147 – 参 – 本会議 – 18号 平成12年04月19日
平成十二年四月十九日(水曜日)
午前十時一分開議
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○議事日程 第十八号
平成十二年四月十九日
午前十時開議
第一 土砂災害警戒区域等における土砂災害防
止対策の推進に関する法律案(内閣提出)
第二 技術士法の一部を改正する法律案(内閣
提出、衆議院送付)
第三 食品流通構造改善促進法の一部を改正す
る法律案(内閣提出)
第四 運輸施設整備事業団法の一部を改正する
法律案(内閣提出、衆議院送付)
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○本日の会議に付した案件
一、裁判官訴追委員予備員辞任の件
一、裁判官訴追委員予備員等各種委員の選挙
一、消費者契約法案(閣法第五六号)(趣旨説
明)
一、高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利
用した移動の円滑化の促進に関する法律案(
趣旨説明)
以下 議事日程のとおり
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宮本岳志君 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました高齢者、障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律案について質問いたします。
障害者や社会的弱者の権利の保障一般という意味でも、障害者を初めとする移動制約者の移動手段の保障という意味でも、我が国はまだまだ立ちおくれています。このもとで、おくればせながら交通バリアフリー化を総合的に推進することを目的とする本法案が国会に提出されたことは、障害者団体を初めとする関係者の方々の粘り強い努力が実を結んだものであり、歓迎いたします。
<基本的人権と位置づけて課題も明確に>
宮本岳志君 しかしながら、これまで多くの国民の皆様とともに運動を積み重ねて実現を目指してきた方向から見れば、本法案にはまだまだ不十分な点が残されていると言わざるを得ません。
そこで我が党は、多くの障害者や高齢者の方々の願いに正面からこたえられる法制度にするために、衆議院で修正案を提出してまいりました。
以下、その立場で法案の具体的な内容についてお尋ねいたします。
第一に法案の目的、理念についてです。
まず法案の根本にかかわることとして、高齢者、障害者等すべての人の移動は基本的人権であることを法律に明記すべきであります。今日、フランスの国内交通基本法には基本的人権としての交通権が明記され、アメリカでは交通上の差別を禁止した一九九〇年アメリカ障害者法が制定されるなど、交通権の考え方は次第に世界の流れになりつつあります。
ところが、運輸大臣は衆議院で、判例等が明確になっていないし社会的合意が形成されていないなどと、権利として明記することを認めようとしませんでした。しかし、運輸大臣、障害者にとって全面参加と平等の理念を実現するためには移動の権利を保障しなければならないことは明瞭ではありませんか。
二階運輸大臣は、衆議院の答弁で、知的障害者や精神障害者の方々にとっての交通バリアフリー化は現状では十分とは考えないと明確に述べています。にもかかわらず、障害者一般でなく身体障害者に法律の対象を限定し、その理由は、どのような施設の整備により知的障害者や精神障害者が移動を円滑にできるようになるかが明らかでないからだと説明しています。
しかし、衆議院の委員会審議でも指摘されたように、知的障害者が多く利用する駅に大きな平仮名の表示をすること、精神障害者や知的障害者の利用に配慮して人員の配置を厚くすることなど、できることは幾らでもあります。それを、必要な措置の全体像がいまだ明らかでないからといって精神障害者、知的障害者を法の対象や理念そのものから外さなければならない理由はないのではありませんか。
九三年十一月に行われた身体障害者基本法の改正で、参議院厚生委員会は、全会一致で附帯決議を行い、精神障害者のための施策がその他の障害者と均衡を欠くことがないようにすることを求めました。
すべての障害者の移動への制約をなくしていくことを政府も自治体も事業者もともに努力すべきとして、まず明確に位置づけてこそ、その実践の中で、知的障害者や精神障害者のために必要な措置の全体像も明らかになっていくのではないですか。答弁を求めます。
第二に、基本方針と基本構想についてであります。
個々の障害者にとっては移動ができるかできないのかが問題なのであり、新設、既設の区別や乗降客数の多少にかかわらず、すべての施設を対象とするものでなくてはなりません。ところが政府は、優先順位をつけて緊急に進める必要があるということを理由に、重点整備地区を定める理由にしています。私たちも、もちろん全駅を一度にできるなどとは考えておりません。しかし、全体を対象とすることと当面の優先順位をつけて整備に取り組むことと、どこが矛盾するというのですか。政治の責任としてどうあるべきか、明確にお答えいただきたい。
新設、既設についても、すべてを義務化した上で、すぐには駅舎の改造などが難しい状況があるならば、障害者の代表を含む関係者が協議し、段階的、計画的に整備すればよいと考えます。最初から法律の範囲を狭めてしまうことで、この法律が何を目指すのかの根本を不明確にしているのではありませんか。政府の見解を問うものです。
<公共交通事業者の責務を明確にすべき>
宮本岳志君 第三に、公共交通事業者の責務についてであります。
