156 – 参 – 総務委員会 – 8号 平成15年03月27日
平成十五年三月二十七日(木曜日)
午前十時開会
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委員の異動
三月二十六日
辞任 補欠選任
高橋 千秋君 川橋 幸子君
三月二十七日
辞任 補欠選任
川橋 幸子君 岡崎トミ子君
輿石 東君 岩本 司君
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出席者は左のとおり。
委員長 山崎 力君
理 事
景山俊太郎君
世耕 弘成君
山内 俊夫君
伊藤 基隆君
辻 泰弘君
委 員
泉 信也君
小野 清子君
加藤 紀文君
岸 宏一君
久世 公堯君
椎名 一保君
谷川 秀善君
森元 恒雄君
岩本 司君
岡崎トミ子君
川橋 幸子君
高嶋 良充君
内藤 正光君
木庭健太郎君
山下 栄一君
八田ひろ子君
宮本 岳志君
松岡滿壽男君
渡辺 秀央君
又市 征治君
国務大臣
総務大臣 片山虎之助君
副大臣
総務副大臣 若松 謙維君
総務副大臣 加藤 紀文君
大臣政務官
総務大臣政務官 岩永 峯一君
事務局側
常任委員会専門
員 藤澤 進君
政府参考人
内閣府経済社会
総合研究所総括
政策研究官 大守 隆君
総務大臣官房審
議官 衞藤 英達君
総務省人事・恩
給局長 久山 慎一君
総務省自治行政
局公務員部長 森 清君
総務省情報通信
政策局長 高原 耕三君
総務省政策統括
官 清水 英雄君
財務省主計局次
長 杉本 和行君
厚生労働大臣官
房審議官 新島 良夫君
厚生労働省健康
局長 高原 亮治君
参考人
日本放送協会会
長 海老沢勝二君
日本放送協会専
務理事・技師長 吉野 武彦君
日本放送協会専
務理事 板谷 駿一君
日本放送協会理
事 山村 裕義君
日本放送協会理
事 笠井 鉄夫君
日本放送協会理
事 山田 勝美君
日本放送協会理
事 安岡 裕幸君
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本日の会議に付した案件
○理事補欠選任の件
○政府参考人の出席要求に関する件
○恩給法等の一部を改正する法律の一部を改正す
る法律案(内閣提出、衆議院送付)
○参考人の出席要求に関する件
○放送法第三十七条第二項の規定に基づき、承認
を求めるの件(内閣提出、衆議院送付)
○消防組織法及び消防法の一部を改正する法律案
(内閣提出)
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<明白な「取り扱いの不平等」が出発点>
宮本岳志君 日本共産党の宮本岳志です。
今日は、シベリア抑留者賃金未払問題について、大臣と政治家としての議論をしたいと思っております。
昨年末、近畿地区シベリア抑留者未払い賃金要求の会の代表がお亡くなりになりました。実は、亡くなる直前に私に連絡があり、私が病院に駆け付けると既に酸素吸入を受けておられました。その方は、私の手を握るやチューブを外してベッドに起き上がられて、我々の命が尽きる前にこのシベリア抑留者の声を政府と国会は受け止めてほしいとお訴えになりました。そして、ほどなく私の下に訃報が届いたわけであります。
私は、この問題の出発点は、終戦後、太平洋や東南アジアあるいは中国南部地域で連合軍に降伏し捕虜となった旧日本軍将兵に対しては、政府は抑留期間の長さに応じた賃金を労働証明書や計算カードに基づいて支払ったと。ところが、シベリア抑留者は労働証明書の発行が受けられなかったため政府から賃金の支払を受けられなかったという、この歴史的事実だと思うんです。
まず大臣に、こういう事実が存在するということ、これはお認めになっていただけますね。
国務大臣(片山虎之助) これは、総務省は承知する立場にないんですよ。
我々は、例の懇談会が五十九年に報告書を出して昭和六十三年に平和祈念事業特別基金というものができて、それを所管してくれと。それは慰藉の事業をやるんですよ。だから、言われるような問題について、総務大臣や総務省は関知する立場にありません。
宮本岳志君 政治家としてそういう話は多分御存じだと思うんですね。話は御存じだと思う。
抑留された人の総数は、旧ソ連の公式記録でも約六十六万人。死亡者は一割の六万人に上るといいますけれども、最近、北朝鮮に移動させられた人のうち一万二千人が亡くなったという報道もあって、死者は八万人以上に上るという見方もございます。
先ほど、大臣も、昭和五十九年の戦後処理問題懇談会報告を根拠に、未払賃金の支払をしない、慰藉だと答弁されました。しかし、問題は、この報告では触れられていない取扱い上の不平等なんです。つまり、このときにはこの問題は議論されてないんですね。米英軍やオーストラリア軍、中国軍の捕虜になって復員した人々には賃金が支払われたと。ソ連軍捕虜も、このときにはまだ労働証明書というのは出ていなかったんです、この懇談会の当時は。しかし、今やロシア政府は過去を反省し労働証明書を発行するようになった、にもかかわらずこれらの人々には賃金の支払がされてこなかったと。このことについて取扱い上の不平等があるのではないかと、これはおかしいと思わないのかという問題なんですよ。
