155 – 参 – 総務委員会 – 9号 平成14年11月28日
平成十四年十一月二十八日(木曜日)
午後一時開会
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委員の異動
十一月二十六日
辞任 補欠選任
朝日 俊弘君 高嶋 良充君
辻 泰弘君 直嶋 正行君
十一月二十七日
辞任 補欠選任
直嶋 正行君 辻 泰弘君
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出席者は左のとおり。
委員長 山崎 力君
理 事
景山俊太郎君
世耕 弘成君
山内 俊夫君
伊藤 基隆君
高橋 千秋君
委 員
泉 信也君
小野 清子君
加藤 紀文君
岸 宏一君
久世 公堯君
椎名 一保君
谷川 秀善君
森元 恒雄君
輿石 東君
高嶋 良充君
辻 泰弘君
内藤 正光君
木庭健太郎君
山下 栄一君
八田ひろ子君
宮本 岳志君
松岡滿壽男君
渡辺 秀央君
又市 征治君
国務大臣
総務大臣 片山虎之助君
副大臣
総務副大臣 若松 謙維君
総務副大臣 加藤 紀文君
大臣政務官
総務大臣政務官 岸 宏一君
事務局側
常任委員会専門
員 藤澤 進君
政府参考人
内閣官房内閣審
議官
兼行政改革推進
事務局公務員制
度等改革推進室
長 春田 謙君
特殊法人等改革
推進本部事務局
長 堀江 正弘君
総務大臣官房審
議官 衞藤 英達君
総務省行政管理
局長 松田 隆利君
総務省行政評価
局長 塚本 壽雄君
総務省自治行政
局公務員部長 荒木 慶司君
総務省政策統括
官 稲村 公望君
消防庁長官 石井 隆一君
厚生労働省労働
基準局労災補償
部長 高橋 満君
国土交通省鉄道
局長 石川 裕己君
説明員
会計検査院事務
総局事務総長官
房総括審議官 友寄 隆信君
参考人
地方公務員災害
補償基金理事長 山崎宏一郎君
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本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○参考人の出席要求に関する件
○平和祈念事業特別基金等に関する法律の一部を
改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人通信総合研究所法の一部を改正す
る法律案(内閣提出、衆議院送付)
○地方公務員災害補償法の一部を改正する法律案
(内閣提出、衆議院送付)
○有線電気通信法の一部を改正する法律案(内閣
提出、衆議院送付)
○行政制度、公務員制度、地方行財政、選挙、消
防、情報通信及び郵政事業等に関する調査
(相互接続料等に関する決議の件)
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<通総研の業務の重要性は変わらない>
宮本岳志君 日本共産党の宮本岳志です。
まず初めに、通信総合研究所について二問ほど確認をしておきたいと思います。
通信総合研究所が現在特定独立行政法人になっているのはなぜなのか、御説明いただけますか。
政府参考人(稲村公望君) お答え申し上げます。
独立行政法人の役職員の身分につきましては、通則法におきまして、その業務の停滞が国民生活又は社会経済の安定に直接かつ著しい支障を及ぼすと認められる場合などに特定独立行政法人としてその役職員に国家公務員の身分を付与するということでございますし、今ありまする独立行政法人の通信総合研究所は、周波数の標準値の設定及び標準時の通報ということで国民生活の基本となる仕事をやっておりますし、あと電波の伝わり方、観測、予報などもやっておりますし、あと情報通新技術の基礎的な研究開発、これは重要な基盤だと考えておりますが、その業務もやっておりまして、これらの業務の性格から独立行政法人となっているところでございます。
宮本岳志君 つまり、国民生活や社会経済に極めて重要な業務を行っているという説明でありました。
今回、TAOとの統合後も特定独立行政法人のままでいくということは、この重要な業務を引き続き続けるということでよろしいですね。
政府参考人(稲村公望君) 今回、独立行政法人情報通信研究機構ということでございますが、これを特定独立行政法人といたしますのは、先ほど申し上げましたように、非常に業務の停滞が国民生活等の安定に直接著しい支障を及ぼすということと考えておりますので、引き続き行われるということでございます。
