったのは、私ども船乗りの立場から見ますと、今までのいろんな戦争、そうした体験を通して、ある意味で戦争が始まれば当然のことかなというふうに思うわけでありまして、交通運輸に働く皆さんも敏感にこの点を感じられた、こういうことであります。
海員組合は、一昨年の新ガイドラインの中間報告が出る段階で、これはとんでもないことになってきたぞと、こういうことで、それから一貫して港湾関係、組織でいいますと全国港湾労働組合協議会というところでありますけれども、特に港で働く労働者の皆さんと共闘関係を結びながらこの問題に対処してきたわけであります。
ことしの二月になりまして航空安全連絡会議、これは全く政治的にも純中立的な立場で航空の安全をどう維持していくのかという観点でいろいろ活動される団体でありますけれども、そこから特に交通運輸関係、海を含めて申し入れがありまして、これはゆゆしき事態になったのでひとつ皆さん一緒に集まりませんか、こういう呼びかけもありまして、現在二十団体が中心になって反対の声を、国民の皆さん、大変なことなんだ、皆さんに血を流せと文字どおり覚悟しろと迫っている法案なんだと。これを政府の皆さんは実に隠ぺいし、安全であるとただただ言っているわけでありますから、そういう法案を、これはスポーツで言えばレッドカードじゃありませんけれども、極めてルール違反ですと私は思うわけであります。
いずれにしても、そうした観点からこの法案が持っている重要な問題、本当にこれでいくんだ、こういうことであればやむを得ないところもあるわけでありますが、全く国民によく知らされていない、しかも白紙委任だということで、国会論戦等も見聞きするわけでありますが、何一つ明らかになっていない。政府の答弁も繰り返し同じことしか言わない。これでは我々の心配、不信といいますか、危惧の念はますます高まるばかりであります。
そうした思いでありまして、たまたま海員組合ということで本日の公述の指名をいただきましたけれども、私の後ろにも陸、海、空といいますか、陸送、鉄道、それから航空関係の皆さん、港湾関係の皆さんの思いが込められている、こういうことで話させていただいているつもりであります。
以上です。
<海運であり得ない「後方地域」の区別>
宮本岳志君 そこで、少し海の問題についてお伺いします。
政府は、後方地域支援は公海上に設定されると言っております。そうすると、海の上で米軍の輸送物資の受け渡しをしなければならなくなるというふうに思うんですね。現在の船等の構造や機能から見て、海の上で船から船に物資などを受け渡すことは可能でしょうか。
また、海の上でやりとりできないということになりますと、これは目的地まで持っていかざるを得なくなります。他国の領土、状況によっては紛争国にまで踏み込んで輸送させられることもあり得る、こうお考えでしょうか。
公述人(平山誠一君) 御質問の趣旨は、法に定義される後方地域支援の地理的な範囲といいますか、この問題を御質問されているんだろうと思います。
これはもう明確に法律の中に定義されていまして、日本領域から公海までと、こういうことだったわけです。ここで後方支援活動をやるんだと、こういうふうに言っているわけです。しかも、戦闘が実際に行われていない、行われる予測もない、全く万々が一にもそういう危険なことはない地域、こういう附則がつくわけでありますが、法に定義している公海までという話ですけれども、これは本当のことを言っていないなと。
というのは、船というのは、現在の船は帆船時代といいますか、そういう時代の船や小さな百トン前後の船と違いまして、もう何千トン、何万トンという大きな船でありまして、東京は東京港も近いですし横浜港も近いですからちょっと港に出ていただければ船は見られるので、ああ最近の船というのはこういう格好をしているのか、こういう荷役といいますか荷物の揚げおろしをしているのかということが一発でわかるわけであります。
そういう大型の船が公海上で、ここから相手方の領域だというその境目、仮に境目までは行ける、しかしその先は行かないなんということは絶対に私はあり得ないというふうに確信しているわけであります。いや、そんなふうに確信されても困ると政府の方はおっしゃるのかもしれませんけれども、これは極めて現実離れした話だろうと思います。
それは先ほど私も公述の中で述べました海上に後方、前方の区別をどうやってつけるのか、どうやって線引きを具体的にするのか。天気予報で等圧線というのがありますけれども、本日の安全な地域はこういう等圧線という、毎日毎日時間おきにそれが変化するようなことを考えておられるのかどうかよくわかりませんが。