大量輸送機関を運営する事業者は、国民の生活に不可欠な輸送手段を担う立場から、運輸大臣の許可による独占的な地位を与えられています。このような立場にある交通事業者が、障害者や高齢者の移動の自由を保障する義務を負うのは当然であると考えます。ところが、これまでもJRなどは、エスカレーター、エレベーターの整備で自治体に五〇%、七〇%もの負担を求めたりする例すらありました。
政府は、事業者の投資能力の制約を理由にこれを努力義務にとどめる態度をとっていますが、これでは、公共交通機関の事業者の多くがこれまで資金難を理由にバリアフリー化の努力を十分に行ってこなかったことを免罪することになりかねません。
もちろん、事業者の現実の投資能力に制約があることを否定するものではありません。ですから、そうした実情をも踏まえて、障害者など交通機関の利用者、事業者、地方自治体の三者の話し合いで現実的な整備の計画を立てればよいのではありませんか。そして、その協議を本当に実りあるものにするためにも、内容のない単なる努力義務にとどめず、事業の直接の担い手である交通事業者の責任を明確にしておくことが必要なのではありませんか。答弁を求めます。
第四に、道路の交通機関であるバス及びタクシーに対する対策についてです。
駅や空港のバリアフリー化が進んでも、障害者がそこまで行くことが制約されていたのでは何にもなりません。バスやタクシーに対する対策も並行して実を結んでいくようにすることがぜひとも必要であります。
そこで、伺います。
運輸省は、一つの考え方として、おおむね十年から十五年で二〇から二五%をノンステップバスにするという数字を挙げています。これが現実になれば大きな前進であることは評価しますが、それでも、バス停で四台待ってやっと車いすで乗れるバスが来るという水準であります。この目標はさらに引き上げるべきだと考えますが、いかがですか。そして、この目標をクリアした後にはさらに一〇〇%を目指していくのかどうか。答弁を求めます。
本法案には、タクシーへの対策は盛り込まれていません。これは、今回の法案が公共大量輸送機関に着目したものだからタクシーにはなじまない、今後の検討課題だと説明されています。
運輸省は、タクシーについて、移動制約者の方の輸送にとって重要なものとしています。このように運輸省自身が重要性を認めている以上、いつまでも検討中では済まされません。タクシーのバリアフリー化の枠組みについても早急に検討を行い、必要ならば速やかに法的な措置を講ずるべきですが、この点についての運輸大臣の御決意を伺います。
第五に、障害者、高齢者など利用者の意見を反映するためのシステムについてです。
政府が移動円滑化基準を策定するに当たってパブリックコメント手続の実施を明らかにしたことは評価できる点です。しかし、この円滑化基準の策定にとって大切な障害者や高齢者などは、情報弱者となりやすい人々でもあります。したがって、パブリックコメントの実施に当たっては、一通りの手続をもって済ませるのではなく、多くの関係者へのわかりやすい説明と広報の特段の努力及び寄せられた意見に対してどのような検討を行ったのかということまで含めた公表が必要ではありませんか。また、関係者の意見を聞くための常設の機関、協議会や審議会の設置も必要であると考えますが、大臣の所見を求めるものであります。
以上、五点についてお尋ねいたしました。
私は、本法の成立を歓迎する多くの障害者や関係団体の方々と思いを同じくすると同時に、指摘したような不十分さがある以上、これをさらによい法制度としていくために引き続き関係者の皆さんと力を合わせて努力する決意を述べて、質問を終わります。(拍手)
<二階運輸相は移動の権利に消極的答弁>
国務大臣(二階俊博君) 宮本議員にお答えを申し上げます。
まず、移動は権利であるとのお考えを示されました。
これが基本的権利であることについては、憲法上明示されているものではなく、学説、判例においても確定されたものではないと承知をいたしております。
また、仮に憲法の理念を踏まえて移動の権利に関する新たな立法措置を講ずるといたしましても、法律として規定するためにはその内容を明確化する必要があると考えます。しかしながら、いかなる交通サービス水準を享受することが権利であるかについて社会的合意は形成されておらず、その内容について明確になっていないことから、これを本法案に規定することは適当ではないのではないかと考えております。
次に、障害者の移動の権利についての御質問でありますが、障害者基本法第二十二条の二においては、交通施設について障害者の円滑な利用に関する国、地方公共団体の配慮、交通事業者の努力義務が規定されており、権利について規定されているものではないと考えております。したがいまして、この規定の趣旨にかんがみれば、権利についての社会的合意がまだ形成されていないと考えるものであります。
次に、本法案について障害者一般を対象とすべきとの御質問でありますが、知的障害者や精神障害者の方々にとって交通バリアフリー化の現状は十分ではない、仰せのとおり私はそう考えております。
しかしながら、バリアフリー施設の整備については、どのような内容がこれらの方々の移動を円滑化する上で効果的なものなのか、あるいは人的介助をもって対応すべきなのか、必ずしも明らかになっておりません。したがって、本法案の対象を高齢者、身体障害者あるいは妊産婦等に規定をしたところであります。知的障害者、精神障害者の方々に対するバリアフリー化の施策につきましては、今後とも幅広い検討を加え、その方策が明らかになった段階でこれを推進していくことにしたいと考えております。