宮本岳志君 独立行政法人の通則法三十五条では、「中期目標の期間の終了時において、当該独立行政法人の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織及び業務の全般にわたる検討を行い、その結果に基づき、所要の措置を講ずる」と、こうして改めて検討するということにしております。くれぐれも国民生活や社会経済の安定に不可欠なこれらの仕事を投げ出すことのないように、中央省庁改革基本法四十一条の趣旨も踏まえて進めることを求めておきたいと思います。
さて次に、地方公務員災害補償法についてお伺いいたします。
この質問に先立って、まず私は、去る十一月六日、大阪市淀川区のJR東海道線で救助活動中に尊い命を落とされた大阪市消防局救急隊員、故中沢良夫消防司令の御冥福をお祈りするとともに、御遺族の皆様に心からお悔やみを申し上げます。
先ほども議論がありましたが、この事件について大阪市消防局は、JR西日本の運行管理や安全への配慮にミスがあったのが原因だとJRに厳しく抗議をしております。
若く有能な消防職員の痛ましい事件について、私の方からも大臣に一言、再発防止の決意などを求めたいと思います。
片山虎之助君 先ほども申し上げましたが、今回の事故により一名の若く優秀な、二十八歳の消防職員が殉職されました。心から哀悼の意をささげたいと、こういうふうに思いますし、また、負傷されましたもう一名の職員の方も、一日も早い回復を是非お祈りいたしたいと思っております。
その西日本のJRの社長さんがお見えになりましたんで、私からも強く言っておきました。いや本当に。そのためには、やっぱり鉄道事業者がもう少しそういう認識を持ってもらって、いろんなことの対応を万全にやっていただくということがありますし、また、各消防機関にも、先ほども答弁しましたけれども、鉄道事業者や警察と十分な連携を取って、常時そういうことに対応できるような安全管理に立ち向かってもらいたいと、こういうふうに思っておりますし、私どももそういう努力をしてまいります。
<上司が過労死と認めても基金は否定>
宮本岳志君 消防士に限らず地方公務員は、地方公務員法の定めによりまして、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、日々全力を挙げて職務の遂行に当たっておられます。これら地方公務員が公務により死亡、負傷あるいは病気にかかった場合に、地方公務員法第四十五条の規定に基づきその災害を補償するというのが地方公務員災害補償法の趣旨であります。
この地方公務員災害補償基金の制度は、三十五年前、一九六七年の地方公務員災害補償法の制定に伴って作られたわけであります。この出発点は、公務に伴う災害補償が当時は地域によってアンバランスがあったため、十分な補償を受けられない地方公務員をなくすんだ、これを救うということがこの作ったときの趣旨だったと思いますが、まず、総務大臣、こういう作ったときの趣旨について御確認願えますか。
片山虎之助君 委員自ら言われましたように、それはこの制度ができるまでは地方団体によってばらばらですね。条例でやるところ、労基法に基づくところ、また現業、非現業の区別その他についても大変不統一でございまして、ある意味では、地方公務員の方のそういう意味での権利が十分守れないと、こういう認識の下にこの統一的な制度を作ったわけでございまして、今言われたことと私も認識をともにしております。
宮本岳志君 第五十五国会参議院地方行政委員会で行った提案理由説明、当時の藤枝自治大臣は、「これまで災害補償の道が開かれていなかった地方公務員につきましても、その道を開く必要があることは申すまでもありません。」と述べております。
しかし、残念ながら、救うべき者を救っていないと御指摘申し上げざるを得ない現状があるということを今日は議論したいと思うんです。
こういう問題が本当に解決されるというのならば確かに改革の名に値するだろうと。しかし、今回の法案にそういう本質部分の改革というのが全く見当たらないというのが私どもの率直な感想であります。
まず、衆議院で我が党の矢島議員が取り上げた和歌山県橋本市の辻田豊さんのケースについてお伺いいたします。
今日は配付資料をお配りしてあります。
配付資料の1の1、そして2に、公務災害認定請求書とそれに添付された「災害発生の状況」という資料を付けておきました。
