147 – 参 – 交通・情報通信委員会 – 8号 平成12年03月30日
平成十二年三月三十日(木曜日)
午前十時開会
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委員の異動
三月二十八日
辞任 補欠選任
奥村 展三君 岩本 荘太君
三月二十九日
辞任 補欠選任
山下 善彦君 加藤 紀文君
阿部 幸代君 筆坂 秀世君
三月三十日
辞任 補欠選任
筆坂 秀世君 吉川 春子君
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出席者は左のとおり。
委員長 齋藤 勁君
理 事
景山俊太郎君
釜本 邦茂君
簗瀬 進君
弘友 和夫君
渕上 貞雄君
委 員
岩城 光英君
加藤 紀文君
鹿熊 安正君
鈴木 政二君
田中 直紀君
野沢 太三君
山内 俊夫君
谷林 正昭君
内藤 正光君
吉田 之久君
日笠 勝之君
宮本 岳志君
吉川 春子君
戸田 邦司君
岩本 荘太君
国務大臣
運輸大臣 二階 俊博君
政務次官
運輸政務次官 鈴木 政二君
事務局側
常任委員会専門
員 舘野 忠男君
政府参考人
運輸省自動車交
通局長 縄野 克彦君
運輸省海上交通
局長 高橋 朋敬君
運輸省港湾局長 川嶋 康宏君
労働省職業安定
局長 渡邊 信君
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本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○港湾運送事業法の一部を改正する法律案(内閣
提出)
○海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一
部を改正する法律案(内閣提出)
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<登録制では過当競争を防げなかった>
宮本岳志君 日本共産党の宮本です。
まず運輸大臣にお伺いいたします。
大臣は、法案の提案理由説明で、港湾運送事業はその特性から過去に混乱の歴史を経験したと述べられました。その特性とは具体的にどんな特性で、どのような過去の混乱の歴史があったのか、簡潔に御答弁願います。
国務大臣(二階俊博君) 基本的には、船会社、荷主からの求めに応じ港湾荷役の労務を提供するという受注型の労務供給的事業であり、従来の港湾運送事業というのはそういう事業でありましたが、大規模な設備投資等を必ずしも必要としないために、全コストに占める労働コストの割合が非常に高い労働集約的産業でありましたことは御承知のとおりであります。
港湾荷役において、船舶の運航スケジュール等に左右され日々の業務量に格差が生じる、いわゆる波動性が存在するところであり、業務量が少ない日には労働力が遊休化するというために日雇い労働者に依存する傾向があったわけでありますが、こうしたことから、過去において日雇い労働者の労務供給を業とし、単にピンハネを行うような悪質業者が多数参入し、荷役現場が混乱した事実があります。労働問題の発生や作業の質の低下等を招いていたことがあったと承知しております。
宮本岳志君 波動性ということが述べられました。波動性とはどういうことかと。
私はここに昭和二十六年三月三十日の参議院運輸委員会の会議録を持ってまいりました。港湾運送事業法を制定したときの提案理由説明でこうはっきり述べております。
一度荷動きが減小すればただちに激甚なる不当競争を展開し、この事業の重要な施設でありまするはしけや荷役機械の維持、修理すらも放擲いたしまして、混乱と無秩序の中にともだおれの危機に陥るに反し、一方輸送力の増強が強く要請されるときには、輸送上の大きなネックとなりまして、多くの問題がこの事業にしわ寄せされて来るのであります。
この法律ができる前はこういう状況であったわけです。こういう混乱の中で悪徳労務手配師の暗躍や労働者の権利のじゅうりんが横行したと。
そこでお伺いいたしますけれども、この法律の制定当初は今のような免許制でございましたか。
政府参考人(高橋朋敬君) お答えいたします。
昭和二十六年の港湾運送事業法制定時でございますが、これは議員立法だったわけでございますが、当時は事業者の登録制でございました。一定の登録拒否要件に該当しない限り登録することが可能という制度でございました。
宮本岳志君 登録制だったんですね。
登録制ではまだこの事業の安定を図ることはできなかったと。私はきょう、天田乙丙氏の「港運がわかる本」という本をお持ちいたしましたけれども、この中では、事業登録制では「需給を調節する規制措置がないため、最小限の登録基準を充足しさえすれば、簡単に登録業者の資格を取得できたから」、「新規業者はほとんど野放しに近い状態で叢生した。このままでは、港湾運送秩序の確立と、公正な競争の確保を図ることは不可能な状況であった。」と、こう述べておられます。