次に、必要な措置が明らかにならないことが本法案の対象から精神障害者等を外す理由になるのかとのお尋ねがございましたが、御承知のとおり、国連が一九八二年の総会で決議した「障害者に関する世界行動計画」によれば、障害はおのおの異なる方法で克服されなければならないとされております。
知的障害者や精神障害者の方々については、施設整備によるのか、施設整備以外の手段によるべきなのか。施設整備によるとした場合、何が効果的なのか、現時点では障害を克服する方法が必ずしも明らかでないため、本法案の対象とはしていないところであります。
次に、すべての障害者の移動の制約をなくすことを明確に位置づけるべきとの御指摘がございました。
運輸省としましては、さまざまな障害を克服するための具体的方策が明らかになった段階で法律上の措置を講ずることが望ましいと考えております。
次に、まずすべての旅客施設のバリアフリー化を目標とすべきではないかとの御意見でありますが、本法案においては、新設の旅客施設についてはバリアフリー化基準への適合義務を課し、既存の旅客施設についても努力義務を課すことにより、すべての旅客施設についてバリアフリー化の対象としているところであります。その上で、一定の基準を満たす施設につきましては、市町村の作成する基本構想の対象として優先的に整備をすることを規定しているものであります。
次に、既設の施設についてもすべてバリアフリー化を義務づけるべきではないかとの御意見がございました。
すべての旅客施設につきましてバリアフリー化されることは確かに理想的ではありますが、国及び地方公共団体の予算にも、また交通事業者の投資余力にも限りがあります。したがいまして、現段階においてすべての施設についてバリアフリー化を強制することを前提とした法制度を構築することは困難であると考えております。
次に、バリアフリー化の対象を狭めているとの御意見がございました。
本法案については、バリアフリー化の基準を設け、新設の施設については基準に適合する義務、既存の施設については基準にできるだけ近づけるような努力義務を課しているものであります。したがいまして、対象範囲を狭めているという御指摘は当たらないものと考えております。
次に、既設の旅客施設に対するバリアフリー化の努力義務化は、これまでの交通事業者の努力不足を免罪することになるとの御指摘でありましたが、交通事業者はこれまでもバリアフリー化に取り組んできたところであり、必ずしも努力不足とは考えておりません。
バリアフリー関係の施設整備の進捗状況は十分でなかったことは事実でありますが、これは助成制度が確立していなかったことも一因であると考えております。
したがいまして、平成十一年度以降の新しい補助制度の導入後は、交通事業者は積極的に施設整備を進めており、この実績によれば十分努力しているものと評価をいたしております。
次に、関係者の話し合いで現実的な整備計画を立てるべきだとのお尋ねがございました。
本法案では、既存の旅客施設であっても、市町村が、関係交通事業者等の関係者と合意の上、地域のバリアフリー化の基本構想を作成した場合は、それに即して交通事業者はバリアフリー化事業を実施しなければならないこととなっております。
このように、本法案では既設の旅客施設のバリアフリー化の実効性を確保するための仕組みを設けているところであります。
次に、交通事業者の責任の明確化の必要性についてお尋ねがありました。
本法案では、交通事業者に対し、交通施設を新たに整備、導入する場合はバリアフリー化を義務づけるとともに、既存の交通施設については努力義務を課し、交通事業者の責務を明確化しているところであります。
<ノンステップバスの普及に前向き答弁>
国務大臣(二階俊博君) 次に、ノンステップバスの導入目標についてのお尋ねでありますが、ノンステップバスについては、まだ通常のバスより価格が高いことから、当面は、おおむね十年から十五年で全乗り合いバス車両の二〇%から二五%に相当する導入を目指すこととしているわけでありますが、将来的には価格の低減を図り、可能な限り導入割合をふやしてまいりたいと考えております。
次に、タクシーのバリアフリー化の枠組みについてのお尋ねがございました。
タクシーのような個別のニーズに対応する輸送機関については、バリアフリー化の内容についてもさまざまな御希望があることから、一律に基準を定め、法律により義務づけることは困難でありますが、最近盛んになってまいりました福祉タクシー等の導入を初め、その活用については積極的に推進してまいりたいと考えております。
次に、パブリックコメントの実施についてのお尋ねがございました。
パブリックコメントに関する閣議決定においては、その公表方法として、ホームページへの掲載、窓口での配布、プレスへの広報等を活用することとされております。さらに、提出された意見・情報の処理方法としては、これに対する行政機関の考え方を取りまとめ、公表することとされています。
このように、パブリックコメント手続を実施する場合には、この閣議決定に基づき適切に対処してまいりたいと考えております。
高齢者、身体障害者等の意見を聞くための協議会や審議会の設置についてでありますが、基本構想、バリアフリー基準、基本構想、公共交通特定事業計画といった各段階において、関係者の御意見を聞く方法といたしましては、一、協議会等を設ける、二、パブリックコメント手続による、三、計画等の作成主体が個別に関係者と意見を交換する等、種々の方法があると考えます。どの方法をとるかは、それぞれの段階で市町村及び事業者等の関係者が事情に応じて決めるべきものであると考えております。
以上でございます。(拍手)