これを見ると、過労とストレスで胃潰瘍を再発したにもかかわらず、土日も含めて出勤、残業時間は一か月で百十六時間にも及んだとあります。そして、疲れ切って仕事に行くこともできなくなった。職場からは出勤を促す電話が入る。二日の欠勤の後、家を出たが、向かったのは職場でなく、自ら命を絶ったという痛ましいものであります。それにもかかわらず、この件について基金和歌山支部は公務外との認定を下しました。
認定理由の通知書は十ページに及ぶものですが、結論部分の一枚だけを資料に付けておきました。1の3です。「通常の能力のある人であれば通常の勤務時間内で出来たものも、本人は症状の影響により人の何倍もかかってしまったのであろう。表面的には時間外勤務が多いものの、それは結果に過ぎず、発症の原因ではない。」、こう書かれてあります。
私は、こういう断定をする基金の冷たさに本当に驚きました。この決定は、支部が勝手にやったものではなく、基金の本部との協議の上で行ったものだと思うんです。
そこで理事長に聞きますが、公務災害認定の申請に対する判断について、本部との協議を制度化している趣旨と個別の案件を本部協議事項にするかどうかの基準を答えていただけますか。
山崎宏一郎君 本部協議することとされている事案は、心・血管疾患及び脳血管疾患事案を始め精神疾患に起因する自殺事案、特殊公務災害事案などでございます。
これらは、災害と業務の関連が複雑で、公務起因性の判断に当たって医学的知見、事実認定、過重性の評価等、非常に専門的な知識経験を要すると。公正な補償の実施と判断の統一性の確保の観点より、本部への協議を得て認定するよう取り扱っております。
現在要するものでございますけれども、適宜見直しを行っておりますので、現在は脳・心臓疾患の公務災害の認定、精神疾患に起因する自殺の公務災害の認定、特殊公務災害等の認定、傷病等級の決定、障害等級の決定、重大な過失の決定、その他支部長が取扱い困難と認めた事案等を対象にしております。
宮本岳志君 つまり、重要な判断は本部が仕切っているという説明だと思うんですけれども、これについて資料の1の4に所属部局の長の意見、助役さんでありますが、付けてあります。そして、1の5には市長の意見も付けておきました。どちらも、これは公務上の災害だ、過労で自殺に追い込まれたんだと。これは所属部局の長も市長も明瞭にそう述べております。
<認定に膨大な書類の提出を要求される>
宮本岳志君 当事者に最も近いところにいて実情を一番よく知っている人たちがこう言っているにもかかわらず、本部が口出しをして、それは公務による過労が原因でないということになったわけです。東京にある基金本部でなぜそんな判断ができるのか。基金本部は、支部との協議に当たって現場に足を運んで関係者の話を直接聞くなど調査をしたのか、いかがですか。
山崎宏一郎君 先ほど申し上げましたように、こういう難しい案件につきましては本部に協議をしていただくこととなっております。それが一つと、それから任命権者の意見もいただくということになっております。これは法律で定まっております。任命権者あるいは所属長、日常職場において職務命令を発し、あるいは職員を指揮監督する立場にあり、災害発生の状況を把握していること等を考慮しているものでございます。
基金といたしましては、具体的事案の判断に当たっては、任命権者の意見を十分お聞きした上で、認定基準に照らしまして上外の決定をしていくということにしております。もちろん、任命権者の意見だけということではなくて、被災職員のもろもろの事情、作業態様、勤務形態、療養の経過等を十分検討した上、専門的な、医学的な意見を聴取した上で総合的に判断するものでございます。
ただ、かなり専門的な判断といいますか、医学的知見を含めまして要する事案も多々あります。そういう場合におきましては医学的知見が極めて重要な位置を占めてくると、そういう場合もありますので、最終的には必ずしも結果が任命権者の意見と合致しないというようなことも生ずる場合もございます。
それから、現場の調査をしているかどうかということでございますけれども、本部あるいは支部におきまして必要と感じた場合には調査をしております。ただ、基本的には、支部がございますので、支部が書面で十分調査をし、必要があれば現場の調査も行うということは基本になっております。