そこで、一九五九年、登録制から免許制へと変更する事業法の改正が行われました。このとき、自民党、社会党、両党の共同修正理由はこう述べております。
事業者の乱立、不適格業者の出現等に起因して、荷役の近代化はおろか、秩序は混乱し、労使双方に不安動揺を与えているのであります。かかる憂慮すべき事態が生じますのは、事業が単なる登録制であるがため、その実体を的確に把握し得ないためであることは申し上げるまでもありません。
以上のような実情にかんがみまして、この際港湾運送事業を免許制に改めまして、港湾運送の秩序を確立し、事業の健全な発達をはかり、もって公共の福祉の増進に寄与せしめようとするものであります。
つまり、事業登録制では需給を調節する規制措置がないからだめだ、実態を的確に把握し得ないからだめだと、これはまさに政府がそう主張してつくった免許制なんです。
<現行制度のもとでもダンピングが横行>
宮本岳志君 これをやめるというのは、この歴史に照らしてどう説明されるのか、運輸大臣にお伺いいたします。
国務大臣(二階俊博君) 長い歴史の中でつくられてきた免許制をやめるということは時代に逆行するだろうという御意見だと思いますが、戦後の悪質な事業者の参入など港湾運送の混乱を解決するために免許制が導入されたところでありますが、免許制は、安定した港湾荷役体制を確保し、我が国の経済の発展に大きく寄与してきたものという認識は持っております。
一方、東アジアにおける経済構造が大きく変化をしていく中で、免許制のもとでは事業者間の競争が行われにくい。船会社、荷主のニーズに合ったサービスの提供が満足いくような状況ではない。免許制の持つ問題点が顕在化してまいりまして、これが近年の我が国の港湾のコンテナ取扱量等において相対的に地位の低下が歴然としておる、それが大きな原因の一つとなっておるというふうに考えております。
このため、港湾運送事業の構造改革を喫緊の課題として今回の法改正による規制緩和を行うものでありますが、過去の混乱の歴史を踏まえ、悪質事業者の参入阻止等、その安定性の確保には十分留意して進めることとしておりまして、規制緩和を実施することによって我が国経済の発展に大きく貢献するものとの認識を持っております。
宮本岳志君 時代は変わっても波動性、労働集約性というその特性は変わっていないわけであります。
そこで、現在の問題です。現在はもう過度のダンピングや不適格業者などというものは一切なくなった、もう緩めても大丈夫だと言える状態にあるのかという問題であります。
海上交通局長にお伺いしますが、一九九八年まで過去五年間の港湾運送事業者への監査の状況、処分の理由の主なものについてお答えいただきたいと思います。
政府参考人(高橋朋敬君) お答えいたします。
港湾運送事業者への監査ということで、認可料金の遵守状況の監査を目的としながらやっておるわけでございますが、毎年業務監査を実施しております。
平成六年度から平成十年度までの各年度におきまして、それぞれ百十九、八十、百五、百二、八十八に対して監査を行ったところでございます。このうち、認可料金が収受できていないものなどに対して文書で警告を発しておりますけれども、平成六年度から平成十年度までの各年度におきまして、それぞれ八十四、三十七、六十三、五十四、六十三社に対しまして処分を行ったところでございます。
宮本岳志君 五年間で約五百事業者を監査して三百社が文書警告処分を受けた、処分率は六割、そのほとんどがダンピングということであります。認可制である今でさえ、こんなにダンピングが横行しているのではないでしょうか。
運輸大臣、こんな状態のもとで認可制から届け出制へと規制を緩和すれば、さらにダンピングが横行するのは火を見るより明らかだと思うのですが、いかがでしょうか。
国務大臣(二階俊博君) 規制緩和によりまして事業者同士が競争する、切磋琢磨する、そのことによって効率化が進むわけでありますが、料金面も含むサービスの向上が図られることに期待をいたしておるところであります。
ただ、規制緩和の結果、事業者間の競争が激化する余り過度のダンピングが行われる結果、港が混乱することのないように、そうした事態を避けることを考えておりまして、所要の港湾運送の安定化策を設けることとしているところであります。
具体的には、大きくコスト割れをしているような料金が届け出られた場合には料金変更命令をかけることとしているほか、規制緩和を行う港の料金水準が著しく低下しているような場合には、直ちに緊急監査を実施することとしているところであります。
このような制度を迅速にしかも的確に運用することによって、料金のダンピング問題にはきちんと対応していけるものと考えております。
<実効性を欠いたダンピングへの対策>
宮本岳志君 では、それが歯どめになるかどうかを検討したい。