これは大臣、どうお考えになりますか。
国務大臣(片山虎之助) 宮本委員の言う御意見は御意見として聞いておきますよ。
それから、話は、話は聞いていますよ。あなたを始めとして国会でこれだけ議論されているんですから。しかしそれは、何度も言いますように、それは承っているだけであります。
宮本岳志君 各委員会でこの問題の議論をやる中で、一体この所管がどこの委員会、省庁であるかと。それで、とにかく幾つかの委員会、幾つかの省庁にかかわるわけですけれども、基本的に現内閣の中で総務省がこれを所管しているという、そういうお話も出ておると思うんですよね。
それで、取扱い上の不平等ということが極めて私は明瞭だと思います。抑留国が捕虜の帰国時に労働証明書を交付して、帰国後に所属国が賃金の支払を行う、以後の貿易収支で決済するという第一次世界大戦以来行われてきたルールについて、外務省は今、ジュネーブ条約に明文化されたのは一九四九年だから遡及しないんだと、こう言っております。
<何を聞いても答弁拒否の片山総務大臣>
宮本岳志君 私は、これを覆す資料を外務省の外交史料館から入手いたしました。
資料1を見ていただきたい。これは、一九四六年五月七日にGHQが日本政府に対して示した覚書、「復員」という表題が付いております。ソ連を含む連合国の捕虜になった日本将兵の帰国についての施策内容を示したものです。ここには、各国軍から発行された労働証明書や計算カードに基づく日本政府による賃金支払等について書かれております。
そして、一枚目のこの表紙部分、この方針の適用地域の中に、コマンド イン チーフ ソビエト フォース イン ザ ファー イーストと。つまり、極東でのソ連軍支配地区が含まれているということは明瞭であります。これは、日本政府の捕虜の復員計画では、他の地域と同様に、ソ連軍に捕らえられた将兵に関しても賃金支払を含む施策の運用を予定していたと。つまり、当時、GHQはそういうふうに予定していたということを示しております。
これを受けて、日本政府は、賃金支払をするために、当時のソ連政府に受領証、すなわち労働証明書の発行を働き掛けてほしいと。資料2に付けた、GHQに関する日本政府の要請書。ソ連政府発行の受領証を持ち帰っている場合にあっては日本政府はソ連政府に代わって受領証に対し支払うと、こう書かれてあります。
つまり、当時は、GHQはシベリア抑留捕虜も賃金支払対象に加えていたと、そして、それを受けて我が国もソ連からの帰還捕虜に賃金支払をしようとしていたと。これはこれらの文書から私は明確だと思うんですけれども、大臣、ひとつ政治家として、これをどうお考えになるか、お聞かせいただけますか。
国務大臣(片山虎之助) この問題は、何度も言いますが、総務省の所管じゃないんですよ。所管が全く違う。それでまた、この文書も私どもの所管でもないし、中身は承知しておりませんよ。
政治家政治家って、ここは国会で、総務大臣として私は出ているんで、総務大臣としては所管外のことに答える立場にはありません。
宮本岳志君 このシベリア抑留の問題というのが当委員会でも衆議院でも議論されたことは大臣も御存じですよね。御存じですよね。そこで、大臣も、そのときは政府参考人もいらっしゃったと思いますけれども、その場で質疑に立ち会われたと思います。
これは、やっぱり出発点は、シベリア抑留者の方々がこれはもう党派を超えて何とか命の尽きるまでに解決してほしいという願いを届けておられる。国会でも再三にわたって議論されてきたことなんですよ。
私は、今日、他の委員の皆さんにも、今後の皆さん方のこの問題に取り組む参考になろうかということも含めて、私が入手した資料を御紹介をして、この取扱い上の不平等ということは党派じゃないと、政治家であればだれでもこのことを事実として知れば胸痛まない者はないだろうということをお訴えをしたいし、これはもちろん立法上の措置ということも議論になってくるわけであります。
それで、私は、先ほどこの資料も示したように、これらの文書に従って、日本政府はソ連も含むすべての捕虜に対して労働証明書に対する賃金支払をしようとしていた、しかし、ソ連からの帰還捕虜には労働証明書が当時発行されなかった、だから賃金支払ができなかったと。これが私は現到達点だと思っています。
そして、九一年以降、ロシア政府はついに希望する抑留者への労働証明書発行を開始した。九四年十月に日本政府にその事実を通告しました。資料の3にロシア連邦外務省から日本大使館にあてた九四年十月十八日付け通知の現物と、そして仮訳を付けておきました。
ここには、「ロシア側は各個人の要請に基づき、旧ソ連領において捕虜に囚われていた日本国民に対し、第二次世界大戦の終結後捕虜に捕られていた期間の公式の労働証明を交付することを伝える光栄を有する。」とあります。