宮本岳志君 「所属部局の長の証明」、この資料に添付したものはもう明瞭に、「本人の妻が述べているように、精神的負担感が増幅し、自らの命を絶ったものと推察される。」と、こうはっきり述べているわけですね。それに対して基金は公務外という認定をしたわけですよ。
それから、医学的知見ということもおっしゃったけれども、私、関係者にずっと実情を聞いてきました。主治医の意見というのを幾ら付けたってこれは別だと。あなた方が本部で別のまたお医者さんから知見を引き出して、それで公務外という認定をすると。こういう事例もずっと続いているわけですよ。大体、現場に足を運ばない、基本的には書類主義で書類を上げさせるということをあなた方やっているわけですね。基本的にはそうでしょう。
どれぐらいの書類をあなた方が求めているかと。これも、今日はもう参考だと思ってこの資料に付けさせていただきました。
配付資料の2に、事前の説明でもらった過労死の場合の調査票というのを付けておきました。四枚にわたって微に入り細にうがった事項が並んでいると。あちこちに「別添ナンバー のとおり」とあるのは、この欄に入らないような資料を別に用意せよということです。それ以外の項目も、実際に書こうとすると別の紙に何枚にもわたるようなことを書かなければならないと。2の5には、「添付を要する資料の一覧」、二十までナンバーが付いておりまして、番号のない項目がそれ以外に十二、これを全部そろえるということが求められているわけですね。そして、資料の2の6には、「発症前一か月を超える期間の職務従事状況」と、こうあって、何月何日の午前中は何をして午後は何をしたかと、全部書けと、こうなっているんです。
実際にその書類をそろえるのは基金の本部でも支部でもないんです。認定を申請した当事者なんです。今の基金の支部には独自に資料をあれこれ作成するような体制は全くないんです。本部からこれをそろえろと言われれば、そのとおり申請者に丸投げするしかないんです。
一家の働き手を過労死や過労自殺で亡くしたばかりの遺族が、まず生計を立てる手段から始まって多くの負担や悩みを抱えている、そういうときに通知でこれらの書類を全部そろえろと、そういうことを言われたってこれは大変過重な負担になると、そういうふうに理事長、思われませんか。
山崎宏一郎君 二、三ございましたけれども、主治医の件でございますけれども、主治医の意見をこうやっておくというようなことは全くございません。主治医の意見として重要な意見ですから、それはそれで十分尊重しております。ただ、複雑な事案にありましては、それに加えまして複数の専門医の意見も加えて十分議論をさせていただくということでございます。
それからもう一つは、公務上の災害というのはなかなか、特に疾病事案は難しゅうございまして、公務の場でそれが起きたからすべて公務上かということにはまいりません。やっぱり、公務起因性といいますか、公務との関係があるということが必要なわけです。それをチェックするためにはやはりそれ相当な資料が必要でございます。
ただ、今、全部当事者へ負担が行っているというお話でございましたけれども、その中で多くのものは、所属長なり任命権者が積極的に協力して、できるものはやっておるというのが実態でございまして、当事者にその、委員お話しのような、というような実情にはないと我々は理解しております。
宮本岳志君 私、実際に添付資料というものも数々見せていただきましたよ。膨大なものですよ。これだけのものをそろえて申請するとどう考えても三けたというページ数にならざるを得ない資料をそろえて提出させるというのは、私は本当に、ある意味では公務災害申請しようという者のその気をなえさせると、そういうことではないのかと疑わざるを得ないです。
それで、大臣、やっぱりこの制度が災害に遭った公務員を本当に救う、こういう趣旨であるということはだれも異論のないところですけれども、もう少しその当事者にとって申請をきちっとしやすくする、負担にならないようにする、そういう改善も必要だと、そういうふうにお感じになりませんか、大臣。
片山虎之助君 公務であるかどうかの御認定をするわけですから、それはやっぱり慎重にやらなければなりませんし、不公平な結果が出るとまた問題になるわけでございますので、そういう意味ではいろんな書類が必要だということはそのとおりだと思いますけれども、必要最小限でする努力は引き続いてすることも併せて求められると思います。
宮本岳志君 そこで自治行政局に聞くんですが、今回の法改正で、本部協議制とかあるいは文書審査主義を変更するというような条文がどこかに含まれておりますか。