暴力団対策法違反者等を欠格事由に加える、これは当然のことですけれども、今お話しになった運賃料金変更命令制度であります。過度のダンピングを防止するため、運輸大臣が不当な競争を引き起こすおそれがある運賃料金について変更命令を行うことができると。
まず、じゃお伺いいたしますけれども、過度なダンピングとはどのようなものか、基準はどのようなものになるのか。元請が下請料金を低く抑えることは過度のダンピングに入るのか、いかがですか、運輸省。
政府参考人(高橋朋敬君) お答えいたします。
過度のダンピングということにつきましては、届けられました料金が変動費を下回っているということで考えておりますが、その中には、港湾労働の特性を踏まえまして労働コストなどを変動費の中に加えながらその中身を決めていきたいと思っているところでございます。そういう労働コストを含むところの変動費を大きく下回っている場合に料金変更命令を行うという方向で今検討しているところでございます。
それから、今お尋ねの下請料金そのものは港湾運送料金ではありませんので、直接それがダンピングの対象ということではないということになろうと思います。
宮本岳志君 下請たたきの料金に歯どめがないと。実際私、港湾運送事業者の方々や労働者の方々からお伺いしても、まさに下請たたきのダンピングというものが極めて重大な状況になっております。ここに何の歯どめもなければ、実態は絶対に救われないと言わざるを得ないと思います。
では、その運輸大臣の変更命令なるものは有効かどうかということであります。
きょうは自動車交通局長に来ていただいておりますが、今回の法のスキームと全く同じ運賃料金の運輸大臣の変更命令という規定が貨物自動車運送事業法第十一条の二項にございます。
交通局長、この変更命令ができて十年になりますけれども、この間この運輸大臣の運賃料金変更命令は何回出されましたか。政府参考人(縄野克彦君) 貨物自動車運送事業法に基づきます運賃料金の変更命令は、届け出られた運賃がいわゆるダンピング等の要件に該当する場合に行うものでございます。これまで届け出られた運賃料金がダンピング等の要件に該当するものであったということはございませんでしたので、変更命令を行ったことはございません。
宮本岳志君 十年間にゼロという御答弁ですね。だから、実際仕組みはあっても、この貨物自動車運送事業法でも出されたことがない。つまり、絵にかいたもちに終わっていると言わざるを得ないと思います。
次に、割り戻しについて聞きたいと思うんです。
あなた方は、免許制のもとにおける運賃料金の割り戻しの禁止や下請の制限等の規定について、許可制のもとでも適用するなどとしております。割り戻しというのはいわゆるキックバックのことで、これは現行法の第十条に明確に禁止規定が置かれておりますが、これは海上交通局長に聞きます、この十条違反でこれまで摘発した例がございますか。
政府参考人(高橋朋敬君) お答えいたします。
割り戻しの禁止の規定が港湾運送事業法十条にございますが、現在、同条の規定に違反したとして摘発した例はございません。
なお、九港においてもこの割り戻しの禁止の規定は維持されます。許可制のところにおいても割り戻し禁止の規定は維持されます。
宮本岳志君 つまり、今までも十条に基づく摘発の例はないということですね。今までも摘発された例がないんですから、許可制のもとでも適用するといってもこれは意味がないと私は思います。これでは歯どめなどとは到底言えないと私は思います。
<船社・荷主への対策が欠落している>
宮本岳志君 次に、これは運輸大臣にお伺いしたいと思います。
/p> 今回の法改正は昨年六月の運政審の海上交通部会答申に基づくものと、これは明らかですけれども、この運政審は九七年十二月の行革委員会の最終意見を受けたものでございますね。いかがですか、確認をさせていただきます。
国務大臣(二階俊博君) 平成九年十二月に、行政改革委員会から、現行の事業免許制を廃止し許可制に、料金認可制を廃止し届け出制にすべきであること、同時に港湾運送の安定化等を図るための各施策の実施及び検討が必要である旨の最終意見が内閣総理大臣に出されたところであります。
これを受けまして、十年五月より、運輸政策審議会におきまして、行政改革委員会最終意見を踏まえて、港湾運送の規制緩和の具体的な進め方や規制緩和に伴う港湾運送の安定化策等について審議が行われ、最終答申は十一年六月に出されたところであります。
宮本岳志君 この最終意見にはこうあります。「中小企業が多い港湾運送事業者と大企業の」「船社、荷主との力関係の差を背景とした過度のダンピングは、労働環境の悪化等につながることから、料金変更命令、船社、荷主への勧告制度等その防止方策について検討すべきである。」と。ところが、運政審答申では、ダンピング防止策については書かれてありますが、船社、荷主への勧告ということには触れられておりません。