いずれにしても、この後方地域支援の範囲ということで言えば、例えば船が持っていった武器弾薬や兵員あるいは車両を含むそうしたさまざまな軍事物資を公海から先へ持っていかない、どこかで相手の船に受け渡しをするというふうなことは物理的に全く不可能、積みかえるなんということは全く不可能でありますから、政府がいかにも安全であると、あるいは憲法上の制約からこういうことをおっしゃっている、政府みずから認めてそういうふうにおっしゃっているんでしょうけれども、全く現実離れした机上の空論でしかないと、私はそういうふうに考えておるところです。
宮本岳志君 政府は、民間の船舶を今回の支援に使う場合に三つの契約のあり方、一つはあっせんという場合、国が米軍にあっせんをする、あるいは借り上げの場合、そして直接米軍が民間の船会社と契約をするという場合、三つの場合を挙げておりますが、特にその三つ目の直接契約の場合は公海を越えて出ていくということもあり得るというふうに述べております。
この問題について、国会で防衛庁長官は、民間業者の安全確保の手段の一つとして、政府から米軍に対し安全の確保について配慮を厳しく要請することも考えなければならない、あるいは、なお米軍としても輸送契約にかかわる物資等が安全に輸送されることは当然必要でありますから、我が国の民間業者に支援を依頼する際には安全の確保について当然配慮がなされて依頼するものと考えておりますと、こう述べております。先ほど公述でも、米軍による日本船舶の護衛というようなことにお触れになりましたけれども、こういうことに触れられております。これについてどうお考えでしょうか、平山公述人。
公述人(平山誠一君) 今回の法案審議の国会議事録等を読ませていただきました。なかなか法律論争というのは難しいんだなと我々庶民の側は、国民の側といいますか、思うわけであります。
その中でとにかく先ほど述べた後方地域支援の範囲と、それと附則としてといいますか、戦闘が行われていない、あるいは行われる予定がないといいますかそういうことは想定されない、あるいは万々が一にもそういうことのない安全な地域が後方地域だと、こう言っているわけです。
それともう一つ、そういうところに民間協力、船舶による物資の移動も含む協力をお願いする、こういうふうに政府が答弁しているわけでありますが、そのほかに直接米軍が注文を出す、そういうケースについてもあるだろうという質問に対して、そういうケースがあり得ると。それで、この場合には一生懸命アメリカの荷物を、いずれにしてもそういう戦闘を継続するために、あるいはそのための物資を運ぶわけでありますから、当然ながらアメリカもアメリカ軍もそういう船舶の安全について配慮するでしょうという答弁をされていますし、日本政府としてもそういうものについて積極的に要請をしていくんだということもおっしゃっておるわけです。
そういう非常にわかりにくい答弁でありますが、我々海の立場から見ますと、一つは、事態法のもとで政府が直接用船をするといいますか契約を結ぶような船舶につきましてはなるべく公海より先に行かせないのかなと。しかし、それだけではもう物資の輸送というのはできませんから。日本はいずれにしても陸続きではありません、周囲すべて海に囲まれているわけで、どうしたって大量の貨物というのは船舶を使わざるを得ない。海上自衛隊の輸送艦というのはありますけれども、そんなに数は大きくありませんし、それほどの大きな作戦を遂行できる、継続的に荷物を送れるようなものではありませんから、当然民間の船舶が使われるのはもうこれは自明の理であります。
その場合に、アメリカが直接契約をして持ってくる船、例えばアメリカから釜山に荷物を運ぶ、こういう船舶、あるいは日本に一時寄港して、例えば佐世保に寄ってそこから釜山に持っていくとか、そういうふうなことを別の米軍の直接契約として考えておられるのかな、こういう感じは印象として持っておるわけです。
その場合に、当然現在の日本商船隊は約二千隻と言われています。二千総トン以上のいわゆる日本が支配する外航船舶でありますが、そのうち日本フラッグの船というのはわずか百数十隻であります。もうほとんどは便宜置籍船と申しまして、究極の規制緩和の中でフラッグの売買によってそうした便宜置籍が行われているわけでありますが、本組合の組合員あるいは日本人船員を含むそういう人たちは当然ながらそういう船にも多数乗っているわけでありまして、我々の組合員、組織された組合の人たちも一千隻を超えるそうした便宜置籍船に乗っている。こういう船がアメリカに直接用船されて契約をされて、それで行くということになれば、これは当然、先ほど公述しましたように武力行使との一体化、こういうことになってくるわけでありますから、当然、御質問の中でも言われたように大変な問題になる。