荒木慶司君 今回の法改正では、地方公務員災害補償基金の運営に関しまして地方団体が主体となって業務運営を行うことを内容とするものでございます。
公務災害の認定に当たりましては災害を受けた職員の任命権者の意見を聞かなければならないことになっておりますが、その他の認定手続等の実務に関する事項につきましては補償の実施機関であります基金の業務規定などにゆだねられておりまして、今回の法改正においても特に規定は設けてございません。
宮本岳志君 基金として、せめて労災並みに現場に人が行って調査するとか、せめて添付すべき書類の作成ぐらい基金支部でお手伝いしてできるような抜本的な人員の増員計画というのを総務省は持っているんですか。
荒木慶司君 今回の改正につきましては、先ほど来申し上げておりますように、基金の運営につきまして地方団体が主体的に行えるようにするということを内容としておりますので、基金の業務の基本につきましては改正等ございませんので、ただいまの点につきましては特に考えてはございません。
宮本岳志君 要するに、認定を申請する側にとっては、今回の法改正というのは別に中身として何の変わりも改善もない、今までと同じということなんですね。私ども、やっぱり改革というならばここにメスを入れる必要があるというふうに思っております。
<「新基準」以後も改善されていない>
宮本岳志君 そこで基金の理事長にお伺いしますが、昨年十二月十二日に理事長名で各支部に出した通知の目的を端的に説明してください。
山崎宏一郎君 十二月十二日に脳・心疾患関係の基準の改正通知を行っております。
これは、平成十二年七月に、最高裁が脳血管疾患に係る労災事件につきまして、業務の過重性の評価に当たり、慢性の疲労や就労態様に応じた諸要件を考慮する考え方を示し、国側敗訴の判決を行ったことから、労災制度を所管する厚生労働省は、この判決を踏まえて現行基準を見直すこととし、御指摘の平成十三年十二月十二日に認定基準を改正し、通達を発出しております。
また、国公災を所管する人事院におきましても、同日付けで認定指針を改正し、通知を発出いたしました。
基金におきましても、平成十三年四月、医学専門家で構成する研究検討会議を設置し、最新の医学的知見を得るとともに、労災及び国公災の検討内容も踏まえて、基本的に同様な取扱いとするものとし、労災及び国公災と同日付けで平成七年に定めました認定基準を改正し、新認定基準を発出したところでございます。
以上でございます。
宮本岳志君 民間では、この日に厚生労働省が示した新基準によって係争中の案件でも訴訟を取り下げるという事例が出ているんですね。また労災の認定に踏み切るという事例も生まれております。しかし、基金の方は、実際の認定はさっぱり改善されていないと。
そこで、具体的な事例を一つ挙げたいんですが、大阪の堺市立新金岡小学校に勤務していた鈴木均先生、九〇年の十月に帰宅途中に寄ったコンビニエンスストアの前で脳梗塞に倒れ、そのまま意識を取り戻すことなく、四日後に帰らぬ人となりました。当時この方は、学級担任としての仕事に加えて、体育主任、保健主事を兼任し、学級運営で特別に注意の必要な子供が集中したことや、堺市内の六年生六千人を集める連合運動会の当番校としての責任、社会見学の引率などの要因が重なって、倒れる一週間前の時間外勤務は三十四時間、一か月の労働時間は二百七十三時間以上にも及んだとのことであります。
この件に対する基金の態度は、こうした一つ一つの要素すべて通常の業務の範囲内だと、例年の行事だと、こう片付けて、全体としてこの先生がどういう状況になっていたのかを見ようとしていない。自宅に持ち帰った残業についても、成果物が明らかでないから大した負担ではないと、こういうふうに言っております。
新基準では、直前の一週間だけでなく長期にわたる疲労の蓄積も考慮されるとなっているはずですが、なぜこの件を新基準に基づいて見直さないんですか、理事長。
山崎宏一郎君 御指摘の案件でございますけれども、平成八年一月に公務外と認定しまして、訴訟に入ったわけですけれども、大阪地裁で基金側が勝訴しまして、現在、大阪高裁で係争中の案件でございます。
本事案は、公務過重性の評価に当たりまして、時間外勤務の取扱い、今お話のありました自宅作業の評価等が含まれておりますけれども、その取扱いが争点となっているものであります。仮に新認定基準に基づき当該事案の見直しを行ったとしても、基金側としては当初の判断を変更しなければならない理由は認められないものと考えている事案でございます。