行革委の最終意見にさえはっきり書かれているように、ダンピングが横行する背景には港湾運送事業者と船社、荷主との力関係があり、ここを規制しなければ防止策の効果は期待できないと思うんです。
なぜ船社、荷主への勧告を制度化しないのか、お答えいただきたいと思います。
政府参考人(高橋朋敬君) 緊急監査の結果、船社、荷主の要望により過度のダンピングが行われていたことが判明した場合には、船社、荷主に対して再発防止のための要請を行うというような運用をすることを今考えております。
宮本岳志君 ヒアリングをして協力要請というスキームが出されていると思うんです。しかし、そのヒアリングや協力要請というのは、同一の船社、荷主の要請により過度のダンピングが繰り返し行われていることが明白になってやっと公表というような話なんですよ。これでは強制力は担保されないのじゃないかというふうに思います。
同じようなダンピング防止規定の例として、建設業法第十九条の三、「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする」「契約を」「してはならない。」という規定が建設業法にございます。せめてこれと同趣旨の規定ぐらいは設けるべきではないでしょうか。
政府参考人(高橋朋敬君) お答えします。
建設工事の注文者は、その経済的な優越性を不当に利用して請負人を経済的に圧迫して低価格受注を強いることが少なくないということに着目し、それが手抜き工事、不良工事等の原因となるので、欠陥住宅の横行による公衆災害という言葉がございますが、要するに一般人に対する災害を惹起する等の結果を招くおそれがあることからこのような規定が設けられているというふうに承知しております。
港湾運送事業につきましては建設業のような事情が存在しないためにこのような規定は設けておりませんが、運賃料金変更命令とか緊急監査制度によって過度のダンピングを十分防止し得ると考えております。
宮本岳志君 もう一つ、同趣旨の法律についてお伺いしたい。
貨物自動車運送事業法第六十四条には、「当該一般貨物自動車運送事業者等に対する命令又は処分のみによっては当該違反行為の再発を防止することが困難であると認められるときは、当該荷主に対しても、」「勧告することができる。」という規定がございます。貨物自動車運送事業法では荷主に対する勧告という制度があるわけですから、なぜ港湾運送事業法ではできないのか。いかがですか、これは。
政府参考人(高橋朋敬君) 貨物自動車運送事業法におきます荷主への勧告制度の趣旨は、荷主から過労運転や過積載といった公道における交通の安全を阻害する行為などを強要されることを防止するために設けられているというふうに承知しています。
港湾運送事業につきましては貨物自動車運送のような事情が存在しないために勧告制度は設けないというふうに考えております。
宮本岳志君 私は、今二つの答弁をお伺いして本当にひどいと思います。
つまり、一般人に被害が及ぶからトラックの場合は荷主に至るまで勧告をするんだと。あるいは、建設業法についても、一般人に被害が及ぶからそれはいいんだと。しかし、港湾運送事業法の場合は、ダンピングが起こって、労働条件が本当に悪化して仮に事故で命を落とすとしても港湾労働者だからそこまではやらないんだ、そういう話じゃありませんか。私は、そんな話は港湾労働者やその家族は絶対納得しないとはっきりと指摘をしておきたいというふうに思います。
我が党は、御存じのとおり、行革委員会の最終意見そのものに反対をしてまいりました。しかし、その行革委員会でさえ船社、荷主と事業者の力の差ということは認めて、勧告などの方策の必要性を指摘したわけであります。今回の改正案はその行革委員会の最終意見からさえも後退したものである、私はこう思いますが、運輸大臣、いかがですか、これ。
国務大臣(二階俊博君) 当委員会の御指摘を受けて、法の施行に際しまして十分対処してまいりたいと思います。
宮本岳志君 港湾利用者の圧倒的多数は大企業でございます。我が国輸出の五〇%を上位三十社が占めて、この三十社を合わせれば内部留保は二十五兆円と言われるほど有力企業がそろっております。一方で、港湾運送事業者は、運輸省からいただいた資料によっても一千三十五社中九百十二社、実にその八八%が従業員三百人以下、または資本金一億円以下の中小零細企業なんです。
認可運賃から届け出運賃への規制緩和によって運賃ダンピング競争が行われるならば、たとえあなた方の言う過度のダンピングでなかったとしても中小零細港湾運送事業者は経営困難に陥り、労働者の雇用破壊、労働条件の切り下げを生み出すことは明らかであります。ましてや、過度のダンピングに対する歯どめなるものも今見たように全く実効性が疑わしいと言わざるを得ない。
このような規制緩和は、結局我が国港湾運送事業の基盤を崩し、安定と安全を損なうものであり、我が党は断固反対する、このことをはっきり申し上げて私の質問を終わります。