この通知の真髄は何かと。これは、このロシア政府発行の労働証明が公式のものであるということで、当然ここにはジュネーブ条約に定められた国際ルールに従って旧ソ連軍捕虜の未払賃金問題は解決されるべきものだというロシア側の姿勢が示されていると思います。現にロシアはその後、エリツィン大統領がシベリア抑留について正式に謝罪する、併せてルツコイ副大統領も日本政府が労働証明書を公式の文書と認めるよう要請もされているわけです。
是非、こういう個人の、仮に個人の要請に基づく文書であったとしても、ロシア政府が公式に出したと、こう述べている以上、この労働証明書を公式文書というふうにやっぱり認めるべきだと思うんですけれども、いかがでしょうか。
国務大臣(片山虎之助) もう何度も同じことを申し上げていますが、この外交にかかわる文書がどうのこうのというのを私がとやかく言う立場にありませんよ。どうぞ外務委員会でもどこでも、そういうところで大いに議論していただきたい。
宮本岳志君 まあ、擦れ違いということですけれども。
<補償実行への物理的な障害は何もない>
宮本岳志君 じゃ、私は、じゃ今日お伝えしていること、私が今日ここでお話ししていることというのは是非、大臣受け止めていただきたいと思うんですよ。片山さんとして受け止めていただきたいと。
そして、敗戦後、抑留者への賃金支払を不能にした条件、これは正に労働証明書がないということだったんですね、シベリア抑留者に対しては。これは既にこういう形でクリアされたわけです。
それで、資料4に付けたんですけれども、ゴルバチョフ時代以降今日までロシア側から返還された旧ソ連内務省の捕虜の個人記録、これは実は帰還者四十七万人分が返還され、現地死亡者約四万人分についても返還されました。厚労省社会・援護局が十二月から始めた抑留者に関するロシア側資料のコピー提供業務で公開された実はお一人お一人の資料というのは、こういうものなんですね。これは労働証明書発行の現地資料の一つでありまして、ソ連軍の捕虜になった年月日、収容所の名称、収容所から釈放された年月日などがすべて記載されております。そのほかに、所属していた部隊、階級、日本での出身地や住所、家族の有無等についてもロシア語で記載をされています。
これがあれば、四十七万人分もう既にあるんですけれども、わざわざ労働証明書を個別に請求しなくても、支払われるべき未払賃金額というのは既に分かるようになってきているんですね。労働証明書は既に三万四千人分発行されている。さらに、大多数の抑留者についても、これらの資料によって賃金支払の資料というのはもう入手されていると。物理的な障害というのはもうもはや何もないというのが今の状況だと思うんです。
資料の5に、これは判決です。昨年六月、大阪高裁第二部判決(ネ)第百十八号の抜粋を付けておきました。ここでは、こう判示したんですね。前回衆議院の議論で大臣は最高裁判決をお述べになりましたけれども、これは昨年の大阪高裁の判決なんです。控訴人らはシベリア抑留の悲惨さを述べ抑留そのものに対する憤りを訴えるにも増して、少なくとも、捕虜の労働賃金は支払われるべしとの国際法上当然のことを要求しているにすぎないのであり、現に南方捕虜、諸外国の捕虜が労働賃金の支払を受けているのに対し、シベリア抑留捕虜のみが労働賃金の支払を受けていないことに対しても強い不公平感を抱いており、その立法的措置を講じない立法府、あるいはその提案をしない行政府に対しても、その点に強い憤りを抱いていることは、当法廷の審理を通じて当裁判所にもひしひしと伝わってくるところである、そう述べた上で、控訴人らのシベリアでの艱難辛苦に比べれば、到底不十分であると考えられるにしても、立法府においても、一定の立法措置や慰藉の措置、これは大臣が答弁された慰藉事業のことです、こういうことが講じられてきたことなどを考慮すると、立法府が十分な立法措置を講じていないことや、行政府がその立法の提案をしないことをもって、その当不当はともかく、裁量の範囲を逸脱した違法なものとまで言うことは困難であると。
つまり、いまだ立法がない下では政府に支払う義務まではないと、それは言っていますよ。しかし、未払賃金を払ってはならないというようなことは一切言っていないわけですし、それどころか、そういう立法措置のないことの当不当はともかくと、ここまで大阪高裁は踏み込んで判示したわけです。だから、政府と国会がその気になりさえすれば、未払賃金の支払を実行する法的な障害はないと、これは明瞭だと思うんですが、大臣、これどうお考えになるかお聞かせいただけますか。
国務大臣(片山虎之助) 政府としましては、戦後処理問題に関しては、例の懇談会の報告を尊重して、その提言に従って基金を作り、基金に関する法律を作って慰藉事業を行うと、これをもって戦後処理問題はもう決着したと、こういう考え方でございますので、あとは立法府でどういう御判断をされるか、立法府の中で大いに御議論賜りたいと思います。
宮本岳志君 責任持った判断を避けておいて最終的に決着したというのは私は到底認められないということを申し上げて、質問を終わります。