宮本岳志君 厚生労働省、来ていただいていますか。
昨年十二月十二日、労働基準局の通達、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準の運用上の留意点等について」には、「リスクファクター及び基礎疾患の状態、程度を十分検討する必要があるが、認定基準の要件に該当する事案については、明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り、業務起因性が認められるものである。」と、こう書かれてありますが、これは間違いないですね。
政府参考人(高橋満君) 御指摘の点でございますが、今ございましたように、昨年十二月に脳・心臓疾患にかかわる認定基準を改正をいたしました際に、それの運用上の留意点という形で通知をいたしましたものの中に確かに盛り込まれた表現でございます。
宮本岳志君 正に一か月に百時間を超える残業を行っているというような場合には、明らかに業務の要因がないと認められる場合を除いて、これはもう業務上のものだというふうに認めるべきであるという基準で運用が始まっていると思うんですね。
ところが、基金は反論書を出して、甲状腺機能亢進症があるからとか糖尿病があるとか、あるいはたばこを吸っていたということを理由にして因果関係を否定する議論を続けている。
基金は過労死自殺や精神疾患についても九九年に新しい認定基準を打ち出しております。この九九年の自殺についての基準、これも厚生労働省との十分な連携の下で出した、そういうものですか、理事長。
山崎宏一郎君 そのとおりでございます。
宮本岳志君 厚労省との連携でやったということであれば、これは九九年十一月に厚労省の専門検討会が出した報告書が基礎になっているということだと思います。
ここに、これも資料に付けておきました。「遺書等の取扱い」というものがございます。「遺書の存在そのもののみで正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されていなかったとすることは必ずしも妥当ではない。」として、「むしろ精神障害発病の積極的証明と成り得るものもある。」と位置付けております。
ところが、先ほど見てもらった辻田氏の件、これは橋本市の事件ですが、基金の言い分は、本件における遺書の数、記述の明晰さ等を検討すると、正常な認識、行為選択能力及び抑制力が著しく阻害されている状態であったとすることは困難だと、遺書があるからこれは確かだったんだと、こういう言い分なんですね。これは、私、以前からちゃんとしていたから何も変える必要がないというような議論は到底通らないと思うんですよ。
じゃ聞きますけれども、新基準が出た昨年の十二月の十二日の時点で係争中だった裁判のうち、基金が取り下げたものがありますか。また、係争中の案件以外で認定の変更が一つでもありましたか、基金。
山崎宏一郎君 その前に、今の遺書の件でございますけれども、厚生労働省の方、新認定基準が出ておりまして、従来の遺書の取扱いの考えと考え方を若干変えております。基金の方も全くその点については同様でございます。遺書が存在したことのみをもって故意による自殺と判断することはございません。むしろ、遺書の内容、書き方及び作成時期、精神疾患の罹患状況、自殺を図るに至るまでの経過等を総合的に検討すべきものとして遺書は一つの資料として扱われるというふうに理解しております。
それから、もう一つでございますけれども、係争中だった裁判案件、そのうち変わったもの、取り下げたものがあるかということでございます。
平成十三年十二月十二日現在で係争中だった訴訟の件数は三十八件でございます。このうち、通知の対象であります心血管疾患及び脳血管疾患等に係るものは十六件でございますけれども、これらのうち、その後基金が取り下げたものはございません。
宮本岳志君 何もだから見直してないということだと思うんですよ。
<最高裁の判決にも反する判断に固執>
宮本岳志君 私は、この事件、勉強させていただいて、本当にひどいなと。和歌山の辻田さんの件、この鈴木先生の件、あなた方の書類を読んでいると、よくもこんなに冷酷なことを言えるものだと、本当にそういうふうに感じます。
次に、時間もありませんので、保育士の頚肩腕障害、腰痛についても聞きたいと思うんです。