イラン・イラク戦争のときも実は、戦争が激化して日本タンカーも攻撃を受けるようになってから、アメリカから日本船舶もアメリカ艦艇が守ってあげる、そういうふうな申し出もあったわけでありますけれども、我々はそれはかえって一方の側に立つと。当時アメリカは反イランの立場で、親フセインといいますかイラク側に立っていましたから、これはかえって日本の立場が中立的な立場から一方にウエートを置く立場になってしまう。しかも軍事的に護衛されるということの危険性、これについては我々過去の経験であるわけですから、こういうことから丁重にお断りをして、まさに平和憲法に基づくそうした範囲の中で、中立国であるということを明確にして安全をキープしてきた、このことを誇りにしていますし、それは正しかった、こう判断しているところです。
<現場で拒否すれば次に来るのは強制>
宮本岳志君 今回の法案では、民間の皆さんに対する協力の要請が九条二項で規定をされております。政府は、強制ではない、断っても罰せられることはないとしきりに言っておりますけれども、企業がこれを引き受けた場合、労働者の皆さんはこれを拒否できるか。特に、戦争の手伝いはしたくないという理由で拒否するようなことは実際に現場で可能だというふうにお考えでしょうか。平山公述人にお伺いいたします。
公述人(平山誠一君) これも我々はそういう経験がありまして、イラン・イラク戦争のときもそうでありますが、朝鮮戦争のときもそうでしたけれども、とにかく個人の拒否権、そういう危険なところに行かない拒否権というのを最大限確保してきたわけであります。
この点につきましては、使用者側といいますか、経営側もそのとおりだということで、ペルシャ湾でもそうでありますけれども、日本を出航するとき、それからホルムズ海峡から湾内に入るときに、必ずキャプテンが全員を集めまして、敵陣じゃありませんが、これからいよいよホルムズ海峡に入っていくけれども、どうしても行きたくないという者は手を挙げろ、あるいは言ってこいと。ここでそういう方についてはドバイで下船をさせまして、日本に送還といいますか送り返す、こういう対応をしてきました。
常時あそこは六百人からの日本人船員が入っていたわけでありますが、そうした方はそう多くありませんでした。八年間を通して十人にも満たない、そういうことがあったわけであります。
いずれにしても、個人の拒否権というのはこれは絶対必要なことだというふうに思っています。ただ、この法案をアメリカによって極めて実効性の高いものにしてほしいという要請がある以上、そのことによって運航に阻害が出てくるということになれば、これは労使間といえども非常に険悪な状況になりましょうし、経営者側としても非常につらい立場でありますけれども、要請を受ける政府との関係においても非常に難しい局面を生んでくるのではないかなというふうに思います。
船は、キャプテンが乗らない、一等航海士が乗らない船というのは動きませんから、交代がなければ、これは必ずだれかを連れてこなきゃいかぬわけです。集団的にもし行かないということになりますと、船の半数が、おれはもう嫌だ、こんな戦争に加担するのは嫌だ、一億円もらったって嫌だ、こういうことになれば、これは何らかの強制的な方法によって駆り出さなきゃいかぬ、そのことをまた我々はこの法案の次に来るものとして極めて高い懸念を持っているわけであります。
政府は、いや、いいんだ、行きたくなければいいんだよ、こうおっしゃっていますけれども、いずれきばをむくといいますか、失礼があったらお許しいただきたいわけでありますけれども、いや、船乗り、行ってくれと。私らは普通に税金を払っている普通の国民でありますので、特別に何か優遇されているわけでも全くありません。なぜそういう民間が、これは海洋国家日本であるがゆえにそういうことになるのかなという宿命的なものもあるわけでありますが、それにしてもそういうことを我々に強制されるいわれはない、こういう立場であります。
宮本岳志君 ありがとうございました。
あとのお二人の方にも質問を準備しておりましたけれども、時間が来てしまいました。一言おわび申し上げまして、私の質問を終わります。(拍手)