私の地元吹田市で一九八〇年八月に認定請求を行った東海保育士事件は、基金の公務外認定をめぐって裁判で争われ、九四年二月九日、ついに、十四年の歳月を経て大阪高裁で公務外認定処分取消し請求容認の判決を得ました。次いで、一九九七年十一月二十八日、最高裁は横浜市鈴木保育士事件で、保育士の業務と頚肩腕症候群との一般的な因果関係を認める判決を行いました。そして、今年の四月十二日、大阪支部において東大阪市の二名の保育士の頚肩腕障害について公務上認定が下されました。
ところが、何と、この八月、神奈川支部は保育士岡野三重子さんの事例について、保育士の業務が上肢に負担の掛かる作業を主とする業務とは認められないとの理由で公務外認定を下しました。
理事長、これは鈴木事件最高裁判決の趣旨に明確に反するのではありませんか。
山崎宏一郎君 先ほどの係争中の案件の件でございますけれども、地公災におきましては、脳・心臓疾患に係る過重性の評価に当たりまして、かねてより、特別な事情がある場合には十分配慮した上で認定を行う取扱いとしております。したがいまして、脳・心臓疾患事案について新旧認定基準を比較してもそごは生じないものと判断しておるということでございます。
それから、今御指摘の、御質問の件でございますけれども、鈴木事案に係る最高裁判決の趣旨でございますけれども、保育所の保母にかかわります頚肩腕症候群の事案でございます。ただ、これは安全配慮義務違反による民事上の損害賠償請求が問題とされたものでございまして、同判決をもって一般的に保母の業務に公務上の公務起因性、すなわち職業病的なものがあると認められたものとは考えてはおりません。
御指摘の請求事案につきましては、公務に起因して頚肩腕症候群が発症したとするものでございますけれども、認定におきましては、本人の従事していました業務が上肢等に過度の負担の掛かる作業を主とする業務に該当するものであるか否か、及び公務に起因することが明らかな疾病に該当するか否かを判断し、公務外の災害と認定したものでございます。
宮本岳志君 聞いたことだけに答えてくださいよ。
この鈴木事件で、基金は正にあなた方が九年四月一日理事長通知で示した基準について争ったんですよ。あなた方の言い分は、保母の業務は長時間にわたり同一の動作や同一の作業を反復するものではないから上肢に負担の掛かる作業を主とする業務とは言えない、こう主張したんです。あるいは、鈴木保母の保育所は厚生省の定めた児童福祉施設最低基準に違反しておらず特に劣悪なものでなかったんだと、こう言って、この基準に照らして公務上とは認められないという争いをやったんですよ。
最高裁判決は明瞭ですよ。保母の保育業務は、長時間にわたり同一の動作を反復したり、同一の姿勢を保持することを強いられるものではなく、作業ごとに態様は異なるものの、上肢、頚肩腕部等にかなりの負担のかかる状態で行う作業に当たることは明らかだ。保母一人当たりの園児数等は児童福祉施設最低基準に違反するものではなくとも、その負担の程度が軽いものということはできない。つまり、鈴木保育士個人だけでなく、一般論として保育業務と頚肩腕症候群の因果関係も認めた判決なんですよ。
なぜ、この九月四日の理事長通知、これを最高裁鈴木判決に従って変更しないのか。もう一度答弁いただけますか。
山崎宏一郎君 最高裁判決、先ほど申し上げましたように、民事上の損害賠償請求ということでございます。いろいろ保育所全般の議論ももちろん行われておりますけれども、個別の作業態様とか作業量、勤務形態、人員配置の状況、それらも個別にいろいろ検討をされておるわけです。そういう個別に検討するという視点は我々も全く同じでございまして、現在、頚肩腕症候群認定基準上に、一つは職業病的な扱いをされるものが一つ、それからそうでなくて個別に検討されるもの、その二つが挙がっております。
保育所の保母につきましては、やはりケース・バイ・ケースに個別にもろもろの事情を見ながら、該当するものは該当する、該当しないものは該当しないというふうに扱っておりますので、特段、認定基準は従来のとおりでよろしいかという判断をしておる次第でございます。
宮本岳志君 そんなこと言っているから時代後れになるんですよ。
大体、ここに私、持ってきたのは、平成九年二月三日、労働省労働基準局補償課長名の都道府県労働基準局労災主務課長あて事務連絡、持ってきました。「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準の運用上の留意点について」という、これ厚生労働省の労災の文書なんですよ。これは、あなたのようなことやっていないですよ。この文書の中には、上肢の反復動作の多い作業と対象業務の中にちゃんと保育って入っているんですよ、保育業務が。あなた方だけが、保育業務というのは直ちに上肢作業に基づく疾病、反復、上肢の反復動作の多い作業に直ちに当たらないと、個々を判断するんだと言っているのであって、ちゃんと労災の方はそういう運用に変わってきているんですよ。
<職員の大半が自治省・人事院の天下り>
宮本岳志君 しかも、この頚肩腕の公務災害認定も先ほどの過労死と同じ書類主義であなた方はやっている。これ、持ってきましたよ。これくらい書類が要るんですよ。これはある保育士の支部審査会提出分の一回分の書類ですけれども、これだけのものを頚肩腕で苦しむ本人に用意させるというのがあなた方のやっていることなんですよ。嫌がらせ以外の何ものでもないじゃないですか。
私はこういうことでは、大臣、とにかく救うためにある制度だと言うんだけれども、やっぱりもっと公務員というものの、地方公務員の日々の頑張りにこたえて、これはやっぱりできるだけ救うと、できるだけ救うという立場でこのことに当たる必要があると、そういうふうに思うんですけれども、これは大臣、そういうふうにお感じになりませんか、このやり取り、聞いていただいて。
片山虎之助君 公務災害に認定できるものはできるだけ救うんですよ。認定できないものはそれは救っちゃ制度をゆがめますからね。いろいろ委員も個別具体の例ばっかり出されました。今日は何か独立行政法人じゃないような審議でございますけれども、基金の方も私は基金なりにいろんな努力をしていると思いますので、ただいろんな御注文、御要請があれば十分受け止めてしっかりと検討はしてもらいます。
宮本岳志君 やっぱり改革という点で、私は本当に、例えば市長が意見を付けても、あるいは教員の例で学校長が意見を付けても、公務外といって返ってきたという事例、聞きましたけれども、本当に地方分権の精神で改革するというのだったら、やっぱり基金の本部が全部、全部というか重要案件は審査で決めるとか、あるいはそのまた基金の本部に結局中央省庁から再就職という形で天下りして、そこでやっぱり決めていくということを改める必要があると思うんですね。
それで、基金の本部の常勤の役員は何人いるか、そのうち、総務省、旧自治省、人事院の出身者はそれぞれ何人か。総務省、お答えいただけますか。
荒木慶司君 基金の常勤の役員でございますが、現在三名おりまして、総務省出身者が一名、人事院出身者が二名でございます。
宮本岳志君 職員をお願いします。
荒木慶司君 失礼いたしました。
基金本部の職員は、平成十四年十月一日現在、四十五名でございまして、内訳は、総務省が三十五名、人事院が五名、プロパーが五名でございます。
宮本岳志君 もうとにかく総務省と人事院で占められているわけですね。
今回、出されている法案の中にはこの中央省庁出身者の新しい法人への再就職を規律するような何か条項というのはあるんですか。
荒木慶司君 現在、基金の理事長及び幹事につきましては総務大臣の任命となっておりますが、今回の改正によりまして理事長及び幹事の任命につきましては、地方公共団体の代表者から成ります代表者委員会が行うこととなりますので、その人選につきましては代表者委員会において適切に行われるものと考えているところでございます。
宮本岳志君 総務大臣は不適切に任命してきたわけじゃないでしょうから、そこで適切にやったって、今までどおりやるというだけのことでしょうが。何らその再就職、天下りをどうこうするという規定はないんですよ。現に、山崎理事長だって人事院事務総長御出身というふうにお伺いをいたしました。
結局、今後とも従来どおりと、組織形態だけが変わると、こういう代物なんですよ。そして、本当に改善されなければならない点はやはり何らメスは入らないと。あらゆる意味で何も変わらないと。これが改革の看板だけで何も中身を持たないものだと、私どもが指摘するゆえんなんです。
小泉内閣の特殊法人改革なるものは、国民が求める真の改革の内容はほとんどなく、言わば看板の掛け替えにすぎないと思います。このような偽りの改革ではなく、地方公務員の災害補償制度を、公務災害補償制度を本当に救われるべき者が救われる制度に改革するため、我が党は自治体労働者の皆さんとともに全力で取り組むということを申し上げて、質問を終わります。